日本と欧米の女性向け「恋愛記事」を比較してみて気づいたこと
2021年03月15日 18時32分 ハーバー・ビジネス・オンライン

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我々が普段ニュースサイトなどで目にする「恋愛記事」。そのなかには、気になる相手に言ってはいけない「禁句フレーズ」、異性に「言われたくない言葉」などを扱ったものも少なくない。
当たり前だが、こうした「恋愛記事」は日本に限ったものではない。筆者が現在住んでいる東欧・ポーランドや、英語圏でもこういった記事は人気なのか、ニュースサイトやSNSで見かけることは、珍しくない。
しかし、その中身をじっくり読んでみると、欧米と日本では恋愛観に違いがあるというよりも、表現の仕方などに大きく男女格差が表れているように思えてならない。
◆ハッキリと「NO」を示す欧米
まずは、そもそもの記事タイトルだ。アメリカの「コスモポリタン」やポーランドの「クリティカ・ポリティチュナ」を例に挙げてみよう。「女性が男性に言われたくない言葉」という趣旨の記事では、下記のようなタイトルが並ぶ。(参照:krytyka polityczna、COSMOPOLITAN)
「女性が絶対に聞きたくないこと18選」
「親愛なる男性たちへ。私たちがあなたたちから聞きたくない15のこと」
「女性がベッドで聞きたくないこと10選」
◆遠回しに「忖度」を求める表現が主流?
続いて媒体名は伏せるが、日本語で同趣旨の記事を検索してみると、次のようなタイトルが表示された。
「彼氏に言われて傷ついた言葉●パターン」
「女性が言われたくないNGワード集」
「彼氏に言われたくない言葉ランキング」
まず、ハッキリと読み取れるのが、欧米の記事はタイトルから「聞きたくない」と、かなり直接的に「NO」を突きつけているのに対して、日本の記事は「傷ついた」「言われたくない」と、やや遠回しな表現をしている点だ。
「NO」と言われているのに、そうしたフレーズを繰り出せば、男性は加害者である。
いっぽう、「傷ついた」「言われたくない」という表現では、「意図せずして否定的に受け取られてしまう」こともあるので、男性はある意味「忖度」を求められることになる。
恥ずかしいことに、筆者も女性に対して否定的な言葉を口にして、「そういうつもりじゃなかったのに」というフレーズを幾度も発したことがあるが、日本のタイトルには、そうした自己弁護の余地を与え、「男女間の価値観の違い」でお茶を濁すようなニュアンスが、多分に含まれているように感じる。
◆「価値観の違い」で済まないハラスメント
続いて、今度は具体的に言われたくない言葉やNGフレーズを見てみよう。日本の記事で挙げられたのは、次のような内容だ。
「痩せたら?」
「女として見れない」
「つまらない」
「興味ない」
「あのコみたいになってよ」
「そんなことも知らないの、できないの」
「仕事ヒマなんだよね?」
「料理がまずい」
「肌荒れしてる」
「メイクが変」
恐らくほとんどの読者の方が感じたことかと思うが、どれも当たり前(!)である。
というか、これらの言葉を本当に男性が「悪気なく」発しているのだとしたら、ジェンダーギャップ指数が先進国中……というか世界的に低いのも納得だ。
明らかな言葉の暴力に対して、「こういった言葉をかけると女性は傷ついてしまうかもしれないから、男性は気をつけてね!」と低姿勢で諭され、女性の気持ちに男性が忖度しなければいけないのだとしたら、そうした状況自体があまりにも深すぎるジェンダーギャップを示している。
もはや個別に解説する必要もないだろうが、容姿や人格否定など、これは「傷つく」「言われたくない」という次元を越して、完全にセクハラ・パワハラだ。
◆容姿への言及がNGは共通
では、続いて欧米メディアのNGフレーズを見てみよう。
「一瞬、入れるだけだから」
「本当はしたいんでしょ?」
「すごく綺麗だよ、痩せたね!」
「疲れてるみたいだね」
「(女性は)子育てするように生まれてるんだよ。自然は騙せない」
