大学入試改革の1年を振り返る。記述式の問題は結局どうなったのか

大学入試改革の1年を振り返る。記述式の問題は結局どうなったのか

画像はイメージ(adobe stock)

◆大学入試での「記述式」の問題の出題の是非のゆくえ

 今から1年前の12月17日、萩生田文科大臣から突然、来月実施される共通テストにおいて数学と国語の試験に「記述式」の問題を出題することが中止との発表がありました。それは期限内に確実に公平に採点されるかが疑問視されるということが主な理由でした。

 そして、このことが理由の一つとなり、もう一度「まっさらな状態から大学入試のあり方を議論しよう」ということで「大学入試のあり方に関する検討会議」が開催されることとなりました。この会議は当初は今年中に、途中から今年度中に結論を出すとのことになり、第19回の会議では集中的に議論され、今後の様子が見えてきました。

◆共通テストだけで入学できる人は少ない

 萩生田大臣のこれまでの実績については様々な意見が交わされていますが、一つ確実にプラスの実績と言えるのは、これまで表に出てこなかった大学入試に関するデータをまとめさせ、公開させたということでしょう。それによって、これまで記述式を導入しようとする側がいかに都合のよいデータを使って説明してきたかということが明らかになりました。

 例えば、共通テストで記述式を導入すべきと主張する人達は、共通テストだけで入学できる「大学の数」を根拠にします。しかし、これにはからくりがあります。それは、複数学部をもつ大学のうち一つでも共通テストだけで入学ができる試験区分があれば、その大学をまるごと「共通テストだけで入れる大学」としてカウントしているのです。

 こうすることで、共通テストの役割を実態よりも大きく見せることができます。しかし、萩生田大臣が主導して、文科省に出させた資料によると、その実態は次のようになります。

【大学入学募集人員に対する共通テストだけで入学できる募集人員の割合】

 全体で 603649人中53216人 (全体の8.8%)

 この内訳は、

  国立大学95393人中747人(0.8%)

  公立大学30743人中579人(1.9%)

  私立大学477513人中51890人(10.9%)

 これに対して、センター試験のみで合否を判定している試験区分をもつ大学は、760大学中519大学(全体の68.3%)と膨れ上がりますが、これは当然です。念を押すと、全体の68.3%の人がセンター試験のみで合否を判定されたわけではありません。

 なお、この68.3%という数字(資料によっては多少の誤差はある)は、これからも共通テストに記述式問題を入れるべきと考える専門家と呼ばれる人達が利用するとも考えられますのでご注意ください。

◆新たに記述式を勉強する人の数

 次に、「共通テストに記述式の問題を入れることで、新たに記述式の勉強をしなければならなくなる人」を大学募集人員レベルで考えてみましょう。このような人は、

(a)共通テストのみで合否を判定される人

(b)「共通テスト」と「記述式のない個別試験」の両方で合否を判定される人

です。母数は先ほどと同じ603649人です。

 (a)に相当する人は、先ほどの説明通り53216人(全体の8.8%)

です。

 (b)については直接の資料はありませんが、次のようにおおよそが推測できます。これまでのセンター試験と個別入試を併用する試験の募集人員は、全体で111483人(18.5%)ですが、そのほとんどが国立大学(77596人)と公立大学(21902人)で、私立大学では11985人です。このうち国立大学は93%以上、公立大学は85%以上が記述式問題をすでに課していることを考えると記述式問題を解かない人は多くても21000人程度です。

 つまり(a)、(b)を合わせると75000人以下ですから共通テストに記述式を取り入れることによって、これまで記述式問題の勉強をしなかった人がするようになる募集人員は12〜13%程度ということになります。(実際には複数校を受験する人が多いので、この12〜13%よりも小さくなります)

 この12〜13%の人に記述式問題を課すんだという考えもあるかもしれませんが、それによって膨大なコストがかかることを考えると、もっと別の方法を考えた方がよいのではないかとなります。

◆記述式に関する主な意見の流れ

 大学入試に記述式問題の出題が大切であることは、委員のほぼ総意です。しかし、それを共通テストの枠の中で出題することは、第19回の「大学入試のあり方に関する検討会議」でほぼ否定されています。

 それでは、個別試験で出題するのはどうかということになります。個別試験に舞台を移すと、国公立大学側と私立大学側で立場が異なることが鮮明になります。国公立大学側は「しっかりとした記述」をやりたいと考えており、実際、旧帝大などでは丁寧な採点も行われていて「しっかりとした記述」はほぼできている状態であると考えています。

 これに対し、私立大学側は複数回の入試を行う大学が非常に多く、なおかつ限られた人員と短い採点期間などの問題、そして委員の発言にもありましたが、しっかりと採点して合格させてもたくさんの受検者が「逃げてしまう」こともあり、「国立大学と同じようなことはできない」という主張をします。それは、大人数の採点業務だけでなく、作問についても当てはまることなどから、国立大学と同じ基準で考えないでほしいと主張します。

【国公立大学】

記述式の出題は大切だ

⇒「現時点で出題している」(全体の86.0%)

⇒特に問題があるとは感じられない

⇒共通テストも現状でよいのではないか

【私立大学】

記述式の出題は大切だ

⇒現時点で出題している大学もあるが、出題・採点などで厳しい大学もある

⇒理想はわかるが、国立大学と同じ基準で考えてもらうと困る

 結局、私立大学の入試でも記述式の問題を出すべきという議論になると、「私立大学の入試は、自由にやらせてほしい。入試はこうあるべきと決めつけないでほしい。」と主張します。

 さらに、私立大学側の個別試験での難しさとして、入試日程のきつさも度々あげられます。それは、限られた期間で複数回の試験の実施がかなり厳しいものであることです。

 であれば、共通テスト頼みの意見もありますが、共通テストについては、大学入試センターの山本理事長がここ数回の会議で「大学入試センターにそのような余裕はない」と悲鳴をあげている状況です。大学入試センターとしては、現状の6教科30科目も問題視しており、今後スリム化をはかりたいとのことです。

◆今後の大学入試における「記述式」の問題について

 1年間かけて議論してきた「記述式」の問題ですが、「大学入試において記述式の出題をすべきである」というものの、「共通テストで記述式を出題する」ことが根本的な解決策にならないということが、この会議ではっきりしてきました。

 もちろん、記述式を実施することの困難さも指摘されています。したがって、今のこの会議の感触では、よほど外部から力が働かない限り、共通テストで記述式の問題が出題されることはないように思われます。

 さて、会議では触れられていませんが、共通テストには「数学IIIの問題が出題されていない」という問題があります。これまでも触れましたが、理系の入試の場合は、共通テストに「数学III」という理系にとって重要な科目がなければ不十分です。これは、高校入試で出題範囲が「中学2年生の範囲まで」、中学入試で出題範囲が「小学校4年生の範囲まで」とするようなものです。共通テストが現在のような役割であるならば、まだ目をつむることはできますが、共通テストだけで大学入試の代わりにするというのであれば、試験として欠陥があります。今後、この会議の委員がこのようなことに気がついてもらえるとよいのですが。

<文/清史弘>

【清史弘】

せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 

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