「中高年引きこもり」抱えた高齢親をどう救う? “支える側”の心身に限界…専門家「家族にも相談相手が必要」

 「刺さなければ、自分が殺されていた」−。元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者(76)=殺人未遂容疑で逮捕=は、引きこもり状態だった長男で無職の英一郎さん(44)を殺害した理由をこう供述した。長期化した引きこもりは、支える側の家族が体力や経済的、精神的な限界を迎え、出口が見えなくなるケースも多いという。家族はどのようにすれば、最悪の事態から脱することができるのか。

 高齢化する引きこもりの親子の世代を呼称する「8050(ハチマルゴーマル)問題」は、支援する側が介護が必要になったり、収入源が年金になるなど長期化すればするほど深刻さを増す。

 現在、全国に61万人ともいわれている40〜64歳の引きこもりだが、家族にも相談相手が必ず必要だと語るのは、引きこもりの家族支援に詳しい宮崎大の境泉洋(もとひろ)准教授(臨床心理学)だ。

 「8050問題のような場合、家庭内の緊張を高めるような刺激をしないようにと家族が考えてしまうため、会話も減ってしまい、回復の糸口をつかめないまま時間だけが過ぎていく。本人は難しくても、家族は相談機関や家族会に行ったりして、抱え込んでいることを話すことができれば、精神的に随分と楽になる」と語る。

 熊沢容疑者は、一つ屋根の下にいながら適切な距離感を保つことができず、最悪のケースを招いてしまった。

 熊沢容疑者の体には、英一郎さんによる暴力でできたとみられるあざがあったほか、英一郎さんはSNSで月30万円を超えるクレジットカードの請求額を明かしている。農水事務次官を務めた熊沢容疑者にとって、心身ともに限界だったと考えられる。

 前出の境准教授によれば、心身が限界に達した家族は、不眠や鬱状態、みずからも引きこもりになるなど、SOSを発することがあるという。

 犯罪心理学が専門の出口保行・東京未来大教授は、熊沢容疑者の心境について「基本的には追い詰められていたのは確か。子が生きにくくなると考え、ひきこもりの親は子を社会に発信したいとは思っていない。また川崎の事件を受けて、制止しようと考えたかもしれない。ただ殺していい理由には絶対ならない」と断言する。

 引きこもりに悩む親を解決するための支援施設もあるが、中には部屋から無理に連れ出し、施設に滞在させるなど強引な手法を取るところもある。境准教授は「本人のペースを無視して、逆に追いつめるような訪問型の支援は逆効果になりかねない。ひきこもりは急には解決できないので家族や地域の人が関わって、安心させてあげることが大切だ」と指摘する。

 簡単ではないが、人のつながりが最善策のようだ。

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