ロンドン再封鎖6週目。ワクチン接種もマスクと同じ、他者のために<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

ロンドン再封鎖6週目。ワクチン接種もマスクと同じ、他者のために<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

心理的なものだろうけどストップウォッチ待機(本文参照)の時間は長かった。かつて経験したことのない気分を味わいました。ある意味、ロックダウンというものの縮図だったかもしれません

◆ワクチン接種はやはり痛くて倦怠感があった

 間違い。間違い。間違いだらけ。自分が情けない気持ちでいっぱいです。

 人様の目に触れる仕事なのだから、とりわけいまは命に係わることなのですから充分に気をつけて書いているつもりではいます。しっかり裏も取っていました。情報源も信用に足る英国国営放送BBCや高級紙のThe Guardian、しっかりと掲載前の査読がある学術雑誌を中心にデマや陰謀論が混じりこまないように、偏見で目が曇らないように留意してきました。それでも間違い早とちり、誤読が混じってきてしまう。

 コロナというやつは、まるでバグでもあるように身体だけではなくネットワークに侵入して情報を混乱させる性質があるのではないか?

 たとえば前回わたしは「コロナワクチンの注射はのちに痛くなるという噂は嘘」と断定しました。が、自分が打ってもらったら、しっかり痛くなってやんの(笑)。って(笑)ごとじゃぜんぜんないですよね。もっとも触らなければ分らない程度ではあるんですが。ツレは一週間くらいじんじんしてたそう。

 そして接種翌日はもうひどい倦怠感に苛まれました。コロナ感染初期に見られる典型的な症状なのでかなり緊張しましたが熱は出なかったので一晩様子見したらケロリンパでした。人騒がせな。マジな副作用が例外的なのは事実ですが、どうやら個人差はかなりあるもののワクチン接種によって不具合はでる模様。むろん平気な人もたくさんいるでしょうが。

 注射したあと即帰宅したツレの話を聞いて、接種後の待機はなくなったと書いたのも間違い。わたしはストップウォッチを渡されて15分間ウェイティングさせられました。みんなお喋りしてるわけじゃないし、マスクしてるし、換気のためにすべてのドアや窓は開け放たれている(寒かった)けれど、こんな集団の中に混ざるのは一年ぶり以上。ちょっと怖かった。

 こういうレベルでの間違いは――もちろん、わたしのおっちょこちょいは否めませんが――どんなにしっかり調べて書いているジャーナリストでも犯してしまうのがコロナ禍。拙著『英国ロックダウン100日日記』(本の雑誌社)で、コロナの温床として口を極めて罵ったぎゅうぎゅう詰めの海岸風景も、調査の結果、ただのひとつもクラスターが発生していないことがわかりました。尤もやはりあの一群に積極的に加わろうという気持ちにはなれませんが。

◆1月の京都新聞を読み解いてみる

 京都新聞の1月16日版に掲載された「独居80代、6日間入院できず自宅で死亡」の記事。病床使用率30%台でも受け入れられず、という見出しに憤りと哀しみを禁じえませんでした。けれど少々引っかかるものがあっていろいろ調べてみると重大な「間違い」が見え隠れしていることを発見したのです。

 端的に申し上げれば、保険制度(NHS)のおかげで医療が無料の英国とは異なり、あくまでビジネスである日本では病床使用率30%じゃ経営が成り立たない。そして記事の中ではどこからこの30%という数字が出てきたのか明かされない……ってことです。

 わたしはこの記事が嘘だとは言いません。「ただコロナのせいで他の病気の患者が受け入れられず病床使用率は30%で病院の経営は大ダメージですが、コロナ患者受け入れ可能なベッドは100%を越えています。他のベッドも開放したいけれど日本医師会の決めた基準がとても厳しいので」って話も聞きました。ちょっと印象が変わってきますね?

 亡くなったお年寄りの話は疑うべくもない悲劇。しかし悲劇を強調しようとするあまり誤謬(ごびょう)が混入しているのではないでしょうか。うちもそうだから痛いほど理解できますが家族に独居老人を抱えた人たちは気が気ではありません。間違いであっても、こういう記事には飛びついてしまう。飛びついて大騒ぎしてしまう。だからこそ冷静でいたいもの。

 でも、うちみたいな物理的にも精神的にも距離のある関係ですら、けっこう今回は厳しいものがありますね。わたしがワクチン接種の日程を受け取った2月12日、日本にはようやくワクチンの第一便が到着してます。これは先進国(にカテゴライズされる国)でビリ。ビリけつ。べべたこ(←京都語)。でもってわたしがワクチンの影響で使い物にならず寝そべって過ごしていた17日、ようやく接種第一陣スタート。

 もうね、わたしは呆れるというより腹立つというより84歳の母に申し訳なくってね。電話して「注射してきたよー。もう大丈夫。そっちも早く打ってもらえるといいね」といいながら鳩尾が痛くなりました。生理的に納得できないんですよ。順番が違うやろ! こっちよりばあさん先にしたってや! みたいな。

◆英国でも貧困層を襲った新型コロナ

 2月17日のガーディアン紙(掲載は翌18日)に政府の公式解析チームJoint Biosecurity Center(JBC)による機密分析の未発表政府報告書リーク記事がありました。本来ならトップに来て然るべき内容ですが、漏洩記事の場合「間違い」を忌避して大見出しを躍らせない品位と自覚がこの新聞にはあります。

