データでわかる、緊急事態宣言の効果と延長への評価。その一方で空港検疫のザルさの反面、迫りくる変異株の脅威

データでわかる、緊急事態宣言の効果と延長への評価。その一方で空港検疫のザルさの反面、迫りくる変異株の脅威

緊急事態宣言発令から3日後の歌舞伎町。yufinn / Shutterstock.com

◆第三波エピデミック季節性Surgeが減衰へ

 前回記事の最後で、菅内閣による緊急事態宣言(菅緊急事態宣言)の外食営業時間制限(外食時短)の効果が見えてきた可能性が極めて高いとして締めくくりとしました。

 それから約二週間、本邦、韓国、台湾におけるSars-CoV-2エピデミックはどう推移してきたかをみてゆきましょう。今回もOur World In Dataを使います。グラフのキャプションから原典に直接リンクしています。

 先ずは、全世界と本邦の現状を見ましょう。

 本邦だけでなく、北米、南米、欧州で1月上旬から中旬にかけて顕著なSpikeが発生し、1月下旬から急速に収束しています。これはクリスマスによるSpikeです。北米では、12月初旬から特徴的なSpikeが発生していますが、これは合衆国の感謝祭(Thanks Giving)大形連休によるもので、カナダでは見られません。本邦は、1月下旬までSpikeが残っていますが、これは新暦の正月を祝い、帰省を行う本邦独自のものです。欧米ではクリスマスを祝いますが、年末年始は普通の連休(今年は四連休)に過ぎません。また、アジアの多くの国は非キリスト教圏であり、東アジアでは旧正月の二月上旬がお正月の大型連休ですので、アジアではSpikeが目立ちません。大洋州は、エピデミックが微小ですので図ではX軸に張り付いています。

 本邦では、クリスマスと年末年始大型連休によるSpikeが連続して発生し、全世界の100万人当たり新規感染者数に迫りましたが、その後Spikeの通過と共に新規感染者数は急速に減少し、落ち着いてきています。まもなく本邦は、アジア全体の100万人当たり新規感染者数を割り込みます。これはたいへんに喜ばしいことで、筆者が強く憂慮した本邦に於ける謎々効果*の消滅は、今回も避けられています。

〈*モンゴル、中国、ミャンマー以東の東部アジア、大洋州ではCOVID-19パンデミックによる被害が他の地域、特に米欧に比してきわめて小さい。筆者はこの事実に2020年2月末頃に気がつき、同3月には「謎々効果」(謎々ボーナスタイム)と名付けている。全く同じ効果を”Factor X”と呼称している人たちもいる。米欧メディアや研究機関が注目するものの、謎々効果の原因も正体も不明であった。謎々効果の原因は依然不明だが、正体はこの領域では感染率が当初米欧の1/1000程度に抑えられていることである。致命率(CFR)は謎々効果があっても米欧他と大きな差はない。謎々効果は、アフリカ大陸でもほぼ全域で見られている〉

◆日韓台の定点観測2021/02/08

 本邦と韓国は、100万人あたりの日毎新規感染者数がクリスマス前までにほぼ同率になりましたが、韓国ではクリスマス前から減少が始まり、年明けにはかなり改善しています。韓国では1月末に通産3回目の宗教団体起因のSpikeが生じましたが、約二週間で制圧の見込みです。

 本邦は、日毎新規感染者数が1月中旬まで急速に増加し、たいへんに先が危ぶまれる状況になりました。しかしこれは、一過性且つ社会活動を起因とするクリスマスと年末年始連休によるSpikeであって1/21〜25に自然終息(通過)しています。

◆緊急事態宣言の効果があった日本。延長は正しい判断

【日本】

 本邦は、日毎新規感染者数が1月中旬まで急速に増加し、謎々効果が3月にも消滅してしまうことが予測されるほどにたいへんに先が危ぶまれる状況になりました。しかしこれは、一過性且つ社会活動を起因とするクリスマスと年末年始連休によるSpikeが原因であって1/21〜25に自然終息(通過)しています。しかし季節性の第三波エピデミックSurgeは1月中上昇基調であったため、対策をせねば3月にも本邦は南米並みの深刻な事態に陥る可能性がありました。

