裁判員10年 裁判官インタビュー(8)「社会に受け入れられ定着」大阪高裁・和田真裁判官(60) 約70件担当

(聞き手・矢田幸己、件数は担当した1審裁判員裁判の数)

 −−裁判員裁判の導入によって、刑事裁判全体に変化はありましたか。変化したとすればどのような点でしょうか

 「最も変わったのは1審です。法律の専門家以外の方に刑事裁判を分かっていただかなくてはいけない。そうした中で法律家がみんな刑事裁判で何が重要なのか、有罪・無罪、量刑に結びつくものが何なのかを、裁判員の方に伝えられる審理を考えるようになりました。公判も証人が中心です。昔は書証の取り調べが中心でした。裁判そのものの構造が変わり、今は自白よりも客観的証拠や第三者の証言が重視されています」

 「高裁は原判決(1審)に誤りがないかどうかを判断します。原審の記録に基づいて審査するという手続きですね。構造自体は変わっていませんが、1審が変わっているため、随分と記録が薄くなったし、判決そのものもなぜそういう刑を導き出したのか、なぜそういう事実認定になったのか、ということが原判決には簡潔に書いてあります。裁判官だけではなくて検察官や弁護人も何がポイントかを意識するようになり、そこに焦点を当てる審理をするようになりました。本来あるべき刑事裁判になったということかもしれませんね」

 「裁判員裁判に限って言えば、一般の方に理解していただかないといけないから、われわれ自身が法律概念にしろ、何にしろよく分かっていないといけない。そういう意味で裁判官のみならず、検察官も弁護人もよく勉強し、みんなで審理のあり方を協議するようになりました」

 −−裁判員裁判そのものについては施行からの10年間で変化はありましたか。変化したとすればどのような点でしょうか

 「当初から裁判員裁判を担当していましたが、自白事件などが中心で、それほど複雑な事件は少なかったように感じます。今は複雑・困難な事件でもごく普通に、裁判員裁判になっています。裁判員の方の努力に支えられている面もありますが、裁判員裁判自体が社会に受け入れられ、社会に定着したかな、という感じがあります」

 「法曹三者もこの間にだいぶ慣れてきたという感じを受けています。冒頭陳述をとってみても、当初は長かったと思いますが、今では割とコンパクト。要するにどの点に注目してほしいか、その点を示す役割のものに変わってきています。裁判員の方への配慮も当初より行き届いているように思います」

 −−裁判員裁判の評議では、どのような点を心がけていましたか

 「裁判員の方には、この点に悔いが残る、などと思っていただきたくありません。だからこそ、自由に議論できる雰囲気づくりが重要と思っていました。どんな些細(ささい)な事件でも自由に述べ合えるのが重要です。そうした点を特に注意していました。審理でも裁判員の方からみて、どういう点が疑問になるのか、そこを注意して審理していましたね。まず審理が大事ですから。評議でも、かみ砕いて説明するようにしていました」

 「考えなければいけないテーマは決まっています。それについては当然、裁判員の方も考えられているわけで、言葉に出しにくいか出しやすいかの問題です。できるだけ言葉に出しやすい雰囲気を作ることが大切です。事実があったか、なかったかということは日常で起きることとそう変わりません。必要な法律知識は法廷でも分かるように検察側や弁護側も説明しますし、われわれもします。法律全般を分かってもらう必要はありません。問題となっているのは日常的な事柄です。その点で証人の方の発言を聞いてどう思われたか。そういうふうに進めていけば、そんなに発言しにくいこともないのでは、と思います」

 −−検察側、弁護側の主張・立証で変化した点、改善してほしい点はありますか

 「随分、分かりやすい審理ができるようになっていると常々感じています。ただ、検察官はどうしても有罪が取りたい、ということで過剰な立証をしがちです。弁護人も少しでも被告人に有利に、ということで幅広い立証をしがちです。かなり改善されているとはいえ、そういうところは散見されます。そこは法曹三者としても問題意識があります。勉強会を開いて事件ごとに振り返ります。こういう点を次にどう生かしましょう、と」

 「われわれは控訴審で記録を事後に見るので、個々に焦点をあげればもう少し分かりやすかったな、ここは過剰だったな、と感じることもあります。それを1審の裁判官に伝えて改善してもらっています。裁判員の方の負担を減らすためには、焦点を当てた分かりやすく、短い審理を目指さなければいけませんからね。みんなで努力しているというのが現状と思います。10年間の蓄積があり、進化しているものの、絶えず努力していかなければいけないという意識を持っています」

 −−今後の裁判員裁判に期待される点、ご自身の職務にあたっての意気込みを教えてください

 「私が裁判員裁判を今後担当することは年齢的にないですが、後方支援ですよね。気付いた点や改善点を担当している裁判官にお伝えして、裁判員裁判をさらに進化させてほしいと思っています。より多くの方に裁判員裁判に参加していただけるように。検察庁も弁護士会もそれぞれ努力はしていると思いますが、それを怠ると元の裁判に戻ってしまいます」

 ■和田真

 わだ・まこと 昭和60年判事補。名古屋地裁判事、大阪地裁部総括判事、函館地家裁所長などを経て、平成29年7月から大阪高裁部総括判事。60歳。大阪市此花区で5人が死亡したパチンコ店放火殺人事件をめぐり、大阪地裁で開かれた裁判員裁判で23年10月、殺人罪などに問われた男に対し、求刑通り死刑を言い渡した。絞首刑が憲法の禁じる「残虐な刑罰」に当たるかどうかが争点となり、地裁判決は裁判員の意見を踏まえ合憲と判断。絞首刑の合憲性について、裁判員の意見が反映された初めての司法判断を下した。

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