【負の連鎖〜どうなる「引きこもり」と家族】引きこもりは「有意味感」が得られない 低下した自尊心を回復させる接し方

★(3)

 「8050問題」が注目されている。50代の引きこもり状態の子供を80代の親が養っている状態を指すが、背景には引きこもりの長期化や親の高齢化があり、無収入、介護、社会的孤立などの問題を抱えている。

 この問題が再びクローズアップされているのは、スクールバスを待つ小学生ら20人が殺傷された川崎の事件、そして元農水次官長男の殺害事件の家族背景が「8050問題」の状態と合致しているからだろう。

 引きこもりと殺傷事件はあくまで別問題だが、ここでは引きこもりの心理的背景、そして同居する両親はどう接していくべきかについて述べていきたい。

 私は、今まで約8000人のカウンセリングをしてきたが、「引きこもり」の相談はほとんど親の側からであり、引きこもっている子供側から相談を受けることは少ない。このことは、引きこもりの本人が他者とつながることの難しさを表している。

 引きこもりは昼夜逆転生活の場合が多いが、「家族と顔を合わせないで済む」ようにわざとそのような生活スタイルになっているケースもある。つまり家族という最小単位の社会からも孤立している状態なのである。

 引きこもり本人から話を聴くと、「生きていても意味がない」「死にたいけど死ねない」という類いの言葉を発するが、心の奥底では「助けて、生きていたい」と叫んでいるのが伝わってくる。

 このように、生きたいけど生きている価値がないと思うところまで追い詰められているのは、「有意味感」が低いからだ。有意味感というのは、“どんなことにも意味がある”と思える感覚で、“健康に生きる力”と称される「首尾一貫感覚」の一つである。有意味感を得られなくなるのは、「自分は誰からも必要とされない人間だ」と思ったときだろう。「引きこもり」に陥った人たちは、家族は自分のことを恥じていると思うと同時に、自尊心が著しく低下し自分のことも恥じているのである。

 長期化した引きこもりの支援では、医療や福祉など第三者の介入は必須だが、最初から引きこもりの本人がそのシステムに参加できることはほとんどない。第三者による支援では、両親の相談から始まり、徐々に本人を相談システムに参加させていくことになり、参加を促す両親と本人との信頼関係が非常に重要になる。

 しかし、同じ家に住んでいながらほとんど話さないという硬直した状況で、両親は本人にどう接すれば良いか。

 まず、引きこもりの当人自身が深く傷ついていること、心のどこかで“なんとかしたい”ともがいていることを分かってあげることだ。その上で、あいさつや温かい声がけを粘り強く続け、徐々に批判を入れない日常会話を目指す。簡単な家事をお願いしたり、ちょっとした相談をしてみると、本人の自尊心の回復や昼夜逆転生活の修正にも役立つ。

 このような家族からの働きかけにより、本人は自分の「存在意義」を少しずつ実感できるようになり、ひいては「生きる意味」を見いだすことにもつながるだろう。引きこもり状態から離脱するための第一歩は自尊心の回復からである。

 ■舟木彩乃(ふなき・あやの) ストレスマネジメント研究者、メンタルシンクタンク副社長。筑波大学大学院修士課程修了。カウンセラーとして、8000人以上の相談に対応。一般企業の人事部や国会議員秘書を経て、現在、筑波大学大学院(3年制博士課程/ストレス・マネジメント領域)に在籍。国家資格として、精神保健福祉士やキャリアコンサルタントなどを保有。著書に『首尾一貫感覚で心を強くする』(小学館新書)。

関連記事(外部サイト)