 かなり早い段階から新型コロナは差別的ウィルスだといわれていました。貧困層がより多く犠牲になっていると。このリポートはそれを数字で立証した内容。それによれば、いくら政府が企業をサポートしても現金収入を失う余裕のない人々は自己隔離せずパンデミックの直接原因となった。さらには220億ポンドのテスト・アンド・トレース計画の失敗がそれに拍車をかけた――という結論に至っています。

 もしかしたら、ある意味目新しくない言説かもしれません。ただそれが公式な事実として認められたのは大きな出来事。英国で最も被害が大きかったブラックバーンやレスターでは、自己隔離のための経済的支援を拒否された人が他の地域より頭抜けて高かった事実には、指紋のべったりついた凶器が発見されたようなショックを感じました。

「ああ、コロナ禍は紛れもない人災なのだな」と。

 資産がないことの証明は、資産があることを証明するよりも難しい。しかしそんなこといってる場合じゃなかったんですよね。そして、いまでも現在進行形でそんなこといってる場合じゃない。貧困を理由に1日に少なくとも2万人以上が隔離命令に準拠していないというのですから。

 先述したビーチ集団と同様にわたしはレイヴやクラビングで大騒ぎしている連中を目の敵にしていました。けれど褒められたもんじゃないにせよ、それらの無軌道がパンデミックを加速させているのではなかった。ヘルスケアやソーシャワーカー、バスやタクシーの運転手、スーパー店員など公的な役割を担う労働者が被害者であり加害者になっています。

◆隔離的生活やワクチンへの理解を促す動き

 現在英国ではロックダウン規定違反者への厳しい罰金制度を取っています。それは駐車違反のチケットにも似て問答無用。初犯200ポンド。二度目以降は常習者と判断され6,400ポンドという高額を請求されます。30人越え集団の主催者には1万ポンド! でも、現実的にはあんまり意味がないみたいですね。

 北風と太陽ではありませんが、パンデミックを抑えようと考えたら経済的な弱者の直接的な援助に行き着いた、というのがJBCレポートの本質です。現在行われている500ポンドのサポートはあまりにも脆弱なんですよ。対象者が限定され過ぎているので。検査で陽性が出た申請者には全員に授与する計画が進行中ですが、なんとか可決されますよう。

 このレポートに指摘されるまでもなく現英国内における社会的経済不平等は黒人やアジア人(こちらでアジアンというと東アジア系ではなく主にインド系の人たちを指す)のマイノリティを中心に観察されます。貧困は不衛生に直結していますし、狭い住宅環境で多世帯が共同生活を営めばどうしてもコロナに狙われやすくなる。

 これはとても重要なことだと思うんですが、スコットランドやアイルランドはそういった環境に暮らす人たちに向けてどうすれば感染リスクの少ない隔離的生活ができるのかのガイダンスを行っているのです。知恵と工夫でサバイバルする術を発信している。なにやってんだイングランドは!

 それからね、マイノリティは民族的なポリシーや独自の価値観、宗教理念などによってワクチンを嫌がる人達がかなりいるんですよね。政府は、それらのワクチン接種に抵抗がある人達に向けてのTVキャンペーンを始めました。それぞれの民族を代表するローカルヒーロー≠スちが出演して自分たちの言葉≠ナ語りかける接種のススメです。

◆今回ばかりは「注射打とうね」と思う

 そういえば注射のあと、自分が打ったワクチンの栞とともに様々な言語で「このナンバーに連絡してワクチン接種の予約をしてください」と書かれた紙を渡されました。これは住民登録のない人に向けてのメッセージ。マイノリティの家族には、そういう人もたくさんいますから。そして現在はつべこべいわず全員に打ってもらわないとダメな段階ってわけ。

 英語を含め17ヶ国語で記されたそれは英国在住の人口比率に従っているわけでもなく、世界の使用言語人口に準じてもいない。ドイツ語やフランス語といったポピュラーな言葉もない。なのにルーマニアやアルバニア語はある。つまりはこれ、英国の貧困層における人種分布なんですよ。

 日本人にもおられますね。ワクチン断固拒否みたいな方々。訊けばそれぞれにご尤もな理由を説明してくださいます。はいはい。御高説は承りました。が、これまで聞いてきたいずれもが「それゆえに他者(とりわけ貧困層)の感染するリスクを高めても致し方ない」と納得させてくれるものはありませんでした。

 心に残るのは自分のためなら人が犠牲になっても平気な人なんだなという感想のみです。

 ちょっとだけ自然農法のエピソードに似ています。都会からやってきたセーコーウドクの意識高い系のみなさんが農薬や化学肥料を一切使わない畑をこしらえちゃったせいで害虫が大量発生したり植物の病気が伝染して周りの畑も全滅しちゃったってアレです。有機栽培も無農薬も素晴らしいことですが地域で連携せずに生兵法で勝手に突っ走るとエライこっちゃになってしまうのです。

 

◆入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns【再封鎖6週目】2/11-17

<文・写真/入江敦彦>

【入江敦彦】

入江敦彦(いりえあつひこ)●1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『イケズの構造』『怖いこわい京都』(ともに新潮文庫)、『英国のOFF』(新潮社)、『テ・鉄輪』(光文社文庫)、「京都人だけが」シリーズ、など京都、英国に関する著作が多数ある。近年は『ベストセラーなんかこわくない』『読む京都』(ともに本の雑誌社)など書評集も執筆。その他に『京都喰らい』(140B)、『京都でお買いもん』(新潮社)など。2020年9月『英国ロックダウン100日日記』(本の雑誌社)を上梓。

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