大学入試における英語の扱い、結論は2021年に持ち越しに

大学入試における英語の扱い、結論は2021年に持ち越しに

(adobe stock)

◆大学入試「英語の民間試験の活用」のゆくえ

 2019年の11月1日、萩生田文科大臣が突然、それまで導入予定であった英語民間試験の活用を中止すると発表しました。その後、大学入試改革のもう一つの目玉である「大学入学共通テスト」における数学と国語の記述式の問題も中止になり、萩生田文科大臣は「もう一度まっさらな状態から」大学入試を考え直すため「大学入試のあり方に関する検討会議」を開催することになりました。

 12月22日に第20回の会議が開かれましたが、この会議では「英語4技能評価のあり方」について話し合われ、論点は次の8点にまとめられていました。

(1) 英語4技能の育成・評価の意義

(2) 英語資格・検定試験活用の意義

(3) 共通テストの枠組みにおける資格・検定試験の活用の実現可能性

(4) 大学入試センターによる4技能試験の開発の実現可能性

(5) 個別選抜における英語4技能評価の形態

(6) 4技能評価の実施上の課題

(7) 高校教育までの学校教育の充実

(8) 大学入学後の教育の充実

 しかしながら、分離できない項目もあり、各委員が項目にとらわれずに自由に発言する会議になりました。

◆民間試験への委託が検討されていた

 英語4技能とは、「読む」「書く」「聞く」「話す」能力を指します。これまでのセンター試験では、この4技能は十分に測ることはできていないとされ、既に、4技能を測っているとされる民間試験に委託してはどうかというのが2019年11月に中止されるまでの考えです。大学入試センターがこの4技能試験を請け負えばよいという考えもありましたが、実務および開発力の限界に達しており難しいということでした。

 なお、2019年11月以前の段階では、新学習指導要領による入試が始まるまで(令和7年1月)、民間試験と共通テスト(旧センター試験)は併用でどちらの選択をしてもよいということになっていました。ただし、満足な状態ではないにしても4技能を測っていたセンター試験(例えば、アクセントの問題はスピーキングに必要な動作と考えます)は、2技能(「読む」「聞く」)に特化した試験になりました。その後、民間試験の活用が中止されたので、今年度(令和3年1月実施)の試験から新学習指導要領に基づく試験までは、2技能の共通テストが実施されることとなり、新学習指導要領が開始されてからは、共通テストの英語がどのようになるかは未定です。

 英語民間試験の活用が一端中止された主な理由は、「異なる民間試験の成績を的確に比較できるのか」「地域の格差(会場の数、受験機会などの違いなど)があってはならない」ということでした。(細かな理由はこれ以外にもあります。)

◆4技能が大切なはずだったが

 これまでの会議では、「英語4技能は大切だ」ということが委員の間でほぼ総意のように見えましたが、ここに来てそれに疑問を投げかける意見が出てきました。

渡部良典委員(上智大学)の意見

 まず、渡部委員が「英語4技能重視」をひっくり返します。渡部委員は英語教育の専門家の立場から2点発言されています。(渡部委員は、遠慮がちに遠回しに、途切れ途切れに発言していましたので、筆者が一部補っています)

 発言の一つは、「現在、大学では(英語が)できるべき人ができていない。それは、入試の段階で、入試に機能をもたせすぎているからではないか(測らなければならないものを意識しすぎるなど)。入試は最低限のものを測るべきで単純にあるべきだ」というものです。恐らく、「入試ではつねに4技能を測らなければならない」などのように義務化させ、複雑化させてはならないという主張だと思われます。

 もう一つは、「(試験に対して)厳格な判定がなされないのではないか。イギリスのOfqual (第三者調査機関)は試験実施団体が行う問題だけでなく、その団体の試験実施能力まで調査するが、日本には、試験実施前に試験を調査することはない。試験後に試験に不備があることがわかっても遅い」というものです。また、CEFRについても「理論であって、刻々と変わっていく。現在は、4技能ではなく6技能だ」と発言していました。ここでいう「Ofqual」とは、「Office of Qualications and Examinations Regulation」という、イギリスの資格・試験監査機関を指しています。試験実施者の利益相反事項もチェックしており、例えば、過去問解説集の出版なども規制しています。

