調布市の陥没事故、外環道工事前のボーリング調査がずさんだった!?

調布市の陥没事故、外環道工事前のボーリング調査がずさんだった!?

裁判後の報告集会で発言をする國井さわ美さん。自身も大深度ルートの直上に住む

◆用地交渉も補償も不要、事業者にとって都合のいい「大深度法」

「フェーズが変わった」

 11月24日。東京地裁での「東京外環道訴訟」第9回口頭弁論のあとの報告集会で、原告のひとりである岡田光生さん(72歳)がそう語った。筆者は過去数回、この裁判の傍聴をしているが、確かに「フェーズが変わった」。被告の国と東京都が言い逃れのできない事実が次々と出てきたからだ。

 事実とは、それまで被告が「地表に影響を及ぼすことはない」と明言していたのに、東京都調布市の住宅街で陥没事故が起きてしまった。そしてその後、地中の空洞が発見された。少なくとも原告のこれまでの訴えが間違っていないことは証明されたのだ。裁判の風向きは完全に原告側有利に変わった。

 調布市の陥没事故は、その地下での「東京外かく環状道路」(外環道)のトンネル工事を原因視する報道がされているが、その住宅街の下での工事を可能にした「大深度法」についてはほとんど報道されていない。加えて、「東京外環道訴訟」がその「大深度法」の違憲性や危険性を訴えた裁判であることもほとんど報道されていない。

 大深度法とは2001年に施行された法律で、大ざっぱに説明すれば「大深度=地下40m以深」であれば、事業者は地上の地権者との「用地交渉も補償も不要」と定めた法律だ。

 たとえば都心部においては、地下鉄などの地下トンネルを掘る場合は極力、幹線道路の下にルートが採られている。家屋が存在しないことで用地交渉が不要であり、道路管理者である国や自治体から建設許可を得るのが容易であるからだ。

 逆に言えば、住宅街の地下にルートを採ると、すべての地権者からの地下使用の承諾を得るのに長大な時間を要し、補償金や賃借料も払わねばならない。だが、大深度法ができたことで、その時間も費用もゼロになる。事業者にはとても都合のいい法律だ。

◆外環道計画沿線の住民が、大深度法の無効化を求めて提訴

 大深度法が最初に適用されたのは、神戸市での水道管敷設事業。その次が、千葉県・埼玉県・東京都を円弧上に走る外環道の東京都内ルートだった(千葉と埼玉は高架で完成している)。

 だが、神戸市でのトンネル工事が直径3mだったのに対し、外環道のトンネルは直径16mと5階建てビルに匹敵する。しかも2本を並行して掘る。

 これにより、その計画時点から16Kmに及ぶ計画沿線(練馬区、杉並区、武蔵野市、三鷹市、調布市、狛江市、世田谷区)の住民らは、「いかに大深度であれ、そんな巨大な穴を空けたのでは、地表に振動や騒音、家屋へのヒビや地面崩落が起きるのではないのか」と、その不安を事業者であるNEXCO東日本とNEXCO中日本に訴えてきた。

 だが両社は住民説明会などでは常に「大深度での工事は地表には影響しない」と明言してきた。そして住民に正式な通知をすることなく、直径16mもの巨大掘削機、シールドマシンでの掘削が始まった。南端の東名高速道路(世田谷区)からは2017年2月、北端の外環大泉IC(練馬区)からは2019年1月に開始された。

「勝手に地下を通るとは。これは憲法29条が保証する財産権を侵害する法律だ」

 こう判断した13人の沿線住民は、2017年12月19日、国(国土交通省)と東京都を相手取り、「大深度法」の違法性や危険性を明らかにする「東京外環道訴訟」を起こした。正式名称は「東京外環道大深度地下使用認可無効確認等請求事件」。

 国はNEXCOに大深度使用許可を出し、国と東京都はその前提である都市計画事業承認・認可をしたからだ。2018年3月13日。その第1回口頭弁論で原告のひとり、岡田光生さんは意見陳述で大深度法の無効化を訴えた(概要)。