「何かトレーニングしてる?」
「ダメな男とデートしてるから独身なんだよ」
「服装が……違うね」
「(セレブの名前や髪色など)に似てるね」
「髪型変えた?」
日本のNGフレーズに共通するのは、やはり容姿に関連したものが多いこと。ただ、表現は直接指摘するというよりも、いくぶん男性側が「褒めているつもり」であることが伺える。
いっぽう、大きく異なるのはセックスに関連したフレーズが入っていることだ。セックスも恋愛のいち要素であることは間違いないが、日本では「別カテゴリー」にわけられていることが多いように感じられた。
また、上では取り上げなかったが、なかには「サッカーは女のものじゃない」「トランス女性にしては〜」といったカルチャーに関連したフレーズや、ヘテロセクシャル以外の事例が入っていたことも、興味深かった。
◆男性に「お願い」しなければいけない社会
さて、こういったNGフレーズを日本と欧米、各メディアはどのように解説しているのか。まずは日本の解説を見てみよう。
「女性を傷つけてしまう」
「女性は隠れた努力を見てほしい」
「口に出さなくても察してほしい」
「言い方次第では嫌に思われても仕方ない」
「女性は女性として扱われたい」
こうしたアドバイスや解説を見ても、「男性に忖度してほしい」というニュアンスは顕著だ。
また、精神論に終始して、なぜ嫌だと感じるのか具体的な理由にほとんど触れていないのも問題だろう。乱暴なまとめ方をしてしまうと、どれも「女のコは嫌がるから気をつけてくれると嬉しいな」でしかないのだ。
欧米の解説を見ると、タイトルと同じく、かなり具体的に理由が言及されている。分量が多いので下記のまとめからは外したが、「化粧には毎日●分がかかる」「●%がレイプ被害に遭っている」など、数字でデータを補完していることも、嫌だと感じる原因についての説得力を増していた。
「避妊具を着けることが当たり前であってほしい」
「男性と同じく、(セックス中に)嫌だと言っているときは嫌です」
「(髪型が変わったことだけ指摘するのは)好きだと口にしない程度ってこと」
「(容姿や体型など)そんなことは知っています。言われるまでもない」
「美容には時間も気力もかかる。そもそも男性のために化粧をしていない」
読者の皆さんはこうした違いについてどうお考えだろう? 恋愛記事の内容ひとつをとってみても、欧米とは男女関係や格差に大きな開きがあるように思えないだろうか。
◆小さな差別の積み重ねが大きな格差に
ちなみに、筆者が住んでいるポーランドで女性たちに日本の恋愛記事を読んでいただいた感想は次のとおりだ。
「どれも女性が男性に『お願い』しているような印象です。私たちは平等なんだから、嫌だと思うことは膝をついて頼むんじゃなくて、相手が理解できるようにハッキリ突きつけるべきです」(20代)
「書いている人も読んでいる人もバカなんですかね……。事例はどれもハラスメントですし、こんなことをわざわざ男性に教えなきゃいけないなんて、おかしいですよ」(30代)
「見た目に関してアレコレ言われたくないのは、どこも同じなんですね。日本人女性の気持ちはよくわかります」(20代)
ジェンダーギャップ指数でG7中、最下位の日本。世界中に発信された森元首相の女性蔑視発言は日本国内からも厳しい批判を浴びたが、問題なのはこうした明らかな男女差別だけではなく、我々が日常で見過ごしているミソジニーの積み重ねなのかもしれない。
こうした話をすると、「今はポリコレがキツすぎて息苦しい」という反応を受けることもあるが、息苦しいのはこれまで不当に差別され続け、男性からハラスメントまがいの言葉を浴び続けてきた女性のほうだ。
その多くはあまりにも我々の生活や考え方に染みついており、そうした些細なことの積み重ねが、無意識に女性を差別する構造を作り上げていることは間違いないだろう。
<取材・文・訳/林 泰人>
【林泰人】
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン