リニアの静岡県への影響を議論する有識者会議「座長コメント」のテキトーぶりが酷い

リニアの静岡県への影響を議論する有識者会議「座長コメント」のテキトーぶりが酷い

有識者会議の福岡捷二座長。中央大学研究開発機構教授。専門は河川工学

◆有識者会議で異論が出ていた事実を座長が隠蔽?

 JR東海が計画するリニア中央新幹線は、静岡県だけが本線未着工。南アルプスをトンネル掘削すると県の水源である大井川が毎秒2トン減るかもしれないのに、JR東海がその対応策を提示しないために県が着工を許可しないからだ。

 その方法を話し合うために、国土交通省が開催する「有識者会議」が昨年から、「JR東海寄りなのでは」との疑念をもたれ始めている。もっと正確に書けば、責任者である福岡捷二座長が発するコメントに、取材を重ねる記者たちは違和感を覚えている。

 2020年4月から、県の了解のもと国交省が設置した「有識者会議」では、7人の有識者とJR東海とが話し合いを続けている。現在、会議の主たる議題は二つ。トンネル湧水を「全量、大井川水系に戻す」方法と、上流部の減水が中下流域の地下水に影響するかについてだ。

 これまで7回の会議が開催されたが、筆者は第4回目会議から徐々にその方向性に違和感を覚えている。

 7月16日の第4回会議では、トンネル掘削する上流で大井川が減水した場合の中下流域の地下水への影響を話し合っていた。JR東海はかねてから「上流で減水しても100Kmも離れている中下流域の地下水への影響はないと考えている」と表明している。

 それに同意する委員もいる一方で、複数の委員が「上流の減水と中下流の地下水との関連性をもっと検討すべきだ」との意見を述べていた。ところが、会議終了後の記者ブリーフィングで福岡座長はこう発言した。

「(上流で減水しても)下流の水利用への影響は大きくないという点については、委員は皆『そうだね』との合意に近い方向性が見えてきた」

 どうしてこんなまとめができるのか。この発言に、静岡県は「実質的な議論が始まった段階で、中下流域の水利用への影響が軽微であるとの意見には驚いた」とコメントし、新聞各社もそれを報じた。

◆国交省・JR東海の意図に従った? 「座長コメント」を静岡県副知事も批判

 すると、8月25日の第5回会議の記者ブリーフィングでは、福岡座長は「座長コメント」なるA4サイズ2枚の紙を配布しただけで姿を見せなかった。福岡座長の代弁を江口秀二・国交省大臣官房技術審議官が務めた。

 周囲の記者たちは「前回批判されたので逃げたのでは」とささやいたが、その真偽はわからない。ともあれ、その座長コメントでも福岡座長は「トンネル掘削による中下流域の地下水への影響は概括的には問題ないと言えるとの複数の意見があった」と、JR東海の主張に同意するような一部の委員の意見だけを強調しているのだ。

 これをオンライン傍聴していた難波喬司静岡県副知事も、座長コメントを批判した。

「座長コメントは無理がある。誤解を招く。おそらく、前回のコメントでいろいろな意見があったから、今回こうした形にしたと思うが、後日、きちんとした議事録を作るのが普通のやり方。たとえば、『主にトンネル施設の規模等を決める目的で作成された水収支解析モデルにおいて……』と書かれているが、こんな議論はされていない。委員の皆さんはこんなこと一言も言っていない。国交省の意図を感じる」

◆第7回はなんとA4用紙1枚だけだった座長コメント

 筆者は10月27日の第6回会議は欠席したが、このときも福岡座長は座長コメントだけを残して記者ブリーフィングに姿を見せなかった。国交省によれば、これから先も欠席が基本になるとのことだった。

 有識者のひとりに「記者ブリーフィングに出席せず、自分のコメントを国交省の役人に読ませて記者対応させている。これでは責任者説明を果たしたことにはならないのでは」と尋ねると、「その通りです。私は国交省事務局にそれを問い質しましたが『諸般の事情で』そうなったとのことです」との回答を得た。

 そして、昨年12月8日。第7回会議においては、JR東海が作成した「トンネル湧水の大井川への全量戻し方」の資料が提出されていたが、やはり記者ブリーフィングに福岡座長は姿を見せなかった。そして、そのA4用紙1枚だけの座長コメントにはこう書かれていた(概要)。

「JR東海から示された資料が示され、現時点で想定されているトンネル湧水量であれば、トンネル掘削完了後にトンネル湧水量の全量を大井川に戻すことが可能となる計画であることを有識者会議として確認した」

 確かにこの日提出されたJR東海の資料は、極めて具体的だった。毎秒トンネル湧水を大井川に戻すには、釜場(水を一時的に貯めるプールのような場所)や揚水ポンプをどこにいくつ設置するかを文字とイラストで記載していた。

 つまり「JR東海の想定であれば全量を戻せる」と解釈するのは間違っていない。しかし、JR東海の予想を超える設定についてはまだ審議もされていないのだ。

◆取材した記者たちからも疑問の声が続出

 記者ブリーフィングでは静岡県の記者から質問が殺到した。「(リニア工事で)影響を受ける側からすれば、『トンネル工事しても問題ない』とあっさり決められた印象がある。『現時点で』との前提条件のまとめはJR寄りになっていないか?」と質問すると、江口審議官は「『あっさり』とおっしゃられたが、討議資料は事前に委員に出して検討してもらっている。我々にすれば『あっさりではない』」と返した。

 他の記者からもさまざまな意見や質問が飛び出した。

「専門知識がない人間には、『れば』をつければ何とでもいえる。『地震がなければ家は崩れない』と言っているのと同じ」

「静岡県民に安心をしてもらうための会議なのに、このまとめ方はまずい」

「これでは、明日の新聞に『全量戻せる』との誤った見出しがつくかもしれない」

 これに対して江口審議官は「この前提であればとの結果を出しただけ」と答えるだけだった。確かに、その前提における結果は間違いではない。だが、会議にオブザーバー参加していた難波副知事が、この点について記者ブリーフィングで苦言を呈した。

「座長コメントの字面は正確です。ただし、これを読むと、(全量を戻せることが確認されたとの)誤った印象をもたれてしまう。こういう書き方は避けてほしい」

◆「静岡県民に安心してもらう」と言いながら、座長不在のままで進むのか

 福岡座長は会議の中では繰り返し「静岡県民に安心してもらうために、しっかりと検討する」と発言していたが、筆者は質問でこの点をついた。

「県民に安心してもらうと福岡座長は何度も繰り返すが、具体的にどうやって県民が安心を得たのかを確認するのか」

 この質問に江口審議官は「県の利水関係者もここにオブザーバーとして入ってもらっています」と答えた。

 次いで筆者は「県民に安心してもらいたい座長が記者ブリーフィングを欠席しては、県民から『信頼』を得ることはできない。座長は記者ブリーフィングに出るべきだ」と発言しようとしたのだが、一人一問という質問制限に阻まれ、話し始めたとたんに発言を遮られた。

 このまま有識者会議は、座長が出席しないままで記者ブリーフィングを続けるのだろうか。そして座長コメントも「JR東海寄り」のままで進むのか。有識者会議には静岡県への影響を真摯に考えている委員もいる。せめて今年からは、最後の締めである座長コメントはより公平な内容であることを願うばかりである。

<文・写真/樫田秀樹>

【樫田秀樹】

かしだひでき●Twitter ID:@kashidahideki。フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。

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