「結婚して、“普通”になりたい」30歳漫画家がヒモ彼氏を養う理由

「結婚して、“普通”になりたい」30歳漫画家がヒモ彼氏を養う理由

画像はイメージ(adobe stock)

 「私今、ヒモと結婚しようか、悩んでいるんです」

 そんな衝撃的な一言から、酒井あやなさん(仮名・30歳)の取材は始まった。某有名マンガ誌で連載を持つ彼女。漫画家という夢を叶えるために、恋愛をおろそかにしてでも、目まぐるしい毎日を送ってきた。新型コロナをきっかけに、今まで目をそらしてきた“結婚”を意識しはじめたという。

◆オタ活に捧げた青春

「ずっと、自分は恋愛と無縁だと思って生きてきました。小学生の頃にはオタクを通り超して腐女子になってしまって、同じ趣味をもつ女友だちとだけつるんできました。自分の見た目よりオタ活にお金をかける青春時代でしたから、学生時代は恋愛経験も皆無。取り柄と言えば絵を書くことくらいだったので、漫画系の専門学校を出てからは、なんとか漫画で生計が立つように努めてきました。

 最初はなかなかうまくいかず、編集部に漫画を持ち込んでも塩対応されて、編集部の紹介でアシスタントのバイトをしたり、広告漫画を書いたり、同人誌を作ったりしてなんとか生活していました。もちろん一人暮らしはできなくて、同じ夢を志す友人とシェアハウスをしていました。

 コツコツとした下積みのおかげで、なんとか商業誌にも漫画を掲載できるようになり、その頃にはやっと収入が安定するようになっていました。もともとショートスリーパーなので、商業マンガを描きながらも、コソコソとWEBの漫画広告の仕事を受けたりして収入をかさ増し。夢見ていた形とは少し違っても、漫画家として生活できるようになりました」

 そう語る酒井さんは、少しぽっちゃりしているものの、語り口は丁寧でやわらかい。ナチュラルメイクにメガネをかけているので、少し地味な印象は受けるかもしれないが、いい意味で高嶺の花すぎず、親しみやすい。

◆フリーターでお金はないが……

「とにかく仕事量をこなすことで稼いでいるタイプなので、生活はいつも大荒れ。社会人になってからも、なかなか恋愛の機会はありませんでした。コミケやネットで気になる異性ができたことはあるので、多少の交際経験はありますが、私が忙しすぎることもあり、長続きしたことはありませんでした。

 でも、私には今ヒモがいるんです。ネットで知り合った年下の男の子で、いわゆるフリーター。あちらからのアプローチで交際しはじめて、3年ほどお付き合いをしています。フリーターの彼はいつも私に予定を合わせてくれるし、締切間近の忙しい時は、漫画を手伝ってくれることもあります。そもそも、こんなに長く交際が続いたこともはじめてで、彼はお金こそないですが、私は楽しくお付き合いさせてもらっています」

 漫画家という職業のせいなのか、元々の性格なのか、少し不思議な雰囲気も持っている酒井さん。交際当初から、お金がない彼のために、デート代も負担することが多かったのだというが、それまで恋愛がうまくいかなかったこともあり、お金を出してうまくいくならそれでいいと思ってしまうのだそうだ。

◆主夫からただのヒモに

「ヒモの彼とは、去年から同棲を始めました。同棲と言っても、うちに住んでもらっているだけなのですが……。住まいは仕事場も兼ねているので、もともと2DKの部屋を借りていたんです。同棲を切り出したのも彼の方で、私は“家事をするから住ませてほしい”という彼の申し出を受け入れた形です。家賃や光熱費はもらっておらず、主夫という形で家に住んでもらっています。

 彼も一応バイトをしているのですが、それは彼の個人的なお小遣いということにしていて、お互いの家計にはあまり口出しをしません。とはいいながらも、彼は最初こそきちんと家事をしてくれていたけれど、最近は私が忙しくて怒れないのをいいことに、まったく家事をしてくれないことも多くて……ただのヒモになりつつあるんですよね」

 なぜ家賃や光熱費をもらわず、彼氏を“ヒモ”として自宅に住まわせているのか、と聞くと、彼女は「彼にお金がないからかなあ」と首を傾げていた。このくらいぼんやりとヒモを養ってしまう人もいるのだ。

「最近はコロナの影響もあって、田舎の両親も『早く結婚しろ』って電話をかけてくる。そうなると、私にはヒモの彼氏しかいないんですよ。他に連絡を取っている男の人もネット経由の人ばかりなので、乗り換えようにもまた同じようなことになるかもしれないし。少なくとも3年もお付き合いをしたということを考えると、やっぱり私にとって結婚に一番近いのはヒモの彼なんです。別に顔もかっこよくないし何もしないけれど、いて損にはならないだろうし」

◆「自分は“普通”だって言い聞かせたいのかもしれない」

 ヒモの彼は社会人経験がないそうで、結婚してもきちんと働く可能性は低いという。それでも酒井さんは、結婚がしたいのだろうか。

「うーん。本当は半々で生活費を出し合える人がベストだと思いますけど。でも、そんな人を探している時間もないし……自分が稼げているうちは、養う旦那でもまあいいんじゃないかなって。少しは家事とかも、やってもらいたいですけどね。

 結婚しようかなと思うのは、親とか周りの視線が気になるからですかね。あとは、なんとなく既婚の漫画家に憧れていたから。一生独身と思われるのは嫌だし、自分の生活は“普通の暮らし”とはかけ離れているような気もするから、結婚することで自分は“普通“だって言い聞かせたいのかもしれない。友人にも親にも、『変わっているね』とばかり言われてきた人生だったから。私、“普通“になりたいんです。ただそれだけ」

 独特の結婚観を持っている酒井さんは、3年付き合っている彼氏と、いまだに敬語で会話するのだという。彼氏のことが好きなのかと聞くと、首を傾げながらこう話してくれた。

「好き……なのか、よくわかりません。可愛がっている飼い猫や推しのキャラと比べた時に、彼の方が好きかと言われると、ちょっと違うかもって思ったりする。でも、猫や推しとは結婚できないから、やっぱり結婚相手は彼なんですよね。趣味が合うから一緒にいて苦じゃないし、仕事が忙しい私を理解してくれているので」

 子どもができても、家を買うことになったとしても、ヒモの彼氏には期待していないという酒井さん。あくまで自立した生活の中で、周りに馴染むために「結婚」「旦那」という要素がほしいだけなのかもしれない。これも多様な結婚観のうちの一つなのだろう。彼女は果たして、結婚したら“普通”になれるのだろうか。

<取材・文/ミクニシオリ>

【ミクニシオリ】

1992年生まれ・フリーライター。週刊誌などにアングラな性情報、最新出会い事情など寄稿。逆ナンや港区合コンの現場にも乗り込み、恋愛経験を活かしてtwitterで恋愛相談にも回答。カルチャーにも素養がある生粋のサブカル女子。Twitter:ライタ〜ミクニシオリ

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