ロンドン再封鎖7週目。早くもロックダウン終了を打ちだした英国の出口戦略<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

ロンドン再封鎖7週目。早くもロックダウン終了を打ちだした英国の出口戦略<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

緩和策の発表からこっち本格的な春の訪れを予感させるようなお天気が続いています。浮かれるなといわれても難しいお日和。でも気温はまだ低いから普通の風邪に気をつけねば

◆ワクチン摂取の先の日程

 2月21日、待望のロックダウン終了プランが発表されました。まだまだ多くの人たちが新規に感染し、死者も相当数あります。病院の状況もかなり厳しいのが事実です。が、感染者はコンスタントに1万人を、死者も千人を切るようになりました。また、ワクチンの効果が確実に数字になって表れ始めています。英国に住む者にとって、そろそろ希望の光が必要なタイミングだったといって差し支えないでしょう。

 政府案は、たぶんみなが予想していたよりも堅実で地道なものではありました。悪采配で支持率だだ下がりのジョンソン首相は「いまのを最後のロックダウンにします!」と何度も繰り返していました。これはそのためのプラン(*参照:BBC)であると。

 一度目のロックダウン終了時の大雑把な――あるいは経済優先の、と言うべきか――タイムスケジュールに比べると今回はまことに微に入り細に入った計画となっています。専門家主導に舵を切らざるを得なかったのでしょう。すべては説明しきれないので、ガイドラインを追いながら日本人の興味を引きそうなポイントを?い摘んで紹介していきましょう。

 まず3月8日から学校授業の再開。運動や競技も許可されますからようやく校庭に賑やかな子供たちの声が帰ってきます。そして野外に限って同居人以外のひととも(むろんソーシャルディスタンスを守ってマスク着用の上で)立ち話がオッケーになります。

 さらに、これこそ待ちに待った<Pアホームへの定期的な訪問が一人限定とはいえできるようになりました。介護施設がクラスタ発生の温床であることに変わりはないので英断と申せましょう。70歳以上のお年寄りとワーカーへのワクチン接種がほぼ完了したからこそとはいえ。日本も検査こそ気軽に受けられるようになってきたみたいですが、老人が集団で暮らす場所への出入りはワクチンありきが常識だから。

 3月29日には6人まで、または二家族の野外での交流が認められます。オープンエアの運動施設が解放され、近隣地域なら車や電車で移動してもかまわなくなります。いまのところ公共の交通機関を利用しないと行けないでいる魚屋やケーキ屋、パン屋、日本食材の店などを再訪できるのは、このへんからでしょうか。通販できるものもあるとはいえ待ち遠しい限りです。こっちは宅急便もないしなあ。

◆条件つきで動き出す社会

 その次のステップは4月12日。不要不急以外のショップがようやくビジネスを始められるようになります。ジムや屋内プールも再スタート。ホテルなど宿泊施設を利用できるのもここから。おそらく細々とした条件はつくし、自己隔離の可能性もありますが海外からの客も想定しているでしょう。

 というのも、このままの調子でいけば、4月の末までには50代以上のひとと基礎疾患のある人々、キーワーカー、対面販売に携わる労働者など感染リスクが高い人々への接種に決着がつきそうだからです。そうなればクラスタ発生の可能性がかなり低くなり、社会を大きく動かせるようになるという判断でしょうね。

 それでも3月末にGoサインが出た6人以下二家族限定でのソーシャライジングを室内でやってもいいよーということになるのは5月15日。「密」になるのがいけないというより「密になってお喋りする」のが問題なんだな、やっぱり。飛沫ダメ絶対!

 あまり指摘されないことですが日本語って普通に話している分には破裂音が少なくてあまり唾が飛ばない言語なんですよね。英語はイタリア語ほどでないにせよ唾ぺっぺ。存外そのへんにも日本でパンデミックが深刻にならなかった理由があるかも。ほら、東北地方はとりわけ僅かだったでしょ? 北の方言は美しい鼻濁音が多く言葉が散らないじゃないですか。言葉が散らなければウィルスも散らないってわけ。

◆「6月21日」の出口の根拠

 お話戻ってロックダウン緩和の最終段階は6月21日。人が集まる劇場や映画館などのビジネスも幕が上がり、誰かと会ったり食事したりも自由にできるようになる。但しマスク着用がデフォルトだろうし、ソーシャルディスタンスや換気の工夫も求められるはず。公共交通機関でもそれは同じでしょう。

 今回のプラニングが昨年と最も異なる点は、それぞれの項目について科学的な根拠を添えていることです。専門家のレポートをベースに執拗に「なぜならば」という理由を述べている。これは政府の責任逃れではなく、ある意味、謙虚になった証拠なのだと思いたいところです。プロフェッショナルの進言を七週間無視し続けた挙句のロックダウンなのですから当たり前といえば当たり前なんですが。

 レポートの中には対策案を練り上げるにあたって重要な役目をはたしているロンドンのインペリアル・カレッジのモデルケース提示が含まれていました。規制が急速に緩和されると、この夏にはまた死亡者が急増するというかなり恐ろしいものです。それによればこれから一年、2022年の半ばまでにさらに8万人が死亡するかもれないとか。

 すでに12万人が死んでいますから合計すると本当にトンデモない数字。けれど今回発表されたような長期的な緩和策に従えば3万人程度に抑えられるはずだとか。3万人は充分多い気がしますが、インフルエンザ大流行した年の死者がそれくらいだと説明されれば、ああ、なるほどねと納得できます。

