外環道、リニアのルート上に暮らす住民が知らない「大深度」工事でも陥没事故の例

外環道、リニアのルート上に暮らす住民が知らない「大深度」工事でも陥没事故の例

10月18日に陥没した調布市東つつじヶ丘2丁目の生活道路(写真提供:NEXCO東日本)

◆事業者も認めた外環道「大深度工事」由来の陥没事故

 2020年10月18日。東京都調布市東つつじヶ丘2丁目の住宅街の生活道路が陥没した。地元住民にすれば、驚くよりも「やはり起きたか」と思う人は少なくなかった。

 東つつじヶ丘2丁目の「大深度」(地下40m以深)では高速道路「東京外かく環状道路」(以下、外環)をつくるため、直径16mという日本最大のトンネル掘削機、シールドマシンが地下を掘り進めていた。住民は「これが事故の原因に違いない」と断定し、2020年12月18日には事業者であるNEXCO東日本もそれを認めた。

 外環は千葉県、埼玉県、東京都を円弧状にむすぶ高速道路で、東京都の練馬区と世田谷区の間の16Kmだけが大深度で建設されている(他地区は高架)。シールドマシンが世田谷区を発進したのは2017年、練馬区を発進したのが2019年。

 世田谷区をシールドマシンが発進すると、2019年1月から、ルート直上の住民から「ゴ・ゴ・ゴという振動が聞こえる」「家全体が振動する」「外壁に亀裂が入る」などの被害を訴える声が上がり、2020年9月にシールドマシンが調布市に入ると、その声はさらに増えた。

 事故後に結成された調布市の住民団体「外環被害住民連絡会・調布」(以下、連絡会)は、陥没現場周辺で事故の前後に起きていた被害状況のアンケート調査を実施。その報告書によると、構造物被害を受けたのは58軒。内容は、ドアや床の傾きが19件、コンクリートのひび割れが17件等々。体感的被害を受けたのは102軒。内容は騒音95件、騒音72件、低周波音51件となっている。

◆「大深度だからといって安心できない」とトンネル技術者

 住民が憤るのは、NEXCOがこれまで「大深度での工事は、振動や騒音などを地表に及ぼすことはない」と明言していたことだ。それを聞いて「工事現場が深ければ深いほど、地表への影響は小さくなる」と信じていた住民も少なくない。

「大深度だからといって安心できない」と断言する人もいる。11月21日、外環ルート上の住民が開催した緊急集会で、会場から一人の男性が手を挙げて発言をした。過去数十年間、全国各地でトンネル建設に従事してきたトンネル技術者の大塚正幸さんだ。

「今回の陥没事故の特徴は、陥没現場の真下を掘ったのは1か月も前の9月14日だったこと。なぜ1か月も経ってから陥没したのか。外環で使うシールドマシンは直径16mと巨大です。これだけの巨大掘削機が固い地盤に当たると長時間にわたって地盤を揺するように掘削するので地盤が緩むんです。それが時間とともに崩れていく。

 NEXCOは『大深度の工事は地表に影響を与えない』と言います。でも、2003年に北陸新幹線の工事で、長野県飯山市のトンネル直上の山林の中腹部で『直径70m、深さ30m』もの陥没事故が起きましたが、トンネルはその190mも下にあったんです。大深度だからこれからの工事も安心ということはできません」

◆地下190mの工事で地上が陥没した、北陸新幹線トンネル工事

 筆者は、大塚さんが指摘した「地下190mの工事で地上が陥没した」との事実に驚いた。調べてみると、こういうことだった。

【事例1】飯山トンネル

 2003年9月11日、午前3時5分から22時までの間にトンネル内が4回崩落した。1回目と2回目の崩落ではトンネル内への土砂流入はそれぞれ350?と700?だったが、3回目の崩落では「ドン」という音とともに約9000?の土砂が流入し、作業用の重機械を約100m流した。そして4回目の崩落では、約3万?もの土砂と泥水が約1.2Kmにわたり流入。機械類のすべてが550m押し流され、圧砕された。

 これら崩落で190m上にある地表では、直径50m、深さ30mの陥没が起きたのだ。その原因は以下のように推測されている。(参考文献:『トンネル施工中に発生した大規模な岩盤崩落――北陸新幹線飯山トンネルの事例――』<日本材料学会学術講演会講演論文集。2006年5月26日。145ページ>)

