一斉休校で仕事を休む母親たち。休校助成金の活用求め政治を動かす

一斉休校で仕事を休む母親たち。休校助成金の活用求め政治を動かす

画像はイメージ(adobe stock)

 昨年2月、新型コロナウイルスの感染防止対策の一つとして政府は一斉休校を決めた。そして休校・休園に伴い休まざるを得ない保護者の賃金を補償するために、当時の安倍晋三首相は「(一斉休校で減収の親に)新しい助成金制度を創設することで、正規・非正規を問わず、しっかりと手当てする」と表明し、小学校休業等対応助成金制度(以下、休校助成金)が創設された。

 しかし1年が経過しても休校助成金が使われない実態があり、予算執行率は1/4にとどまる。いま、子どもを育てながら働く親たちが中心となって、休校助成金制度の改善を求めるアクションが全国に広がっている。

◆小学校休業等対応助成金とは

 小学校休業等対応助成金とは、臨時休校・休園となった小学校・幼稚園・保育所等に通う子の保護者が休業した場合、有給の休暇(年次有給休暇を除く)を取得させた企業に対して、国がその10割を助成するものだ。

 正規雇用・非正規雇用を問わず、労働者の所得の減少に対応するために作られた制度であり、休校助成金を活用すれば、会社は負担を負うことなく、従業員に対して10割の休業補償を行うことができる。厚生労働省も「保護者が希望に応じて休暇を取得できる環境を整えていただけるようお願いします」と、積極的な活用を呼び掛けている。

◆活用しない会社が多発

 休校助成金制度を積極的に活用した職場の労働者からは、「年次有給休暇が少なかったので、制度を使えて助かった」といった安堵の声が聞かれた。

 その一方で、休校助成金制度を活用しない会社も多くある。休校助成金は総予算1719億円のうち464億円しか執行されていない(1/29時点)。休校助成金制度を活用しない会社側の理由は大きく分けて3点ある。

 まず、会社が「制度を知らない」という理由があげられる。本来は会社側が調べるものだが、筆者が執行委員長を務める首都圏青年ユニオンは制度活用の理解を粘り強く求めて活用を促しているところだ。

◆出勤した社員と不公平?

 その上で会社側からは、「勤務した職員と不公平」との反論がある。出勤した職員からも「仕事の負担が増えた」との声が上がっているという。しかしこの点で考えてほしいのは、休んだ職員は好きで休んだわけではなく、政府の一斉休校によって「休まざるを得なかった」ということだ。小学校低学年の子どもや未就学児・乳幼児を家に一人にして出勤できるだろうか。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「全国1万人調査 『緊急事態宣言下における日本人の行動変容』」には、「臨時休校や、通園・通学の自粛等の間、親が通常仕事をしている日中の子どもの過ごし方」との設問がある。

 そこで「子どもだけで過ごしている」との回答は、「未就学児(3歳〜就学前)」が10.4%、「乳幼児(0歳〜2歳)」は3.8%となっている。大多数は回答者本人や配偶者・パートナーが仕事を調整して子どもの面倒を見ているのだ。子どもの預け先がなければ保護者が仕事を調整するしかない。すなわち休業するしかないということだ。

 休校助成金制度を活用したら、会社の負担なしに休んだ職員の給料は補償できる。出勤した職員の負担が増えた点を考慮するのであれば、「休まざるを得なかった」職員の給料をカットするのではなく、会社として出勤した職員の負担をどのように補償するかを別途検討すべきだ。

◆「法律違反ではない」

 しかし組合がこのように団体交渉で提案しても話がこじれてしまうことがある。会社側は「これ以上は会社の制度の問題なので会社で決める」「法律違反をしているわけではない」と言って態度を硬化させてしまう。こじれるのには理由がある。休校助成金の活用は会社にとって義務ではないためだ。

 そもそも労働契約上で欠勤の取り扱いは、「会社都合欠勤」と「自己都合欠勤」しかない。現行制度で欠勤した際の休業補償は、「会社都合欠勤」にしか適用されない。雇用調整助成金や休業支援金は「会社(事業主)都合」で欠勤させた場合の休業補償となっている。従って、一斉休校に伴う労働者の休業は、「自己都合欠勤」となり、会社側には「自己都合欠勤」を積極的に補償する義務はない。