 本邦では1/8に菅内閣により緊急事態宣言が発表され、一部の都道府県を対象としながら11都道府県まで順次拡大した後2/7まで継続し、その後は対象を縮小しながら3/7まで継続する予定です。本邦では、新規感染者が統計に現れるまでに14日遅行しますので実質的に緊急事態宣言が機能し始めた三連休明けの1/12から14日後の検査に相当する1/27*以降の統計から緊急事態宣言の効果が現れました。菅緊急事態宣言は、移動傾向(モビリティ)に全く影響がありませんでしたが、一方で外食産業に対する20時以降の営業自粛を求め(外食時短)、経済支援などの実効性も伴ったこともあり大きな効果があったと考えられます。筆者の予測では、何もしなければ日毎新規感染者数が3000〜4000人/日の帯域で漸増して行くはずであったものが、1200人から2600人の帯域まで減少しており、2/9現在の統計では更に減衰が見込まれます。

〈*1/27現在の統計は、1/26の検査結果を示す。〉

 本邦における新規感染者数の推移には、社会性且つ一過性のSpikeが通過した直後から外食時短の効果が現れ、季節性のSurgeは減少に転じており、2/8現在で11/24の水準まで戻っています。これはIHME(保健指標評価研究所)による本邦に於ける季節性Surgeの極大を2月上旬とした予測より季節性Surgeの収束傾向への移行が一週間前倒しとなるほどに大きな効果を示しており、屋内営業のレストランがスーパースプレッダである*という昨年5月から指摘されてきた海外での既に一般的な知見を証明したことになります。

〈*アンソニー・ファウチ博士らは、昨年5月頃から屋内営業のレストランが深刻なスーパースプレッダであると警告を行っている。一方でCDCはレストランの屋内営業を継続するための様々な手法を公開してきているし、謎々効果のあるタイなどでは、定員が半減するものの大衆飯屋の屋内営業を可能とする工夫が一般化するなど、それぞれの実情と文化に応じた外食産業の維持が実践されてきている。本邦の様なノープランは珍しい〉

 ここで油断して社会的行動制限を緩和すると元の木阿弥になることも昨年夏には全世界で共有されてきた知見であり、菅内閣による緊急事態宣言の一ヶ月延長はきわめて正しいものであると言えます。くれぐれも緊急事態宣言解除と緩和は、焦らず保守的に行ってほしいものです。まさに急いては事をし損じるです。

 なお、既にクリスマスと年末年始のSpikeは通過しており、今週後半からは実効再生産数R0*が季節性Surgeの動向を評価することに使えるようになります。

〈*実効再生産数R0とは、ウィルスの増殖の程度を表す数値で、一定期間にウィルスが増えればR0>1となり変化無しでR0=1、減少でR0<1となる。このためウィルス対策の政策評価に使われることが多く、昨年5月頃までは海外報道でも頻繁に目にしたが、夏以降使われることは本邦を除き殆ど無くなっている。これは、エピデミックの波はSurgeとSpikeの二種類の波の合成波であり、実効再生産数R0は、しばしば突発性且つ一過性のSpikeによって混乱し、判断材料にならないためであると考えられる。実効再生産数R0算出の数式は、東洋経済オンライン紹介の西浦博博士によるものがよく使われている。〉

 本邦は、日毎新規感染数で東部アジア・大洋州においては、マレーシア、インドネシアに次ぐワースト3の東部アジア・大洋州三大コロナ駄目国家ですが、アジア*全体の100万人当たり新規感染者を近日中に下回るまで減少する見込みです。現在の半減時間(半減期)は、20日程度ですから、現状で推移すれば3月末までには10月上旬の状態まで改善すると見込まれます。