 トンネル掘削により断層が薄くなったところで、その奥にあった高い圧力のかかっていた地下水がその断層を破壊した。その際に粗い砂で構成された砂岩層が地下水と一緒に断層を突き破って崩壊したことで、地上部にも影響が及んだ。

◆「大深度」の工事で陥没した例はまだまだあった

 さらに筆者は、「大深度」であっても地表に影響が与えた事例が他にもないだろうかとインターネットで調べると、まだ見つかった。その2つを紹介する。

【事例2】湖北トンネル

 1992年2月14日、長野県で建設中の国道142号線のバイパスである湖北トンネルで事故は起きた。この日、現場では地下水を低下させるための水抜きボーリングを行っていた。やがて切羽(掘削面)の奥からガラガラと音がして、「ドドーン」という音の後に鉄砲水が噴出して、トンネル内を土石流が襲った。作業員たちは必死に逃げ、死傷者はいなかった。流入土砂は1万4000?にのぼる。

 そして80m直上の地表では、直径25m・深さ30mの陥没が起きた。トンネルは活断層「糸魚川―静岡構造線」のすぐ北に位置する。この構造線の分岐の一部が粘土化して、地下水を通さない遮水帯となっていた。だがこの遮水帯が掘削されたことで、地盤内部の砂が高圧で閉じ込められていた地下水と混ざり合って泥水のように噴出したと見られている。

 これを「クイックサンド現象」というが、これが起きると地盤は支持力を失い不安定となり、その結果80m直上が陥没したのだ。(参考文献:「トンネルの異常出水」石井正之著、<『地学教育と科学運動』第78号97ページ>)

【事例3】日暮山トンネル

 1999年12月9日、群馬県の上信越自動車道で建設中の日暮山トンネルが大崩落した。トンネル内に約8000?の土石流が発生し、瞬時にトンネルの160mを埋めた。原因としては、事前調査で予測していたのとは違う地層であったこと。トンネル上方に圧力のかかった地下水があったが、泥岩層を掘削したことでその耐荷力が低下したことがあげられている。その結果、130m直上の地表では直径30m・深さ18mの陥没が起きた。

◆外環道とリニアのルート上に暮らす住民たちに知ってほしい

 JR東海は2027年に東京(品川駅)と名古屋駅を40分でつなぐリニア中央新幹線の工事を各地で進めている。2021年4月以降には、品川駅近くから直径14mのシールドマシンが大深度で掘削を始めることになる。品川〜名古屋間の286Kmのうち、大深度区間は約50Km。そのほとんどの区間は住宅密集地であり、上記の事例のような山中ではない。陥没は間違っても起きてはいけない。

 2018年5月にJR東海は東京や名古屋で大深度工事についての住民説明会を実施しているが、それに参加した筆者はJR東海の説明を覚えている――「大深度は硬い岩盤だから工事に問題はない」というものだ。

 だが本稿で見た3つの事例では、大深度であっても固い岩盤ばかりではないことがわかる。そして大深度工事の指針として、国土交通省の「大深度地下使用技術指針・同解説」には工事前に100〜200mおきのボーリング調査が目安とされている。しかし、JR東海は大田区と世田谷区においてはルート直上では約400mに1本のボーリング調査しかしていない。これでルート上の地質を把握できるのだろうか。

 筆者が調べただけでも首都圏のリニア大深度ルートの直上には、保育園から高校までの教育施設が12もある。だが問題は、未だにルート直上に住む住民のほとんどが自宅の真下をリニアが通ることすら知らないことだ。

 外環に話を戻せば、外環は4m離れただけで2本のトンネルが並行して走るのだが、2本目のトンネル掘削はこれからの話だ。陥没事故により外環工事は中断したままだ。調布市の住民は今、果たして工事を再開するのか、2本目のトンネルがやってくるのかで、眠れない思いを抱いている。

 地下190mであってもその崩落が地上を陥没させた事実は、大深度であっても油断はできない。できるだけ多くの人、特に外環ルートとリニアルートの直上に住む人たちにこの事実を知ってほしい。

<文・写真/樫田秀樹>

【樫田秀樹】

かしだひでき●Twitter ID:@kashidahideki。フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。

関連記事(外部サイト)

×