 このため、さっぽろ青年ユニオン(北海道札幌市を中心に活動する労働組合)では休校助成金に関する2件の団体交渉が決裂したという。コールセンター最大手の大企業は制度を十分に利用せず、休業した労働者は減収となった。アパレル某社は制度自体を全く活用せず、休業した労働者は減収となり、子どもの習い事も断念せざるを得ない状況に追い込まれた。

◆休校による休業は「政府都合欠勤」

 しかしここで、休校助成金制度が始まった経緯を思い出してほしい。政府が一斉休校を決めて、安倍晋三首相は「(一斉休校で減収の親に)新しい助成金制度を創設することで、正規・非正規を問わず、しっかりと手当てする」と表明したものだ。

 一斉休校に伴う労働者の休業は「自己都合」なのだろうか。それとも「会社都合」なのだろうか。答えはどちらでもない。政府が決めた一斉休校に伴う休業なのだから、これは「政府都合」欠勤なのだ。「政府都合」欠勤だから、既存の休業補償制度の枠にあてはめても矛盾があり補償は一向に進まない。団体交渉もこじれてしまう。「政府都合」欠勤なのだから、政府は早急に補償できるように対応を改めるべきだ。

◆「#子育て緊急事態宣言」アクションが動かした政治

 休校助成金が活用されないという当事者の声は徐々に広がり、昨年から休校助成金が活用されなかった親のグループを中心に、休校助成金の個人申請を求める署名や、厚生労働省への要請も取り組まれた。

 そして今、休校助成金制度の改善を求めるアクションが共感の声とともに全国に広がっている。2月28日には当事者らが「子育て緊急事態宣言を発出する」として休校助成金の個人申請を求めるアクションを開始した。3月1日にはハッシュタグ「#子育て緊急事態宣言」を付けたTwitterデモが呼びかけられた。ツイート数は1万5千以上に上り、トレンド入りも果たした。

 そして、このアクションの直後に政治が動いた。3月4日に政府は、企業が申請しないことで助成金を受けられないケースが相次いでいることから、保護者本人が申請すれば受給できるよう、制度を改める方針を固めたことが報道されたのだ。

 政府をも動かした原動力の背景には、声を上げ続けた当事者らの努力があった。保護者たちが作ったグループである「#子育て緊急事態アクション」の中心メンバー田中小夏さんはスピーチでこう話していた。

「息子から突然『ママ、好きだった仕事、辞めさせてしまってごめんね。オレのせいで辞めたんだよね』と言われました。なぜ私は子供にこんなことを言わせてしまわなければならないのでしょうか。子供が長時間留守番できないから悪いのか、代わりに出勤した人からの不公平や自己責任、『私は休めないから子供を留守番させて仕事に行った』(という人もいました)様々なことが起きたと思います。

 これは私は違うと思っています。休校や休まなきゃいけないのは子供や親の自己責任ではない。子供の個性やそれぞれの子育ての大変さは誰にも計りきれないです。

 子育てしている労働者もその子供達も、安心して希望を持って生きていけるような社会になってほしい。このまま諦めていたら、自己責任だった、子供が自分のせいだったと思ったままだとダメだと思い、私は諦めることをやめて今ここに立ち上がっています。

 子育てしながら仕事をすると理不尽なこともたくさんあります。でも、それと同じくらい子育てをして学ぶ事や希望も貰えます。私たちは一人ではないです。

 私は今週、子どもを寝かしつけた後、仕事の合間、いろんな時間をぬって、これから始めるアクションのミーティングを重ねてきました。なぜなら諦めずにみんなの声を届けることに希望を持っているからです」

◆コロナ禍で補償から漏れる人が続出

 持続化給付金や休業支援金・給付金、そして休校助成金など、コロナの影響によって収入が減った労働者への補償政策がいくつも創設されているが、今回の休校助成金のように制度はあっても企業が協力してくれないケースや様々な理由から制度の対象外になってしまう「補償漏れ」が多く発生している。こういった場合、何の補償もなくコロナ禍の困窮状態を乗り切らなければならない。コロナの感染拡大が長引く中、政府は補償がしっかり行き届くように制度改善などを含めた補償体制の確立が必要だ。そして、私たちの補償を求める声も大きくしていかなければならない。

<文/原田仁希>

【原田仁希】

1989年生まれ。3.11以降、反原発運動への参加をきっかけに社会運動を始める。現在は、個人加盟型の労働組合「首都圏青年ユニオン」の委員長として活動している。主に、若者や非正規労働者の労働問題に取り組む。

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