【勝負師たちの系譜】羽生九段「平成最強」示す通算勝利数更新 歴代最多1434勝

 将棋界で誰が一番強い、強かったのかは、誰もが興味あるところと思うが、数字が簡単に教えてくれる。それは通算勝利数と生涯勝率である。

 このところニュースでもよく取り上げられる、羽生善治九段の歴代最多勝利は、4日の王位戦挑戦者決定リーグ白組プレーオフの対永瀬拓矢叡王戦で達成された。

 今までの記録は、大山康晴15世名人の持つ1433勝で、羽生はこの将棋に勝って1434勝となった。昭和の最強者の大山の記録を、平成の王者の羽生が塗り替えたことになる。

 これは大変な記録で、まず普通の棋士では1000勝にも全く届かない。今までの達成者は故人・引退含めても9人のみである。そこから400勝積み上げるのは至難の技だ。羽生は唯一、30代で1000勝に達したから、ここまで来たとも言える。

 この対永瀬戦は、羽生にとってはもう一つの記録である、タイトル100期に向けての大一番でもあった。勝てば挑戦者決定戦に進む一番だからだ。

 昨年、3度にわたってタイトル戦に敗退し、記録を逃した羽生にとっては、是が非でもまずは挑戦者にならねばならない。

 しかし相手は若手とはいえ、これまで3勝7敗と大きく負け越している永瀬。彼はこの春、叡王戦の挑戦者となり、高見泰地叡王(当時)から4−0のスコアで初タイトルを奪取したばかりの新鋭である。

 私が以前、令和時代は通算勝率7割超えの棋士は必ず出てくると書いた一人が、早くもタイトルに届いたわけで、羽生にとっては難敵だ。

 対局開始前、ちょっとした事件が起きた。先に入室して下座に座っていた永瀬を見て、羽生が上座に行くよう促したのだ。羽生からすれば実績は実績、現在のタイトル保持者を大切にしなければ、この世界は成り立たないことをわかってのこと。何よりスポンサーに対しても失礼である。

 これが影響したわけではないが、将棋は全体に羽生のペースとなって勝ち切った。

 もっともこれをもって、羽生が完全に大山を抜いたわけではない。大山には59歳までタイトル保持、69歳までA級という鉄人的な記録がある。

 羽生がこれを目指すのかどうか、注目したい。

 ■青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。

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