「死んだら辞められますかね」……。生活困窮者をさらに追い詰める「企業のブラック化」が止まらない

「死んだら辞められますかね」……。生活困窮者をさらに追い詰める「企業のブラック化」が止まらない

写真/PIXTA

 新型コロナウイルスは感染のみならず経済的にも人を追い詰める。完全失業者数が3年ぶりの高水準に、自殺者数も急増。その猛威ぶりは数字として表れてきている。労働の現場でいったい何が起きているのか?

◆辞めたくても辞められない。行き場のない労働者が急増中

 12月15日に厚労省が発表した統計によると、コロナ関連の解雇や雇い止めによって失業した人の数は7万6543人。働く意思があるのに職がない完全失業者の数も200万人を突破するなど、雇用を取り巻く環境は極めて厳しい。

 では、職があれば安心かというと、そうとも言い切れない現実がある。退職代行サービスを手がける弁護士の嵩原安三郎氏は日々、退職希望者の相談に乗っているが、「コロナの影響をまざまざと感じる」と言うのだ。

「雇い止めや解雇が増える一方で『辞めたくても辞めさせてもらえない』という事案がすごく増えています。給料を2〜3か月も遅配してるのに長時間拘束し、『次に人が入ってくるまで辞めさせない。会社に来なかったら家まで行く』なんて脅すのは日常茶飯事。雇い主からしたら、その社員やアルバイトに飛ばれたら現場が立ち行かなくなるから、意地でも辞めさせないんですね。

 ただ、そんな企業に求人広告を出す余裕なんてあるわけない。相談に来る人はそれもわかっていて、もはや自分ではどうしようもなくなって万策が尽き、退職代行に駆け込んでくるんです。ある相談者が言った『死んだら辞められますかね』という言葉が耳から離れません」

◆あらゆる業界から相談が

 この現象は、特定の業態に限ったものではないようだ。看護師、自衛隊、建設業、飲食業……あらゆる業界から相談が寄せられるという。

「医療従事者が少し多い印象はありますが、基本的には大企業から公務員まで幅広い職種の方が相談に来ます。コロナに直結した例で言うと感染者が増えた北海道への出張を強要された事例もありました。その方はご高齢の両親と一緒に住んでいらしたのでとても行ける状況ではないのに、首を縦に振るまで説得されたと。

 ただ一方で経営者側と話すと、相当深刻なんですね。飲食店系のHPを作る会社は売り上げが前年比95%減で、給料を支払いたくてもそれができない。本来ブラック企業ではなかった会社までブラック化してしまい、当事者では埋めがたい溝ができてしまっている印象です。残業代や給与の未払いに対して請求をかけるんですが、それでも支払われないと労働審判を起こして裁判で争うことになる。たいていの場合は支払いを命じる判決が出ますけど、労使ともにクタクタになってる中での話ですから大変です」

◆犯罪か自死か……失業者を襲う絶望とは

 ブラック化する職場に苛まれる人がいる一方で、冒頭で触れたように失職して困窮する人も急増している。労働問題に詳しい作家の雨宮処凛氏はこう語る。

「厚労省の発表によると、コロナによる解雇や雇い止めは12月前半だけで1202人増加。特筆すべきはアルバイトなどの非正規労働者が約6割に当たる702人を占めている現実です。

 これは、労働局やハローワークに寄せられた相談を基に集計したものなので、まだまだ氷山の一角。現在、非正規雇用労働者は就業者全体の4割に上り、収入も低い。そうした人々が真っ先にクビを切られて追い討ちをかけられています。不安定な社会構造がコロナで一気に顕在化しました」

 とりわけ女性の非正規労働者が窮地に立たされている。総務省が10月に発表した労働力調査によると、前年同月比85万人減の非正規労働者のうち、53万人が女性だ。

「そもそも非正規労働者は女性が多いうえに、アパレルやネイルサロン、ヨガインストラクターなど、女性就労率が高い職種の業績が軒並み悪化したことで、職を失う女性が急増しています。

