【桂春蝶の蝶々発止。】川崎20人殺傷事件、犯人への怒りと社会への不安… こんな時、宗教は何を伝えられるのか

【桂春蝶の蝶々発止。】川崎20人殺傷事件、犯人への怒りと社会への不安… こんな時、宗教は何を伝えられるのか

現場を多くの人が訪れ、花や飲み物などを供え手を合わせていた=川崎市多摩区

 私の娘はキリスト教系の学校に通っています。いわゆる「心の教育」を大切にする環境の中で学んでいる娘ですから、親として教えられることは何かと多いんですよね。

 数年前、ある国で大きなテロ事件があって、100人以上が亡くなられました。私はテレビに向かって思わず、「こんなとき、人はどうしたらいいのかなぁ?」と言いました。すると、小学1年生だった娘が私の手を握って、「パパ、それをずっと考え続けるのが、大人のやることじゃないかな?」と言ったんです。

 私は聞きました。

 「じゃあ、子供はどうするの?」

 「子供はね、ずっと祈り続けるの。だから私は祈りながら寝るので、そろそろテレビ消してくれるかな?」

 こう言われて、慌ててテレビを消したことを覚えています。

 神様がいつも側にいてくださる。その安心感の中で、子供たちはすくすくと成長し、思いやりや真心を育む…。それが宗教校の良さだと思っています。

 しかし、その「祈る」という概念すら、もはや不毛で無意味ではないかと思ってしまう事件がありました。

 川崎市多摩区の路上で、私立カリタス小学校のスクールバスを待っていた児童と保護者が、刃物を持った男に次々と襲われた事件です。計20人が被害に遭い、2人が亡くなりました。犯人の岩崎隆一容疑者は、自ら首を刺した後に警察に身柄を確保されましたが、その後、死亡しました。

 この日ばかりは、帰ってきた子供たちの顔を見て、胸がいっぱいになってしまいました。まるで彼らを守るかのように抱きしめてしまいました。

 犯人への怒り。いつ、このような事件に巻き込まれるか分からない恐怖。そんな人間を生んでしまう社会への不安。さまざまな思いが頭をよぎって、ため息ばかりついていた1日でした。

 被害に遭ったカリタスはカトリック系の学校です。私は思う。こんな時、宗教は何を伝えられるのでしょうか? 私が保護者なら学校側に(先生の中には、神父さまもおられると思うので書きます)こう言ってもらいたいなと思います。

 「この事件を経験し、私たちは初めて『神など、この世に存在しないのではないか?』と感じてしまいました」と。

 神父さまが人生の中で一番大切にし、信じている「神様」という存在すら、一瞬にして崩されてしまった…。その感情を表現することによって、「最も愛している人を奪われた」保護者や子供たちに、少しだけでも寄り添えるのではないかと考えたからです。

 神や仏ですら、ましてや人などは、容赦なく愛を奪ってゆく。そんななかで、私たちはどうやって愛を与えていけるのでしょう?

 あまりに辛い現実を突きつけられた、5月28日でした。

 ■桂春蝶(かつら・しゅんちょう) 1975年、大阪府生まれ。父、二代目桂春蝶の死をきっかけに、落語家になることを決意。94年、三代目桂春団治に入門。2009年「三代目桂春蝶」襲名。明るく華のある芸風で人気。人情噺(ばなし)の古典から、新作までこなす。14年、大阪市の「咲くやこの花賞」受賞。

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