 このような発言がありましたが、発言の制限時間に達し、途中で打ち切られました。この後の会議では、渡部委員の発言はほぼスルーされましたが、委員の中で唯一といえる英語教育の専門家ですので、この発言を軽視してよいものなのかの判断は難しいものがあります。

芝井敬司委員(一般社団法人日本私立大学連盟常務理事)の発言

 芝井委員は私立大学の代表として、ここ数回の会議で「私立大学のやり方を縛らないでほしい」という発言をされています。今回も、「大学生全員が、英語4技能に縛らないでほしい。なぜ4技能なんだ」といった発言をされました。大学生には、英語が必要でない学生もいる。英語よりも日本語の4技能が必要な学生もいる。日本語の4技能ができていないのに、なぜ英語の4技能なんだ。英語だけを特別に扱うのはどうか、という趣旨の発言をされました。毎回、同様の発言をされていますが、私立大学としては、一律に枠に当てはめて「大学はこうでなくてはならない」と決めつけるのが困るという考えです。

 しかし、その後で柴田委員などから「英語は必要な能力である」ことを説明され、最後に萩生田大臣が、4技能の話に戻しました。

 ところで、萩生田大臣は、英語4技能の話ではありませんが、現在、各大学に対面授業をやっているか、オンラインでやっているかのアンケートの話をされました。それは、対面の授業が50%未満の大学は公表していく方針に関するものです。これは、大学を吊るし上げるものではないと言うものの、いくつかの大学側からそのような公表はよくないと言われているようです。

 しかし、オンラインが多い大学ではどのように授業を進めているのかが受験生の側からすれば見えないので、「受験生にこういうときにどういう授業をやっているかを知ってもらうのは極めて重要である」「大学にはどのような取り組みがあり、どのような奨学金の制度があるかを知ってもらう」という考えのようです。

◆民間かナショナルか?

 大臣退出後、再び英語4技能の話になりますが、各委員が専門分野から様々な意見を言いますが、概ね大学入試において4技能を測る試験は「民間」か「ナショナル」(国営あるいは今の大学入試センターによる試験)かという議論になります。時系列通りではありませんが、以下にまとめます。

民間試験について

・4技能の試験という意味ではすでに達成している。

・格差の問題がある。地域格差もあるが、経済格差もあり、逆に大学側が民間試験を受けられるような家庭の学生を望んでいるところもある。

・利益相反の問題がある。やはり、Ofqualのような第三者機関も必要だ。ちなみに、英検は公益財団法人、TOEFLは一般社団法人、ケンブリッジは一般財団法人、TOEICは一般財団法人であるが、GTECは株式会社である。

ナショナルテストについて

・国策として4技能を学習することになっているのならば、学習指導要領にあっているナショナルテストがあるべき。

(※注)この意見の前に、「昭和35年告示の学習指導要領以来4技能を総合的に育成することを明示されている」という指摘があった。

・今の大学入試センターでは、4技能に対応するのは困難である。(大学入試センターの限界)

・ナショナルテストでは、是が非でも4技能に対応したものを用意してもらいたい。(それができないのなら民間を利用すべき)

◆結論の出なかった2020年

 1年間かけて議論してきましたが、大学入試の旧センター試験の後継は結局のところ、民間試験に任せるのか、共通テストの枠組みで実施していくのかがはっきりしないまま今回の会議は幕を閉じました。

 なお、会議の最後の方で再び芝井委員と渡部委員が次のように再度強く発言されています。

芝井委員

 すべての学生・大学に英語の力を一律に要求するのはおかしい。学生によっては英語よりも大切なものがあるのでその点も考えてほしい。

渡部委員

 英語4技能を別々に測るのは不自然である。4技能には境界がない。聞いて、読んでそしてそれを統合して話す力が問われている。そして、民間試験を純粋な気持ちで自分の能力を試すために受けているのならよいが、入試となるとせちがらくなる。例えば、こちらの試験の方が点が取りやすいから、こちらの試験を受けましょうということになる。こうやって教育をだらしなくしてほしくない。スピーキングはやらなくてもよいということではなくて、4技能を別々に求めていくことが不自然な姿である。

 このように、民間試験かナショナルテストかどちらにするかはまだまた決着がつかない様子です。数学と国語の記述式とは異なり、委員の中でも意見が割れていますので、来年3月にこの会議が終わるまで注視が必要です。

<取材・文/清史弘>

【清史弘】

せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 

関連記事(外部サイト)