 シェアハウスに住む女性が増え、通常の賃貸と比べて追い出されやすいという背景もあってか、20〜30代の女性がホームレスになるというケースまで存在します。私は長年、貧困問題に取り組んできましたが、このような事態はほとんど経験したことがありません」

◆「最悪の選択をしてしまう前に、どうか生活保護の申請を」

 生活に困窮し、犯罪か自死かまで追い詰められてしまう人も増えている。

「コロナによる困窮の果てと思われる事件があちこちで起き、10月の自殺者数はとうとう2000人を超えました。最悪の選択をしてしまう前に、どうか生活保護の申請をしていただきたい。申請すれば、生活費や家賃が出ます。家がない人であれば、交渉次第でアパートが見つかるまでホテルの滞在費が出ます。私たち支援団体の者が同行すれば、より安心なので、まずは相談してください。

 また、東京都では12月21日から約1か月間、一日1000室のホテルが提供される予定です。さらに、江戸川区などでは年末年始に臨時で役所を開きます。政府や自治体、各支援団体が行う施策を目いっぱい活用してほしい」

 最後に雨宮氏はこう提言する。

「国は『前年比で5割以下』などという基準ではなく、『1人世帯で/3人世帯で収入がこの額以下だったら即給付』という形での給付を即刻進めるべきです。一種のパニック状態に陥った人々を救うためには、セーフティネットを強化し、安心感を与えることに尽きると思います」

 寒い冬を乗り越えるべく、一刻も早い対応が求められている。

◆生活困窮者を救う現代の「駆け込み寺」

 仕事を失い、家も追い出される――。進退窮まるコロナ難民を救うべく、多くの支援団体が懸命に活動を行っている。なかでも、食料問題の解決は生活困窮者の生命線だ。前出の雨宮氏は言う。

「新宿では、『新宿ごはんプラス』が毎週土曜日に都庁前でお弁当を配布しています。また、池袋でも『TENOHASI』が毎月第2・4土曜日に東池袋中央公園にて配食を実施。食べるものがなくて困っている方は、まず住んでいる地域ごとに炊き出しを行っている団体に連絡してみてください」

 しかし、そうした情報にたどり着くためのライフラインすらままならない人も。

「支援団体を探して連絡をするためにも、携帯電話は必需品です。しかし、料金の滞納で携帯が止まる方は多い。そこで、『つくろい東京ファンド』ではアプリを使って通話が可能な携帯電話を貸し出す『つながる電話プロジェクト』を開始。最大2年間、自己負担なしで利用できます。また、電話はあるものの通信が止められているという方のために、炊き出し会場などでフリーWi-Fiを飛ばしたり、スマホの充電サービスをしているところもあります」(雨宮氏)

 犯罪や自死が頭をよぎる前に、こうした駆け込み寺にSOSを出したい。

◆生活困窮者を支援している団体

▼新型コロナ災害緊急アクション

コロナによる貧困問題を解決すべく、雨宮氏も世話人として活動する反貧困ネットワークなど、37の団体により急遽結成された。

▼新宿ごはんプラス 相談フォーム(info@gohanplus.org)

「家がない」「食べるものがない」「病院に行けない」という人を対象に、無料の食事提供と、暮らしや健康のワンストップ相談会を行う。

▼特定非営利活動法人TENOHASI

池袋を中心に配食や衣類配布、夜回りだけでなく、はりきゅうマッサージなど、さまざまな形で生活困窮者に手を差し伸べている。

▼一般社団法人つくろい東京ファンド 相談フォーム

住居を喪失した生活困窮者に、まずは住まいを提供すべきという「ハウジングファースト」を大きな理念として掲げる生活困窮者支援団体。

【嵩原安三郎氏】

’70年沖縄県生まれ。京都大学卒業後、’99年に弁護士登録。退職代行の専門家として、労働問題の水際で辣腕を振るう。フォーゲル綜合法律事務所

【雨宮処凛氏】

作家・活動家。支援団体「反貧困ネットワーク」世話人。格差・貧困問題に精力的に取り組む。著書『生きさせろ!難民化する若者たち』ではJCJ賞を受賞。

<取材・文/片波 誠 桜井カズキ 図版/ミューズグラフィック>

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