 本邦に於ける死亡者数は、なかなか減少に向かわず、2/5〜2/7にかけて減少に転じた可能性があります。現在、これがよくわからないことで、本来より減衰に転じる日が大幅に遅れています。

 COVID-19による死亡は、発症日から平均18日後です。また感染発生日から5日後が発症日ですので、感染発生=ウィルスへの暴露から平均して23日後に死亡します。したがって例えば年末年始のSpikeの場合は、遅くとも1/27迄に極大に達し、その後は減少に転じる筈です。ところが実際には2/5〜7日に減少に転じていますので10日前後、死亡者数の減少が遅れています。これは明らかに異常な値ですので実際に何があったのかを検討せねばなりませんが、今のところ何故こうなったのか全くわかりません。筆者はこの統計の異常をきわめて重要視しており、分析に着手していますので、今後途中経過を含めて順次ご紹介して行く予定です。

(2021/02/10追記)

 2021/02/10更新のOWIDでは、本邦の日毎COVID-19死亡数は、安定して減少傾向に入っており、一週間・二週間変化率も減少を示しています。この傾向が続けば、今後二週間をかけて本邦の医療への圧力は急速に軽減してゆくと考えられます。

◆ 落ち着きつつも気を緩めない韓国、台湾

【韓国】

 韓国は、一時日本に肩を並べるほどに状態が悪化しましたが、11月と12月に引き上げられた求められる社会的距離と、ソウル首都圏における大規模一般PCR検査*によって12月中旬以降、収束に向かいましたが、1月に入り収束傾向が行き詰まり、更に1月末に大田と光州の宗教施設で発生したSpikeによって危ぶまれましたが、二週間ほどでSpikeの制圧に成功しています。ニュージーランド、中国、ドイツ、台湾などのCOVID-19対策が成功している国では、局地的なSpikeが発生しても概ね二週間で制圧してきていますので今回韓国でもSpikeの制圧に成功したと言えます。しかし新規感染者数の下げ止まりは解消出来ていません。筆者は、クラスタ戦略による季節性Surgeの制圧が順調に進んでいない以上、大規模一般PCR検査を釜山、光州、大田、大邱に拡大し、市中感染者の隔離と治療を行う必要があると考えています。筆者は、そのようにしてニュージーランドや台湾並みに国内からCOVID-19を一掃することが韓国では可能と考えています。

〈*本邦では、「検査をしても感染症対策にならない」という詭弁を垂れ流す国策翼賛エセ医療・エセ科学デマゴーグが跋扈している。当たり前だが、検査によって市中感染者を発見し、隔離、接触追跡、対症療法を含む治療を行う。WHOのテドロス事務局長がこの1年間繰り返してきた“Test, Test, Test and Trace”とは極めて当たり前のことで小学生にも理解出来る理屈である。この小学生にも理解できる理屈を否定し、行ってこなかったのが本邦である。この最悪の医療デマゴーグ達を筆者は、Twitterハッシュタグ #Mアノン, #Manonとして公開途上である〉

 韓国のお正月は、旧暦の2/12で、旧正月(ソルラル)の連休は2/11〜2/14です。このため、求められる社会的距離を旧正月まで現状のまま緩和しないとしています*。

〈*韓国「夜9時以降営業制限」に首都圏の自営業者「不服」…開店デモを予告 2021/02/08 hankyoreh japan〉

【台湾】

 台湾では、国内感染者が散発的に発見されていますが、それにより国内市中でのPCR検査数を増やし、市中感染者1人を見つけるために1000〜3000人規模のPCR検査をしています。この数値は、ニューヨーク州などでCOVID-19を制圧後、掃討する際に必要とされた経験的値で、これによって台湾では市中感染者を洗い出していると言えます。

