聴覚障がいの母が子育てで抱いた不安「赤ちゃんが泣いても気づけない」

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【前編】「歌を歌って」息子が歌手目指すきっかけ作った耳の聞こえない母からの“お願い”より続く

第94回アカデミー賞で、作品賞・助演男優賞・脚色賞の3部門を受賞した『コーダ あいのうた』(以下、『コーダ』)。

タイトルのコーダとは、“Children of Deaf Adults”の頭文字で、聴覚障がいの親を持つ子どものこと。映画は両親と兄の4人家族の中でただ一人だけ耳が聞こえる主人公の少女が、通訳として家族を支えながら歌うことへの夢を追う、コーダとしての葛藤を描いた物語だ。

「映画では、家族が聞こえず少女ひとりだけ聞こえる話ですが、私の場合は、家族みんなが聞こえて、私だけが聞こえない。だから、家族とぶつかる少女の気持ちがよくわかります」

そう語るのは、重度聴覚障がい者の安藤美紀さん(52)。口の形を見て、相手が話していることを読み取ったり、言葉を話すことはできるが、生まれつき耳は全く聞こえない。

映画では、コーダとして育つ少女にスポットライトが当たっている。耳の聞こえない人の子育ては、どのようなものなのだろうか?

美紀さんは、そもそも子供を産むこと自体、周囲から猛反対されたという。

「それでもこの子を産みたいという気持ちがとても強かったので、どれだけ反対されても産もうと思いましたね。なぜ反対するのときいたら、聴こえないから、とだけで片付けられて、それはすごく嫌でした」

意を決して出産した美紀さんだが、子育てには不安がつきまとった。

「夜寝るときはとくに、赤ちゃんが泣いてもわからないのが心配でした。それで、動いたらわかるように、毎晩赤ちゃんと私の手をハンカチで縛って寝ていました。

でもそのうち、泣くよりも私の体に触れたほうが気付いてもらえると、自然にわかったみたいです。寝返りができるようになると、私の体に当たったり、ミルクを飲みたいときは哺乳瓶をトントンと叩いたり。赤ちゃんってわかるんだなぁと感心しました」

また、唇を読み取って相手の言葉を理解する美紀さんには、思春期の息子の“照れ”はコミュニケーションをとる際の大きなハードルとなった。

「小学校6年生までは私の顔をみて、口の形が見えるようにお話をしてくれたんですけど、だんだん大きくなると、恥ずかしいというか、私の目をちらちら見ながらも、あいまいな言葉が増えてきました。

それで、『なに?もう一回言って』というと、『もういいよ!』と言われてしまって。携帯のメールでやりとりするようにして、乗り越えましたね。あと、一成はお腹が空いているとイライラするので、先にご飯を食べさせてから、話しかけたり(笑)」

反抗期に一成さんが喧嘩をして帰ってきても、美紀さんは決して一成さんを責めなかったという。

「普通は、怒られると思うんです。母は、なんでそうなったの、きちんと理由を聞いてくれる。それが僕にはありがたかった。なぜ、こんな喧嘩になったのかと、大丈夫?と聞いてくれた。とても優しかったし、母をみて聴こえない人になにか届けたいと思ったのも、母のやさしさを感じていたからだと思います」(一成さん)

“毒親”“親ガチャ”という言葉が流行し、障がいのあるなしに関係なく、親子関係に問題を抱える人も少なくない時代。そんな中で、一成さんはさらりと「母を尊敬している」と話す。

「音を伝える役目のあるコーダだからこそ、母とのコミュニケーションは普通の子どもよりも密です。母はいつも、やりたいことはやってみなさいと応援してくれました。凄まじい努力をしてきた母が味方だと思うと、自信がもてますし、安心感があります」(一成さん)

いま、親子で聴導犬の普及活動などを行うNPO法人MAMIE(マミー)を運営し、美紀さんが座長を務める舞台「みきまる座」で、一成さんは音楽や映像を担当する。美紀さんは言う。

「わたしも自分の親といろいろあって、理解しあうまでにすごく時間がかかりました。だから、家族ってなんだろうなあ、聴こえる聴こえないってなんだろうなあと、お互いに分かり合えないのかなあと心の中でずっと思っていたんです。

だからこそ、子どもを信じ、何があっても大丈夫だよと子供のことを支えたかった。こんなお母さんでもあなたのそばにいますよと、安心感を与え続けることを何よりも大事にしてきたんです」

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