リモート授業後、中継画面の切り忘れで教員会議がダダ漏れ。大学側の闇トークが露呈し大炎上
2021年03月10日 08時32分 ハーバー・ビジネス・オンライン

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コロナショック以後、職場や学校ではリモート会議や授業が導入され、新たな日常の一部となっている。しかし、もしビデオを切り忘れ、あらぬ発言が相手に聞こえてしまったら……。筆者が住んでいるポーランドでは、そんな事態が現実のものとなってしまった。
◆授業のあとにマイクを切り忘れ
思わぬ形で「本音」を漏らしてしまったのは、現地邦人の間で「コペ大」の愛称で知られるニコラウス・コペルニクス大学ブィドゴシュチュ校、そしてグダニスク医科大学の教員だ。(参照:TYLKO TORUN、Interia)
ことの発端は、リモート授業が終わったあと、教員がマイクを切り忘れていたこと。教員たちが気づかずに、そのまま試験についての会議を行っていたところ、一部の学生がそれらの会話を録音し、ネット掲示板に投稿したことで、大炎上してしまったのだ。
これだけなら、「ビデオの切り忘れ」といううっかりニュースで済みそうなものだが、問題は録音された会話の内容だ。
「前にも話しましたが、リモート形式では合格率が高すぎます。なんとかしないと」(教員A)
「ウチは学校で試験を行うには密すぎます。学生にとってそれがいいかどうか。授業の単位はリモートで取ったのに、試験は生に変えられるのか。40%が合格してしまう可能性がありますし、そうなったら学長に呼び出されます」(教員B)
ご覧のとおり、いかにして学生たちを「落とす」かについて話し合っていたというわけだ。これだけでも大問題だが、その裏にはさらに「教育ビジネス」の闇が隠れていた。
◆再試験や履修で莫大な「基金」を形成
何故そこまでして学生を落としたがるのか不思議に思う読者の方もいるだろう。その答えは、録音されたグダニスク医科大学教授の会話に隠されている。同教授は、自身が集めている「基金」について、次のように話した。
「解剖学はたいてい再試験になります。構内では『基金』と呼ばれていまして、というのも8000ズロチ(約22万5000円)かかるんです。お金は大学に入ります」
「Interia」の記事によれば、この「基金」の金額はさらに増しており、さらに試験に落ちて再履修となった場合は学費もかかる。今回のケースでは、毎年20人ほどの学生が留年するため、「基金」の金額は約5600万円にものぼるという。
問題の発言を行った教授は、次のようにも話していた。
「私は(試験を)オンラインで行いますが、もう(聞き取り不可)○人不合格者がいます。彼らのチャンスはゼロです。事実上、刈り取っているんですよ。オンラインでね。たったの45秒で済みます」
この発言を聞いた別な教員たちは、「私たちの(学生への)要求は高すぎますが、できなければいけないので」とフォローしつつも、次々と自分たちの不合格者の数などを話し合っていたという。
意図的に合格率を操作し、再試験の費用や学費を「基金」として集める……。教員たちの会話は「本音」どころか、教育ビジネスの闇そのものだったのだ。
◆リモート授業に対応しきれない面も
思わぬ形で自分たちが搾取されていることを知ってしまった学生たち。現地の現役学生たちに話を聞くと、やはりその声には怒りがこもっていた。
「今回の事件は控えめに言っても不祥事ですし、倫理的ではありません。僕の意見としては、大勢の学生を試験に合格させるべきです。それだけ普段の授業で知識を得たということの裏返しですから。わざと学生を不合格にすることはナンセンスですし、本来の目的から逸れていると思います」(男性・19歳)
ただ、なかにはリモート授業を強いられる教員の気持ちがわかるという声もあった。
「学生としては複雑な気持ちです。部分的には教員の言い分も正しいと思います。1回目の期末試験の結果は高かった、高すぎるぐらいでした。リモート授業になってからはグループでの回答や、さまざまな勉強ツールが利用されるようになりました。この状態が一年以上続いていて、学生の理想や意欲は劇的に低下しています。教員から見ても私たちの(学業への)関与が減っていますし、『カンニング』を防ぐために及第の仕方も変わっています」(女性・19歳)
学生のなかには、ビデオを切ってバイト中に授業へ「出席」している者もいるという。また、ウェブ上での提出物が増えたことで、コピペなどの「カンニング」が増えているのも事実だ。
「ただ、それでも学生の採点の仕組みには大きな問題があります。今回の事件は、学生が真面目に、平等に扱われていないことを示しています。これによって、ますますリモート授業に意味があるのか、懐疑心が増したと思います」
◆ビデオの切り忘れが明るみにした「闇」
単なるビデオの切り忘れから、教育ビジネスの闇、そしてコロナショック下での教育のあり方にまで議論が飛び火した今回の事件。リモート普及によるトラブルや、学業よりも集金が目的となってしまった教育現場の問題は、我々日本人にとっても無関係ではない。
以前、話題となった医学部の女性差別問題など、我々がニュースで目にする話題は氷山の一角であると言えよう。教育問題がリモート会議を通じて明るみに出るというのはコロナ時代ならではかもしれないが、その根底には長きにわたって閉鎖的・不透明な部分の多い、教育界のあり方に原因があるのかもしれない。
このように、今回のケースから我々が学ぶことはたくさんありそうだが、兎にも角にも、まずはリモート会議のビデオをお切り忘れないよう、くれぐれも気をつけていただきたい。
<取材・文/林 泰人>
【林泰人】
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン