64歳ホームレス女性殺害事件「明日はわが身」の悲痛

64歳ホームレス女性殺害事件「明日はわが身」の悲痛

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新型コロナ第3波の煽りを受け、「仕事を解雇された」「給料が減らされている」「売り上げが落ちた」など、心配が尽きない人も多いのではないだろうか。

「うちのNPOにも、昨年に比べて5倍くらい相談が増えています。弱い立場の人が真っ先に影響を受けている。日雇い労働者や、派遣・パート、住み込みで働いている人たち。そして、不安定雇用になりがちな“女性”です。とくに女性は、2019年度と比べて相談件数が1割近く増加しています」

そう話すのは、北九州市を拠点に30年以上、ホームレス支援を続けているNPO法人「抱撲(ほうぼく)」の理事長、奥田知志さん。

11月には、女性の自殺が昨年同時期と比べ約40%も急増していると警察庁が発表。東京都渋谷区で路上生活をしていた64歳の女性が、早朝のバス亭に座って休息をとっていたところ、46歳の男性に殴り殺されるという痛ましい事件も起きた。

「報道によると彼女は今年2月頃までスーパーで働いていたそうです。それなのに、たった半年ほどでホームレスになり、バス停で夜明かしするしかない状態にまで追い込まれていた。所持金は8円。そして電源の入らない携帯電話――。これが今の日本社会の実態です。中間層の底が抜けて、いつ誰がホームレスになってもおかしくない状態なんです」

犯人の境遇も想像する必要がある、と奥田さん。

「殺害したのは46歳の男性でした。犯した罪は決して許せませんが、彼は長年引きこもりで『自室の窓から見える風景だけが自分の世界のすべてだ』と話していたとか。彼も、案外、私たちの身近にいる存在なのではないか。そういう意味では現代の縮図のような事件だと思います」

奥田さんは、この30年間で“格差”がどんどん広がった、と指摘する。

「いまや労働人口の4割、2千万人が非正規雇用です。国税庁が令和元年に発表した統計によると、平成30年の正規雇用の平均年収は男性で約560万円、女性は約390万円なのに対して、非正規雇用では男性で約240万円、女性は約150万円にまで落ち込みます。これほど正規と非正規で格差が広がり、かつ男女で賃金の差がある。母子家庭になると貧困率は5割を超えます。大規模災害などが起きて基盤が崩れたとき、まっさきにシワ寄せがくるのが特に単身の女性です。こうした現状が、女性の自死増加の背景にあるのではないでしょうか」

もともと経済基盤が脆弱な人が、ひとたび転落したら“自助”だけではどうすることもできない。

「もちろん自助努力は大事です。自分自身の人生なんだから。でも、住まいまで失った状態で、自助はどこまで可能でしょうか。“私も応援するから、あなた自身もがんばりなさいよ”というのが、本当の自助じゃないか。つまり、自助というなら、共助も公助もそばにないといけない。だから国の代表者は『なにがあっても絶対に助ける。見捨てるようなことはしない。だからあなたもがんばって』というメッセージを、まず発するべきなんです。私は、管首相が発した『自助・共助・公助』というメッセージがミスリードを招いていると感じています。『自助・共助・公助』では、自分もまわりもつぶれてから来い、と言っているように聞こえます」

奥田さんは、コロナ禍で仕事や家を無くした人用の支援付きワンルームマンションを全国に用意するため、今年5月クラウドファンディングを実施。なんと約1億1500万円が集まった。

「寄付してくださった方が1万289人で、一口の寄付金額3万円以下の方が98%なんです。つまり“気の毒な人を助けよう”というより、“いつなんどき自分が同じ立場に立たされるかわからない”という危機感の表れだと思います」

現在、この資金を全国の支援団体に振り分けて、約130室を確保した。

「北九州の私のところでは、女性も入居しています。先日は、いわゆる接客を伴う飲食店で働いていた20代の女性が入りました。コロナ禍で店が閉店し、寮を追い出されてしまったそうです」

奥田さんは、こうした住宅セーフティーネットの仕組みを、政府も巻き込んで構築するため、国交省や厚生労働省などに働きかけを行っている。

「人は本当に追い詰められたら、なかなか『助けて』と言えないものです。ふだんから言っておかないと。だから私はいつも、日頃から『助けて』のインフレを起こしておきましょうと言っています。日頃から『助けて』と頼りあえる関係をつくっておくことが大切です。

64歳のホームレスの女性も、弟さんがいたが頼れなかった。頼れば“家族の責任”にされてしまう社会だから。でも、電話番号を書いたメモは大事に持っておられたそうです。彼女がどんな気持ちだったか。それを“想像”することこそが“知性”だと思うんです」

残念なのは、周囲の人たちがバス亭に座っている彼女を心配して声をかけていたが、救えなかったことだ。

「彼女のケースは大変残念でしたが、やはり『だいじょうぶですか?』と声をかけることからしか関係は始まりません。たとえ『ほうっておいて』と言われても、です。あなたのことを気にしているよ、と。人の気持ちを動かすのは人ですから。そして、できるだけ地域の民生員や自治体の窓口につないでほしい。平成27年に“生活困窮者自立支援制度”がスタートし、住居を確保する支援金や就労支援などを受けられるようになっています。地域ごとに良心的な支援団体もあります。日本は、まだまだ捨てたものじゃありません。大丈夫、必ず助けてくれる人がいますよ」

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