東欧のコロナショックに立ち向かう日系中小企業の奮闘。板金プレスメーカーが高性能マスクを生産し、現地教育機関に寄贈

東欧のコロナショックに立ち向かう日系中小企業の奮闘。板金プレスメーカーが高性能マスクを生産し、現地教育機関に寄贈

高性能マスクの寄贈式には宮島明夫・駐ポーランド日本国大使(中央)も出席した

 世界各地で再びコロナショックが押し寄せ、日本でも医療崩壊の危険性が叫ばれている年の瀬。中小企業も壊滅的な打撃を受けているが、そんななか明るいニュースが舞い込んできた。

◆板金プレスメーカーが高性能マスクを生産!?

 舞台となっているのは、大晦日に戒厳令まで導入される予定のポーランド。欧州各国と同じく秋から感染者が増大し、飲食店などは軒並みテイクアウトのみの営業。大型商業施設なども一部の店舗を除いて営業が停止している。

 そんな暗い雰囲気を打ち破ったのは、なんと日系中小企業。物語の主役は主に自動車部品などを製造している創美クラフト・ポーランド(以下、創美ポーランド)だ。

 当サイトでは以前も同社の試みを紹介したが、コロナショックが押し寄せ、大手自動車メーカーなどが工場の操業を一時中止するなか、下請けである創美ポーランドも当然その影響を受けることとなった。

 そんな危機的状況のなか、創美ポーランドはまったくの異業種である高性能マスクの生産に乗り出した。当然、それまでマスク作りの経験はゼロ。言わば「日本の町工場」が、遠い異国の人々を手助けするため、新たなチャレンジに乗り出したわけだ。

 細かい経緯については過去の記事をご覧いただきたいが、紆余曲折ありながらも、ついに同社のマスクは無事に完成。今年春に生産に着手し始め、11月には医療機関の認証を取得。同月販売を開始するという異例のハイスピードで、現地教育機関への寄贈式が行われる運びになった。

 繰り返しになってしまうが、創美ポーランドは普段は自動車や空調用の精密部品を製造している板金プレスメーカーである。コロナショックが直撃しながら、高性能マスクという、まるで異なる製品をこれだけ短い期間で製造するというのは、並大抵のことではない。

◆現地従業員からも明るい声が

 寄贈式に先立っては、宮島明夫・駐ポーランド日本国大使、モギレンスク群のノヴァツキ郡長らが同社の工場を視察した。

 精密部品を製造するロボットと、現地ポーランドの従業員が並んで作業する現場について、宮島大使は「テクノロジーと人だけでなく、人と人との繋がりが感じられる」と視察後の会談でコメントした。

 ポーランドに限らず、日系企業のなかには「日本式」の働き方を一方的に押しつけたり、現地従業員との間に摩擦が生じるケースも少なくない。しかし、こと創美ポーランドに関しては日本人、ポーランド人、そして最新鋭の設備がひとつとなったことが、今回のマスク生産を実現させた原動力であることは間違いない。

 同社取締役の浅野慶一郎氏は「ファミリー」であることを強く意識しているそうだが、実際に現地の従業員に(こっそり)話を聞くと、「他の企業に比べて待遇もいいし、働きやすい」「職場の雰囲気がよくて、一体感が感じられる」といった声があがった。

◆「町工場」が国と国の架け橋に

 モギレンスク群の役場において行われた寄贈式では、宮島大使、ノヴァツキ郡長、創美ポーランドの浅野取締役に加え、クヤフスコ・ポモルスキ県のグラリク教育委員会長、ピォトロヴィチ教育施設長、ポーランド教育機関(Youth Educational Center for Boys in Strzelno)の生徒などが出席した。

 マスクを寄贈されたポーランド教育機関ではスポーツや芸術を通した教育も行っており、寄贈式では生徒たちが製作したラップのミュージックビデオが流れる一幕も。コロナショックで緊張が続くなか、生徒たちのプレゼンテーションは、束の間の清涼剤となった。

 一方、宮島大使のスピーチはなんとポーランド語で始まった。今年10月に着任したばかりの日本大使が現地語でスピーチを行ったことは、出席していたポーランドの関係者にとってもサプライズだったようで、寄贈式のあとに話を聞くと好意的な声が返ってきた。以下は、スピーチの抜粋である。

 「昨年、日本とポーランドは国交100周年を迎え、両国は経済・文化などの各方面において緊密かつ良好な関係を築いております。ポーランドには300社以上の日本企業が進出しております。

 COVID19の第一波が発生した今年の春、創美クラフト・ポーランド社から、『ポーランドのために何かをしたい』という提案がありました。本日、このような素晴らしい形で創美クラフト・ポーランドの想いが具体化し、また高性能マスクが寄贈される場に出席できて、本当に嬉しいです。

 先ほど創美クラフト・ポーランドの工場を視察させていただきましたけれども、まさに日本の技術とポーランドの方々の勤勉さ、向上しようという精神、それが創美クラフト・ポーランド社の『ワン・ファミリー、ミリオン・チャレンジ』というモットーのもとで立派な成果を挙げていることに感銘を受けました」

 「日本とポーランドのさらなる発展を期待します」という宮島大使だが、ともに困難を乗り越えようというチャレンジは、間違いなく両国の架け橋になるだろう。

◆次なる挑戦は「地元をハイテクシティにしたい」

 ワクチン開発などで少しずつ光明も見えてきたコロナショックだが、依然として事態が収束する気配はない。しかし、こうした成功例があることは、日本にとってもポーランドにとっても、大きな励みになるだろう。創美ポーランドの浅野取締役は、すでに次なるチャレンジに目を向けているという。

 「マスクが成功したことは大きな自信に繋がりました。今後は、SDGs(持続可能な開発目標)などにも注目しながら、創美ポーランドの地元である街・トルンをエコシティ、ハイテクシティにすることが次の目標です。私たちは小さな『町工場』かもしれませんが、協力していただけるパートナーを国内外から募って、是非実現させたいですね」

 一時は仕事が半分以下にまで減るという危機的状況にありながら、高性能マスクの生産で見事日本とポーランドの架け橋となった創美ポーランド。日系の中小企業が異国でまるで新しい事業に挑戦し、かつ成功したことは日本人として是非知っておきたいチャレンジだ。

 暗いニュースばかりが続く昨今だが、こうした試みには逆境を乗り切るためのヒントが隠されているに違いない。

<取材・文・撮影/林 泰人>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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