誤った基準で補償がゼロに…脳性麻痺児の母が救済訴える

誤った基準で補償がゼロに…脳性麻痺児の母が救済訴える

誤った基準で補償がゼロに…脳性麻痺児の母が救済訴えるの画像

「審査を受けて補償の対象になると、補償金が介護費用として支払われます。『障害児家庭の経済的負担を軽減させるため』というのが制度の趣旨であるためです。私の子供は対象外になりましたが、そののち審査に医学的根拠がないと判明したのです。

脳性麻痺の子供を育てるにはお金がかかります。新しい制度を作ってでも救済してほしいのですが……。補償を審査してきた機構は『当時の医学的知見や医療水準に応じた。だから、基準を遡って措置を行うことはできない』というのです」

こう話すのは『産科医療補償制度を考える親の会』代表の中西美穂さん(41)だ。

産科医療補償制度は“分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児を補償するもの”で、妊婦であれば誰でも加入する制度だ。2009年以降に出生した児童については「補償対象基準」「除外基準」「重症度基準」のすべてを満たす場合、総額3,000万円の補償金を支払ってきた。

中西さんが問題視しているのは、このうちの「補償対象基準」だ。在胎週数が28週未満の場合は審査対象外に。そして、32週以上で出生体重が1,400g以上の場合は一般審査を経て補償対象になっていた。

これまで個別審査については、「約50%が補償対象外になっている」といった指摘も上がっていた。しかし日本医療機能評価機構は「28〜32週未満の早産児は医療の進歩によって脳性麻痺の発症率が減少している」「個別審査の対象となった約99%が、医学的には“分娩に関連して発症した脳性麻痺”と考えられる」として、これまでの個別審査が“医学的に不合理”と判断。制度は改められ、2022年1月1日からは在胎週数が28〜32週未満でも個別審査なしで補償を受けられることとなった。

■母親たちが明かす“経済的な厳しさ”

制度の改正は喜ばしいことだが、いっぽう中西さんは異論を唱えた。冒頭のように、すでに対象外とされた子供への救済措置が行われないためだ。

「『誤った基準で審査されたのは納得できない』と感じ、親の会を結成することにしました。2009年から今年の12月31日までに生まれた子供に対しては現行制度のまま。その間、“補償ゼロ”となった児童は500人を超える見込みです。

機構に剰余金は約635億円残っています。剰余金は、出産時に支給される出産育児一時金から掛金が支払われており、税金ではありません。十分500人を救済することが可能であるにも関わらず、救済措置を取らないのは大きな問題だと考えています。また、補償対象外となった約500人は分析が行われておらず、脳性麻痺発症の原因を分析し、再発防止に努める制度の趣旨にも反しています」

さらに今回、『産科医療補償制度を考える親の会』に参加する別の女性2人にも取材した。ともに重度の脳性麻痺児を育てているAさん(40代)とSさん(30代)だ。2人は「補償の対象になっていれば……」として、“経済的な厳しさ”についてこう明かす。

「脳性麻痺児を育てるには何かとお金が必要です。子どもの体が大きくなってきて、住宅をバリアフリー化する必要が出てきています。しかし、夫の給料だけでは5人家族で生活するのに精いっぱい。吊り下げ式のお風呂50万円、玄関のスロープ40万円のリフォーム費用を捻出できず困っています。

あと3ヵ月以上入院した場合、『病院に預けているから』との理由で障害児の手当をもらうことができません。入院中でも、私がつきっきりのこともあるのに……」(Aさん)

「脳性麻痺児は住んでいる県外の病院で処置を受けることも多く、紹介状の費用や交通費も必要になります。福祉車両をお持ちの家庭もありますが、私は運転できないので介護用タクシーを利用することもしばしば。あと今年、子供が2回手術しました。療育費用も宿泊費用も、手術代も一気にかさんで苦しかったですね」(Sさん)

■「自分たちがいなくなった後の子供のことが心配」

いっぽう、彼女たちは「お金を作りたくても働けない」という現実に直面してきた。障害児育児は、そうでない子供を育てることの何倍もの時間と労力を消費するからだ。

「今年から特別支援学校の1年生なんですが、医療的ケア児(生活のなかで人工呼吸器による呼吸管理などの医療行為を受けることが欠かせない児童)なので看護師のいないバスに乗ることができません。いまは片道1時間、往復2時間もの時間をかけて送り迎えしています。それに子供が入院すると私も病院を離れられないので、仕事に時間を割くことができません」(Aさん)

「子供が0歳の時、保育園に受かりました。でも、障害を理由に預けることができなくなってしまって……。いまはデイサービスを利用しながら、可能な範囲で働いています。フルタイムで働くことはまず無理ですね。生活保護を受けている家庭もあるくらいです」(Sさん)

「子供の障害が重ければ重いほどお金が必要なのに、仕事を諦めざるを得ない。一番の経済的な負担は、『仕事に就けないという状態』なんです」(中西さん)

中西さんたちは「対象外になった脳性麻痺児家庭に救済を」と訴える。その要望について、多くの医療過誤訴訟を担当してきた弁護士・堀康司氏はこう語る。

「これまで私はこの制度に対して、訴訟を減らすための制度ではなく、脳性麻痺のお子さんやそのご家庭を支える制度であるべきだと指摘してきました。同様の麻痺があっても出生週数などで扱いが区別されるため、脳性麻痺児を抱える家庭を分断する結果を生んでいます。

少なくとも、28週から32週で出生した子を区別してきた基準が医学的に不合理だったのですから、過去に行った区別の是正策も新たに検討されるべきです。

この制度の財政には余裕があるといいます。不合理な排除を受けた子と家族の境遇に対する十分な想像力をもって、制度の運営にあたっていただきたいと思います」

中西さんたちは来週12月24日、厚生労働省の副大臣に要望書を提出する予定だ。

「親としては自分たちがいなくなった後の子供のことを心配しています。重度の障害を持っている子でも、蓄えがあれば将来の選択肢を増やしてあげることができるかもしれない。そのために行動するのは、自然なことではないでしょうか」(中西さん)

関連記事(外部サイト)