【追想 堺屋太一】「今夜、モーツァルト?」堺屋さんとの“珠玉の時間” 戦国武将が没した年齢を現代に換算…「享年方程式」を編み出す

【追想 堺屋太一】「今夜、モーツァルト?」堺屋さんとの“珠玉の時間” 戦国武将が没した年齢を現代に換算…「享年方程式」を編み出す

堺屋氏は、織田信長の「現代の享年」まで解き明かした

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 「今夜、モーツァルト?」

 NHK大阪放送局での情報番組「その時歴史が動いた」の収録本番中、ゲストの堺屋太一さんはよく、小さい声でこうたずねた。スタジオのモニターにはVTR映像が流れている。私も小声で「はい、喜んで」と即答した。

 これは、堺屋さんと私しか分からない会話だ。

 堺屋さんには、9年続いた同番組に2ケタ回出演のことと、収録後、しばしばワインを飲みながら歓談できる光栄にあずかったことは、第3回で触れた。

 堺屋事務所があるのは大阪・天神橋。天は「あま」とも読み、神は「ゼウス」。従って、「天神=アマゼウス」。アマゼウスとくれば、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。つまり、冒頭の会話は、「今夜、天神橋の店で、(軽く)やりますか?」「はい、喜んで」となる。

 いつから、こんな隠語を交わすようになったのかは、よく覚えていない。別に隠語である必要もまったくない。ただ、それをわざわざ収録本番中にという堺屋さんのお茶目さも魅力だった。

 ともかく、夕食歓談は私にとって珠玉の時間だった。その時々で話題はさまざまだが、「言葉の話」が多かったと思う。

 例えば、「『じゃっかん25歳』と言ったアナウンサーがいたのにはあきれた。あの人は漢字で書けと言われたら、『弱冠(=男子20歳のこと)』ではなく『若冠』と書きますな」とか、「『波紋を投げかける』というのも気になります。波紋は広がるもので、投げるものではないのですがねえ」とかだ。

 「松平さんのところ(NHK)にも『享年80歳』と、『歳』をつける人がいたのには驚きました。ああいうのは、松平さんが、きちんと指導しなきゃダメですよ」と、お叱りも受けた。

 その時、出てきたのが「享年方程式」の話だ。

 要するに、戦国武将の亡くなった年齢を現代に換算すると、どれくらいになるかというもので、当時の劣悪な食料事情や衛生状態、医療実態を踏まえて、堺屋さんが編み出したという。

 結論だけ言うと、戦国武将の享年をαとして、「1・2α+2」で計算できるという。「1・2の根拠」や「2を足す意味」など、いろいろ説明を聞いたが、哀しいかな非理数系頭の私には理解の外だった。ただ、「数式だけは忘れまいぞ」と手帳に記しておいた。

 この方程式を当てはめると、織田信長の享年は49、徳川家康は75なので、現代でいえば信長は60・8歳。家康は92歳となる。こういうことを知っているだけで、何だか得した気分になる。

 「巨星墜つ」の感一入。今でも、堺屋さんがそこにいるような気がするが、間もなく没後100日になる。=おわり

 ■松平定知(まつだいら・さだとも) 1944年、東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、69年にNHK入局。看板キャスターとして、朝と夜の「7時のテレビニュース」「その時歴史が動いた」などを担当。理事待遇アナウンサー。2007年に退職。現在、京都造形芸術大学教授などを務める。著書に『松平定知朗読「サライ」が選んだ名作集』(小学館)、『幕末維新を「本当に」動かした10人』(小学館101新書)など。

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