NHK他が報じた「2021年版北朝鮮カレンダー」は北朝鮮製でなく中国製だった!?

NHK他が報じた「2021年版北朝鮮カレンダー」は北朝鮮製でなく中国製だった!?

2021年カレンダー表紙。右下に出版元情報がない

 2月上旬、NHKが今年の北朝鮮カレンダーを入手し、新たに11月29日がロケット工業節に定められたことを確認したと報じた。その後、フジテレビなども相次いで大々的に報じた。

 しかし、現時点でも北朝鮮カレンダーが北朝鮮から輸出されたとの情報はない。カレンダーだけではなく、あらゆる出版物や貨物は中朝国境で留め置かれている状況が続いている。

◆報道を見て覚えた違和感

 NHKの報道を見て違和感を覚えた。

 「北朝鮮の会社が販売し、中国で印刷された2021年カレンダーを入手し、確認した」

 元がラジオニュースから活字に起こしたものである点を考慮しても日本語として変だ。気になったので、北朝鮮との貿易をしている中国・瀋陽の会社へ連絡して、問題のカレンダーを取り寄せてもらい検証してみた。

 結論から書くと、このカレンダーは北朝鮮“風”カレンダーであって、北朝鮮カレンダーではないことが分かった。

◆2021年版”北朝鮮カレンダー”の特徴

 確かに長方形の形状、表紙の主体暦と西暦の並び、フォントなどデザインは一見すると北朝鮮っぽさを感じさせる。しかし、よく見ると表紙下には例年の北朝鮮カレンダーには明示されていた発行元の表記がない。

 2021年カレンダーはこの1種類のみで、主に北朝鮮女性が描かれた油絵調の絵画がデザインされている。男性が確認できるのは、2、3、10月の3か月分のみとなる。女性を主役にしたカレンダーのようだ。

 毎月の絵画右下には作品テーマらしきものが短く書かれている。いずれの月も3文字から8文字と短いため作品名ではないと思われる。

 暦の下にはその月に過去、北朝鮮で起こった代表的な出来事、祝日が紹介されている。だが、採用絵画の作品名や作者名、制作年は書かれていない。

 北朝鮮が過去に発行した美術・調度品カレンダーには、作者名や作品名、制作年と調度品に関するエピソードなどが紹介されていたが、今回のカレンダーにはない。

 北朝鮮にとって海外へカレンダーを販売する目的は、単なる外貨稼ぎだけはない。「宣伝画」として 体制宣伝の目的もある。よって、絵画1つにしても指導者を持ち上げるエピソードをふんだんに盛り込んでくるのが、例年の北朝鮮カレンダーらしさだったりする。

 さらに気づいたのは、表紙一番上に例年のカレンダーと同じく「偉大なる金日成主席と金正日総書記は常に私たちと共にある」が書かれているものの、例年では確認できる北朝鮮国旗や朝鮮労働党旗などが確認できない。

 果たしてこのカレンダー、本当に毎年リリースされる「北朝鮮カレンダー」と同一のものなのだろうか?

◆北朝鮮風の中国製カレンダー!?

 どうやらこのカレンダーは、北京にある北朝鮮の書籍など著作物などを代理販売している中国企業Aが顧客向けに制作したサービス品であることが分かった。

 A社は、昨年の夏以降、北朝鮮書籍を輸入できておらず、当然ながら販売できずにいる。そのため、詫びと今年へのつなぎの意味があるのではないか、とAの顧客である前出の貿易会社代表は話す。

 1月末、A社からカレンダー販売の案内が届く。その案内のサンプル画像の表紙下にはA社の社名が載っていたそうだ。しかし、どこかの顧客に突っ込まれたのか、製品版ではA社の名前は消されて表示なしになっていた。

 「(北)朝鮮のカレンダーと案内しているのに発行元が中国企業名だったら変じゃないですか。それって朝鮮製ではなく中国製のカレンダーってことですよね?」(貿易会社代表)

 どうやら絵画の作品名が表示されていないのも、国旗がないのも北朝鮮本国の使用許可が得られなかったからだとみられる。というのも、北朝鮮は、国旗や国章などを使用するときには、平壌のしかるべき機関の許可が必要で、厳格に管理されているからだ。 

 

 貿易会社代表は、カレンダーを作る許可はもらえて、暦情報などは反映させたけど、国旗や国名を載せる正式許可はもらえなかったのではないかと推測している。

◆今年の「北朝鮮カレンダー」は日本にも輸入できる!?

 このカレンダーは、元々北京で作ったものなので、当然、発行国は北朝鮮ではない。つまり、北朝鮮風カレンダーであり、中国製と認識していいだろう。

 とすると、日本政府が実施する「北朝鮮を原産国とするあらゆる商品の持ち込みを禁ずる」とした日本の独自制裁には抵触せず、12月に大同江ビールを無許可で輸入・転売した容疑で書類送検した男性への法的根拠となった外為法にも抵触しないと思われる。

 しかし、このカレンダーは別の大きな問題を抱えている。レア度が高いのは間違いないが、著作権が限りなくアウトに近いのだ。日本の法人などが輸入・販売すると著作権法違反に問われかねない品物だ。

 2月にこのカレンダーについて取り上げたNHKなどが、ロケット工業節へ焦点を当てて、出どころをあえて曖昧にしたのは、著作権がグレーであることが分かったからではないだろうか。

  当初はA社の顧客15社ほどへのサービス品だったようだが、不評だったのか、多く印刷しすぎたのか、現在はオンラインで誰でも買うことができる。

 

 中国では日本と比べてカレンダー需要が低いためか、小売向けECサイト最大手の淘宝網や卸売向けのアリババでも確認できないが、A社のWeChat(ウィーチャット)アカウントで販売されている。

 北朝鮮で買える本家北朝鮮カレンダーと比べると2、3倍ほど高いが、それでも1コインで買えるくらいの価格で売られているので、意外と良心的な価格なのではないだろうか。

<取材・文・撮影/中野鷹>

【中野鷹】

なかのよう●北朝鮮ライター・ジャーナリスト。中朝国境、貿易、北朝鮮旅行、北朝鮮の外国人向けイベントについての情報を発信。東南アジアにおける北朝鮮の動きもウォッチ。北レス訪問が趣味。 Twitter ID@you_nakano2017

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