19歳でホールコンサート成功!天才ピアニストを育てた母の葛藤

19歳でホールコンサート成功!天才ピアニストを育てた母の葛藤

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紀平凱成(かいる)くん、19歳。その指から紡ぎだされる若々しい旋律で、多くのファンを虜にしてきたピアニストだ。幼いころから作曲も行い、7歳で“ピアニスト宣言”。13歳で東京大学と日本財団が進める「異才発掘プロジェクト」第1期ホーム・スカラーとなり、16歳で英国トリニティ・カレッジ・ロンドン(国際的ピアノ検定)の上級認定試験に合格して奨励賞を受賞。18歳にして、ここ浜離宮朝日ホールでのデビューコンサートを成功させるなど、いま最も注目される若手ピアニストの一人でもある。

同時に、2歳のころに自閉スペクトラム症(自閉症)の診断を受け、音楽家でありながら感覚過敏などと向き合ってきたという、まさしく「異才ピアニスト」。支えてきた母・由紀子さんが振り返る。

「もう妊娠中から、クラシックだけでなく、ワールドワイドな音楽を聴きあさっていました。誕生後も、カイルのまわりには私のエレクトーンや主人のギターなどがあったので、自然とおもちゃのようにさわりだしたという感じです」

カイルくんの母親の由起子さんは岐阜県高山市で生まれた。両親、つまりカイルくんの祖父母もかつてはバンドやフォークデュオを組んでいたりという、音楽一家に育った。由起子さん自身もまた大学卒業後に、メーカー勤務のかたわら、シンガー・ソングライターを目指していた時期がある。父親の延久さんは三重県伊賀市出身で、大学卒業後にサラリーマンをしながら音楽活動をしていたころ、由起子さんと出会い結婚。2人でアマチュアバンドを組んだこともあった。だから、延久さんの赴任先の福岡市で’01年4月2日にカイルくんが誕生したとき、家庭に音楽があふれていたのは、ごくごく自然なことだった。

出産後は専業主婦となっていた由起子さんにとって、最初の不安は、わが子の言葉の遅れだった。

「早期教育じゃないですが、英語のCDや単語カードを買いそろえていました。“ABC”は言うのに、“イヌ”や“バス”を言わないのに戸惑いもありましたが、『男の子は言葉が遅い』と言われて、そんなものかなと思っていました。あとは、緑に対して強いこだわりを示し、緑色のコップを手放さなかったり、遊ぶ積み木も緑色のものだけだったり。保健所の1歳半健診で『気になることがある』と言われましたが、2歳児健診では特別な指摘も受けなかったんです」

03年夏、延久さんの転勤に伴い東京へ引っ越して早々に訪れた保険福祉センターで、2歳のカイルくんは、「自閉症の傾向があります」と指摘される。自閉症は、会話や人間関係が苦手だったり、強いこだわりを示すなどの症状をもつ発達障害の一つ。感覚刺激への敏感さや鈍感さで生活に苦労するが、それが芸術的才能につながるケースも指摘される。

「初めて聞く『自閉症』という言葉でした。主人はショックを受けていましたが、私はずっと不安を抱えていたので、原因がわかって解決の糸口も示されるはずだと、光が差したようにも感じました。でも、その後、インターネットで自閉症について検索してみると、『脳機能の障害で治るものではない』という記述があって、床に座り込んでしまいました」

そこへ、一つの気づきをくれる出会いが訪れる。2歳半ごろから通っていた国際教育を推進するPTC(パシフィックインターナショナルスクール)の高塚洋子園長は言った。

「カイルくんを病気にしているのは、お母さんですよ」

振り返って、由起子さんは言う。

「それまではりんごという言葉を覚えさせるのに、りんごの絵のカードを見せていました。ミス・ヨーコから『本物のりんごを持たせて、においを嗅がせて、色を見せてが大事ですよ』と言われて、私、いままで何やってたんだろうと」

そんなとき、至らない自分に落ち込んでいるママに、カイルくんがそっと好物のいちごを差し出す。

「いちごもそうでしたが、うしろからギュッとハグしてくれたり。するとあの子の鼓動が聞こえて、ハッとして、改めていちばん大切なものを思い出したんです」

やがてミス・ヨーコからも、「お母さん、変わりましたね」と言われるようになる。障害を押さえ込まず、わが子をあるがままに受け入れる生活を選んだのだ――。

9月4日の、2度目の浜離宮朝日ホールでのリサイタルまで、いよいよカウントダウン。

本番で使用する大ホールを視察に訪れたカイルくんに、将来の夢を尋ねた。ステージに立った彼は、無限の可能性を象徴するような広大なホール空間に向かって、ワクワクを抑えられない様子で叫んだ。

「世界を奏でるピアニスト!」

力強い声がこだまする。オーケストラやビッグバンドとの共演、新作CDなど、19歳の夢は、いま奏で始められたばかりだ。

「女性自身」2020年9月8日号 掲載

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