 しかし以上の内容は前述したようにワクチン接種の徹底が大前提。2月中にも2千万人を越しそうな第一回目のワクチン接種は、このままの勢いならば9月末までには全国民が終えている計算なのですが、さて。ジョンソン・アンド・ジョンソンの製品もじき加わりますからワクチン不足はなさそうですが。

 不安材料は前回に書いたようにアイデンティティの違う移民のみなさんやお年寄りなどワクチンに拒否感がある人たちの存在。あの手この手で子供をあやすような推進キャンペーン実施中ですが、ユニークなところでは24日に女王陛下のズーム会議での発言がありました(アップロードは25日)。

 80万人のフォロワーがいる英国王室公式ユーチューブチャンネルでいまでも視聴可能です。そのなかで彼女は自らのワクチン体験を語っていました。「痛くもなんともなかったわ」「嫌がる人達の気持ちは分かるわよ、けどいまは自分のためではなく周りのみんなのために注射してちょうだい!」とスピーチ。3万8000ビューありました。

 演説ではなく諭すような語感でもなく、まるで家族と話すような調子だったのが印象的でした。きっとあんな感じでチャールズ皇太子やウィリアムとハリー兄弟とも会話してるんだろうな。

◆ワクチンパスポートという新しい免罪符

 しかし、ここにきて急激にアンチワクチンが欧州では増加しているようです。BBCのニュースでもキャスターがオランダに建造された接種会場からとまどったように中継していました。人けのない真新しい巨大施設というのはなかなかホラー映画な風景です。まばら、ではなく真剣に無人でしたから。

 迷信的な忌避感や生理的嫌悪によるそれではなく医療関係者までもが明瞭に説明できない心理的抵抗感からワクチンを拒否しているケースが散見されているんですって。陰謀論とまではゆかずとも医者が噂や風聞を根拠に駄々こねるってなんじゃそりゃ。「打たないってわけじゃない。よりベターなものを待ってるんだ」……らしいのですが。

 あくまで印象論ですがアメリカと並んで、かなりぎりぎりのところまで追いつめられたせいで英国では野火のごとく接種が広がっているのかもしれませんね。あきらかにパブリックプレッシャーが働いている。普段は同調圧力を厭がって勝手に生きてる♂p国人ですが、それゆえに一致団結するときはする国民性でもあります。緊迫感が伝わってきます。

 現在計画が進んでいる「ワクチンパスポート」なんかも本来なら歓迎されないアイデアなんですよ。しかしことあるごとに検査をして陰性証明を提示しなければならないスタイルは様々な歪みや齟齬が社会にもたらせます。いまはまだ全体の動きがゆっくりなのでなんとかなっていますが、このままでは効率の悪いことこのうえない。遠くで嚏(くしゃみ)する音を聞いただけでビクつかなきゃならないなんてゴメンですもん。

 接種を二度受けた人に自動的に発行されるカードの携帯は、これからの英国にはなくてはならないものになるでしょう。とりわけスポーツの試合やコンサートなど大勢の集客が見込まれるイベントでは提示が必須になるはずです。コロナは症状がほとんど出ない感染者でも重篤な患者と同じだけのウィルスを保有する事実がわかっているのでなおさら。

◆新型コロナが残す疑心暗鬼

 もしかしたら、いいえ、確実に【疑心暗鬼】は新コロの症状のひとつに数えられるのではないでしょうか。尾ひれ羽ひれがついて、しまいには医者の目さえも曇らせてしまうのも、その一例でしょう。

 先日、わたしの友人が拠無い事情で日本へ一時帰国していましたが、そりゃあもうひどいバイキン扱いを受けたそうです。英国は滅亡寸前みたいな報道がされていたようなので理解できなくはないけどさあ。

 もちろん用意すべき陰性証明は所持しているし、GoToだなんだ浮かれてたジャパニーズより彼女はよほどクリーンなんですが、頭でわかっていてもそれで納得してくれるわけじゃないから。

 【疑心暗鬼】と並んで大変に厄介な症状である【孤独】が膿んで腫れが大きくなってきているのも気持ち悪いなあ。独居老人や一人暮らしのマイノリティにとって日常のささやかな触れ合いがどれほど切実に必要なものだったかがロックダウン下では照射されたみたいに浮かび上がってきます。

 わたしのツレは『Friend』というLGBTQを対象にしたサポートグループで、孤独に蝕まれた人たちのズームミーティングホストのボランティアをやっています。もうね、日に日に彼ら彼女らのフラストレーションが溜まってゆくのを実感するそうです。孤独の膿は腐臭がしますから蠅もたかってきます。得体のしれない宗教(カルト)信者たちの暗躍が始まっているみたい。このご時世に三密空間で愛を説くとか、まさに悪魔崇拝ですね。

◆入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns【再封鎖7週目】2/18-24

<文・写真/入江敦彦>

【入江敦彦】

入江敦彦(いりえあつひこ)●1961年京都市上京区の西陣に生まれる。多摩美術大学染織デザイン科卒業。ロンドン在住。エッセイスト。『イケズの構造』『怖いこわい京都』(ともに新潮文庫)、『英国のOFF』(新潮社)、『テ・鉄輪』(光文社文庫)、「京都人だけが」シリーズ、など京都、英国に関する著作が多数ある。近年は『ベストセラーなんかこわくない』『読む京都』(ともに本の雑誌社)など書評集も執筆。その他に『京都喰らい』(140B)、『京都でお買いもん』(新潮社)など。2020年9月『英国ロックダウン100日日記』(本の雑誌社)を上梓。

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