 台湾では2/10〜2/16が春節(旧暦のお正月)の大型連休で、台湾の保健当局は、市民に対して春節の帰省を控えるなど呼びかけています*。

〈*春節を前に、ゾンチャイ(總柴)が防疫を呼びかける動画中華民国衛生福利部(台湾厚生省)Tweet〉

◆変異株の侵入

 日韓台三カ国でそれぞれエピデミックの状況は異なりますが、それぞれ一番たいへんなときは凌ぎ、春に向けてエピデミックの制圧を継続しています。しかし昨年、英国で発生した変異株(英国変異株)と南アフリカで発生した変異株(南ア変異株)が世界で蔓延しつつあります。

 英国変異株は、ワクチンや薬の効果が大きく落ちることは無いとされますが、たいへんに感染力が強く、子供に感染しやすい特徴があります。英国変異株は、既に本邦や合衆国では市中に入り込んでいます。英国と合衆国では倍加時間が10日と報じられており、合衆国では三月中には在来の株を英国変異株が置き換えてしまい、大きなエピデミックSurgeが発生する可能性が懸念されています。IHMEのエピデミック予測を見ると2月下旬から3月にかけて英国変異株によるSurgeが起こるとされています。

 南ア変異株は、ワクチンやモノクローナル抗体が無効化されたり効きが悪くなっており*且つ、感染力と致命率が高くなっているとされます。南ア変異株も既に合衆国と本邦で市中感染が始まっていると考えられ、合衆国では2月8日現在、37州で700名、うちフロリダ州で200名の感染がCNNにより報じられています。合衆国ではウィルスの遺伝子追跡能力が英国に比して低く、既に未発見の市中感染は相当な数に上ると警告されています。なお、本邦ではPCR検査抑制によって、合衆国より遙かにウィルスの遺伝子追跡能力が低く、ウィルス変異株の市中感染に対して実態把握ができていない状態と言って良いです。

〈*南ア、アストラゼネカのワクチン接種を停止 変異株に効果小さいとの研究受け 2021/02/08 BBC〉

 本邦でも遂に南ア株の感染者が自宅検疫中のアフリカからの帰国者とその濃厚接触者から発見されています*。本邦の空港検疫は、10月までにPCR検査から抗原検査に切り替えられましたが、非常に精度が低く、偽陰性で相当な割合のウィルス感染者を見逃す状況で、ウィルスにとっての大勝利ゲーム・チェンジャーになっています。その為、既に南ア株感染者は本邦市中に相当いると筆者は考えています。なお、本邦の空港検疫は既に全空港で精度の著しく低い抗原検査へ切り替え済みとのことです。

〈*南アフリカ型変異株に2人感染 神奈川で初、50代女性と10代男性 2020/02/05 東京新聞〉

 IHMEは、最悪事例として本邦で4月から6月以降にかけて大規模な非季節性エピデミックSurgeの発生を予測しており、強く警戒を要します。

 感染力が強く、子供にも感染する力が強いとされる英国変異株は、既に11月には本邦市中に入っており、英国と合衆国では倍加時間が10日ですので、本邦でも2月下旬から3月にかけて既存株を置き換える可能性があります。感染力が強いということは謎々効果を消耗させる力が強いという事で、謎々効果への依存が強い本邦では防疫体制の大幅強化が必要と考えられます。

 とくに第1世代ワクチンの有効性が大きく下がると見込まれる南ア変異株については現時点ではクラスタの発見と制圧が極めて重要となります。

 ところが本邦は、1月のクリスマス、年末年始Spikeで保健所が圧倒され、クラスタ追跡の要である積極的疫学調査を関東などで事実上放棄しています*。これは南ア株に対して丸腰と言っても良い極めて危険な状態であり、可及的速やかにクラスタ追跡能力の再建強化が求められます。

〈*もっとも、本邦ご自慢のクラスタ戦略は昨年早期の段階で崩壊しており、実のところ「空想としてのクラスタ戦略」でしかない。今年一月に、張りぼてとは言え、積極的疫学調査を放棄したことにより、本邦は名実ともに丸裸となっている〉

 次回は、今回言及した本邦統計の異常などについてより詳しく論じていく予定です。

◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ38:第三波エピデミック定点観測(3)

<文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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