「娘と性交した父親に無罪判決」で明らかになった法の矛盾

「娘と性交した父親に無罪判決」で明らかになった法の矛盾

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「中2から性的虐待を受けていたのに、もっと拒否できただろう、という裁判所はおかしい。こんな判決に心底ガッカリしています」

そう憤るのは、幼少時代に実父から性的虐待を受けた経験があり、ブログで電話番号を公開して性的虐待の被害者たちの相談も受けている宮本ゆかりさん(48)だ。「こんな判決」とは、名古屋地方裁判所岡崎支部(鵜飼祐充裁判長)が3月26日に下した無罪判決のこと。2017年に、愛知県に住む当時19歳の女性・美羽さん(仮名)を、2度にわたって性交した容疑で、父親が「準強制性交等罪」に問われていたが無罪になったのだ。人権問題に詳しい弁護士の伊藤和子さんはこう解説する。

「『準強制性交等罪』とは、酩酊状態や、心神喪失などで、抵抗できない状態にある人に対して、性交などの行為に及ぶことで問われる罪のことです。2017年の法改正で、これまでの準強姦罪より、広い行為を対象とした罪状として誕生しました。この罪は、『心神喪失』または『抗拒不能』がないと成立しません。抗拒不能というのは『抵抗が困難』ということです」

裁判で検察は、美羽さんは実父から中学2年生の頃より性的虐待を受けており、実父に抵抗できない精神状だったと主張した。

「性交した事実は実父も認めています。被害女性が、抵抗できないような心理状態に置かれていたかどうかが、裁判で争点となっていたんです」(伊藤弁護士)

裁判では中学校2年生のときから、無理矢理性交されていたこと。専門学校に進学してからは、学費を払ってもらっているという負い目から、性交を拒めなかったこと。弟たちを犯罪者の息子にしたくないことから通報をためらったことが明らかになった。また、抵抗した際には、こめかみを殴られたり、背中を踏みつけられたり、激しい暴力を受けたことが明らかになっている。

美羽さんの精神鑑定を行った精神科医は、性的虐待などが積み重なった結果、<抵抗できないのではないか、抵抗してもムリなのではないか>といった抑圧された心理状態になっていたと診断。これに対し、実父側は「性交は同意の上だった」などと主張したが、裁判所はこうした実父の主張をすべて退け、実父は美羽さんを<精神的に支配していた>、<同意はしていなかった>と結論付けた。

にもかかわらず、<性交を拒めないほどの暴力は受けていなかった>、<両親の反対を押し切って専門学校に入学できるほどだった>などという理由で、<抵抗できないほどの精神状態に陥っていたとは判断できない>として、実父に“無罪”判決が下ったのだ。前出の伊藤弁護士は、日本の法制度の不備をこう指摘する。

「多くの国で、同意なき性行為は罪に問われます。日本では、意に反する性行為が行われたというだけでは処罰の対象にならず、物理的に抵抗できない状態であったか、そして加害者がそれを認識していたかも重視されます」

今年3月にも、福岡地裁久留米支部が、驚きの判決を下している。泥酔して抵抗できなくなった女性を男が性的暴行をした事件で、女性が目を開けたり、何度か声を出したりしたことを理由に、裁判所は「女性が許容している、と被告が誤信してしまうような状況にあった」と判断。無罪となった。女性が意に沿わない性交渉を強いられても、激しく抵抗しない限り、罪には問えないということか。

「裁判所があまりにも、女性の<抵抗できない>という状態を理解しないのであれば、同意なき性行為はすべて処罰するという方向での法改正をすべきです」

また、前出の宮本さんは、美羽さんの心理をこう代弁する。

「このままではダメだと思って、早く自立するために専門学校に入ったんだと思います。でも、それすらも<抵抗できたはずだった>という裏付けにされてしまうなんて……」

検察は、この判決を不服として4月8日、控訴した。女性たちの涙が報われる司法であってほしい。

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