「地権者の私は、国・事業者から、自宅の地下でのトンネル掘削について一切正式な通知をいただいたことはありません。住宅地の真下に危険なトンネルを掘る暴挙を許しているのは大深度法です。陥没事故の恐れを抱きながらの生活を強いることは許されません」

 もう一人の原告の國井さわ美さんも「東京外環道が作られる事によって、大気汚染や騒音・振動、地盤沈下・隆起・陥没が起きる心配があります」と、住民たちがすでに陥没を危惧していたことを明かした。

◆有識者委員会の小泉委員長も「因果関係がないとまでは言い切れない」

 シールドマシンが稼働すると、沿線各地では「震度2〜3級で家が揺れる」、「コップの水が揺れている」、「ゴゴゴという音が聞こえる」などの苦情が上がった。筆者のもとにも2020年8月に、「アパート全体が揺れている。調べてみたら、アパートの真下でシールドマシンが掘削をしています」など数件の情報が寄せられた。

 そして、陥没事故が起きた現場では9月14日にシールドマシンが掘削をしていて、その約1か月後の10月18日に陥没が発生した。

 NEXCOは未だに「工事と陥没との因果関係」を認めないが、国土交通省、NEXCO東日本と中日本は、外環工事の技術的検討を行ってきた「東京外環トンネル施工等検討委員会」の中に「有識者委員会」を立ち上げ、小泉淳委員長は「因果関係がないとまでは言い切れない」と発言している。可能性の一つとして、「シールドマシンが土を取り込み過ぎたことで空洞がつくられ、その周辺が時間の経過とともに緩み陥没したかもしれない」と。

 その後、陥没現場のすぐ近くで2つの空洞が地中に発見され、工事再開の目途はまったく立っていない。

◆工事を始める前の調査がずさんだった!?

 今回の第9回口頭弁論は、まさしくこの事故の直後に開催された。この日も2人の原告が意見陳述をしたが、そのひとり、國井さん(前出)の意見陳述を紹介する(概要)。

「私は第1回口頭弁論で、振動・騒音・地盤沈下・隆起・陥没が起きる心配を述べましたが、この心配が現実になりました。今年8月から9月にかけて振動・騒音・地盤沈下などの苦情が住民から事業者に入っていたのに、事業者は原因究明しないまま工事を進めてきました。

 住民に真摯に向き合わなかった報いなのでしょうか、陥没が起きました。事業者はさんざん『大深度なら心配いらない』と言ってきたのに陥没したのです。

 私たちは何度も『命の保証はしていただけますか?』と問いかけても『大丈夫、安心してください』と回答されたことは一度もなく、『全力を尽くします』と返されるだけでした。全力を尽くした結果の陥没だから、命の保証など夢のまた夢だということがわかりました」

 そして國井さんは、「もし空洞が工事前からあったのであれば、(それを発見できなかった)事前調査がずさんだったということになる。大深度法では『事業を遂行できる十分な意思と能力がある者』を事業者の要件としているが、事故が起きた以上は、法に抵触していることになる」として陳述を占めた。

 原告側弁護士も、NEXCOの事前調査の甘さを指摘した。たとえば、大深度工事を行う場合の指針のひとつ、「大深度地下使用技術指針・同解説」では、事前のボーリング調査は「200mおき」を目安としているが、弁護士は東京外環でのボーリング調査は平均「992mおき」でしかないこと訴えた。

 実際、陥没が起きてからNEXCOは陥没現場周辺で急ピッチでボーリング調査を開始。その結果、地中の空洞が発見されたのだ。

 この日は被告からの反論はなかったが、東京外環の直上での陥没と空洞という物理的被害を否定できない以上、被告は次回以降どう反論するのか注目しなければならない。工事を再開すれば高い確率でまた陥没が起き、へたをすれば人身事故につながるだけに、関係者らは急展開する裁判を熱く見守っている。

<文・写真/樫田秀樹>

【樫田秀樹】

かしだひでき●Twitter ID:@kashidahideki。フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。

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