9月18日に施行「医療的ケア児支援法」に期待する家族の思い

9月18日に施行「医療的ケア児支援法」に期待する家族の思い

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生きていくのに医療的ケアが必要な子はいま、全国で2万人以上。これまでは、極端に行政からの支援が不足していたため、多くの親は仕事を辞めて子どもに付き添ってきた。だが、今回施行される「医療的ケア児支援法」により、事態に改善の兆しが! 親に、子どもに、どんな未来が待っているのだろうかーー?

病院に行くと、鼻にチューブを入れたり、気管を切開して器具をつけている入院患者さんを見かけたりしないだろうか。同じように、日常的に医療デバイスをつけたり、痰の吸引や栄養注入などの医療行為を受けることが不可欠な子どもを「医療的ケア児」という。そして、その多くが自宅で生活を送っている。

日本では児童福祉法によって、障害のある子どもたちは、発達を支援するための「療育」など、国や自治体からさまざまな支援を受けられる。

ところが、この「医療的ケア児」の中には、日常生活で医療行為が必要なのに、重い障害のある子とは同じ扱いにならない子も存在する。たとえば、知的な遅れもなく、自分で歩くことができるが、酸素吸入は常時必要という子は、昨年度までは制度上、医療従事者が常時付き添う必要がないカテゴリーに属しており、国や自治体からの手厚い支援の対象にならなかったのだ。

事態に風穴を開けると期待されるのが、9月18日に施行された「医療的ケア児支援法」だ。

これは、国や自治体による支援を「責務」とし、幼稚園、保育所、学校などにケア担当者を設置する、と明記している。また、支援センターを各都道府県に設置し、相談に応じるといった内容が盛り込まれている。

ケア児と家族にとって、まさに朗報。法律の施行によって、どんな未来を期待しているのか、そのご家族に話をうかがった。

【ケース1】私が夢見る明日:学校や放課後の預け先ができ、フルタイム勤務を続けられること

ママ:江田純子さん(41)。東京都在住 フルタイムで働く会社員。
長女:菜々実ちゃん(5歳)。16番目の染色体異常。重症心身障害児。
必要な医療的ケア:胃ろう・酸素吸入。

お母さんは、大手企業にお勤めで、現在勤続20年。菜々実ちゃんの出産直後に管理職に昇進した。会社はフレックスタイム制なので、産後は復帰するつもりだったが、菜々実ちゃんには非常にまれな障害があり、医療的ケアも必要。預け先はあるのか、国や自治体からどのような支援が受けられるか皆目わからず、一時は途方に暮れたという。

「どうしても復帰できない場合は、実家に戻って薬剤師になろうかとも思いました。働き続けたかったんです」

とにかく、育休が終わるぎりぎりまで粘って、仕事復帰の道を開こうと、情報収集を始めた。

「たまたま一緒に入院していた医療的ケア児さんのお母さんと知り合いになったことをきっかけに、13〜14人のママとつながることができました。また、SNSで発信することで、より多くの同じ立場の方とつながることができたんです。そんなとき障害児保育園が近くにあると知り、問い合わせると、幸運にも入所することができ、仕事復帰がかないました」

現在は、コロナ禍の影響もあり、完全在宅勤務。7時40分にお迎えのバスに菜々実ちゃんを預けると、仕事を開始。4時半に菜々実ちゃんが帰宅したあとは、自宅でヘルパーさんに夕方まで見てもらい、仕事を終えると、大急ぎで妹を保育園に迎えに。

菜々実ちゃんが体調を崩して入院したときも、会社の家族の看護休暇制度を使ってフルタイム勤務を続けてきた。

ところが、小学校入学を前に、大きな壁にぶつかった。

「菜々実が通うことになる特別支援学級では、先生がケアをしてくれますが、ケアの引き継ぎのため3カ月間、親が学校に待機しなければならないとのこと。また、放課後に預けられる施設は現状ではありません。でも、支援法が施行されれば、引き継ぎ期間の短縮や学童保育について、交渉しやすくなるかもしれないです」

「医療的ケア児」は長く法律上定義されてこなかったので、支援の必要なケア児がどこに何人いるかという情報さえ、自治体は把握していないのだ。

「いまは、親の要望ベースで個別に交渉していますが、各都道府県に支援センターができれば、どんなニーズがあるのかという情報が集まってきます。将来的には支援体制ができるだろうと期待しています」

【ケース2】私が夢見る明日:毎日24時間一緒、からの解放! 看護師の仕事に復帰したい

ママ:市野寛子さん(36)。岐阜県在住。元看護師。現在は主婦。
長女:千陽ちゃん(3歳)。トリーチャーコリンズ症候群。難聴の障害あり。
必要な医療的ケア:気管切開、経管栄養。

3歳の千陽ちゃんは経管栄養と気管切開はしているが、元気いっぱい。最近は口から食事や水分を取れるようになり、痰が絡まることも減り、ほとんど医療的な処置を必要としなくなったそう。特に行動制限もなく、お出かけも外遊びもプールも、自由にできる。

難聴のため週2回療育に通い、発達支援センターにも週3回、朝から3時まで通ってきたが、親が四六時中付き添わなくてはならない。千陽ちゃんには1歳半の弟がいる。

「姉が療育に通っているので、弟を保育園に預けることはできるのですが、3歳未満児の保育料は高額です。千陽に付き添っていて私が働けない状況では、経済的な負担が大きすぎて簡単に預けられません。それでいまは、弟を祖父母に見てもらっています」

寛子さんは元看護師。不妊治療のためにいったん仕事を辞めたが、出産後は復帰する予定だった。

「せっかく資格をとって看護師になったのですから、もちろん働きたいです」

ずっと親が付き添っていることが、発達や成長に影響しないかという心配もあり、今年春からの保育園入園を希望していた。

「年少さんに入る年齢なので、保育園に相談し、一度は入園が決まりかけていました。ところが、看護師の配置が難しいという理由で結局は入れないという結果に。娘は自由に動き回れるので、預かる側も何かあった場合の責任問題を気にして預かりにくいのかもしれません」

支援法が施行されると、事態は改善するのだろうか。

「私の住む自治体では、法案が可決されたこともまだ周知されていなくて。地方と東京では温度差があるのかなって感じます。でも、この法律は、支援の地方格差をなくすことも目的になっているので、そこにも期待したいですね」

出産後、お母さんはどんな支援が受けられ、どこに何を申請すればいいのか、誰に聞けばいいのかわからず困ったという。

「インスタやブログで発信して、気管切開をしている子の会(気切の会)など、同じ立場の方とつながり、情報を得てきました。支援センターができれば情報が集めやすくなり、助かります。法律が機能して、どの保育園にも医療従事者が配置され、希望する園に入園でき、仕事を再開できる日が来ることを待ち望んでいます」

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