歩行者の安全 ハード、ソフトの相乗効果で

歩行者の安全 ハード、ソフトの相乗効果で

歩行者の安全 ハード、ソフトの相乗効果での画像

 大津市の交差点で車同士が衝突して、保育園児らの列に突っ込んで16人が死傷した事故から8日で1カ月がたつ。全国の通学・通園路ではガードレール整備など歩行者の安全対策が進められることになったが、子供たちが日常的に歩く道路すべてに、ハード面の対策を施すのには限界もある。だが、これに歩行者の自衛意識を高めるようなソフト面のアプローチを取り入れれば、交通事故のリスクを低減させる相乗効果が期待できる。ハードとソフトの両面から、歩行者の安全を考えてみたい。(玉崎栄次)

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 ■ハード、防護柵があれば… ポールや歩車分離式信号

 大津市で起きた事故は、歩道の安全対策としてガードレールをはじめとした防護柵の必要性を浮き彫りにした。

 「諸外国に比べ、歩行者が犠牲になる割合が非常に高いのが実情だ」

 事故翌日の5月9日、警察庁の栗生(くりゅう)俊一長官は記者会見でこう述べ、通学・通園路でガードレールの整備などを進める考えを示した。

 事故があった大津市の交差点には、車道と歩道の境に高さ約20センチの縁石があるだけで、ガードレールなどの防護柵は設置されていなかった。防護柵は国土交通省が「急カーブ」や「事故多発区間」など設置場所の基準を示しているが、事実上は自治体など、道路管理者の判断に委ねられているのが実情だ。今回の交差点を管理する滋賀県道路課は設置していなかった理由について、「近年は大きな事故もなく、直線で見通しもよかった。地元住民からの要望もなかった」と説明する。

 元岐阜県警交通部分析担当管理官の交通安全計画アナリスト、信田正美さんは「防護柵があれば、被害を抑えられたかもしれない。すべての交差点で安全性を再点検すべきだ」と指摘する。信田さんへの取材を総合すると、安全な交差点のイメージは図のようになる。

 信田さんによると、場所によって事情は異なるものの、子供が利用する交差点には、さまざまな防護柵の中でも、支柱に複数の鉄棒を渡したガードパイプの設置が望ましいという。「鉄板を使ったガードレールでは子供の姿が隠れ、ドライバーから見えなくなる恐れがある。見えることで速度を下げようという意識が働く」ためだ。

 歩道と横断歩道が接するエリアは防護柵を設置できないため、障害物となる鉄製ポールを設ける。さらに、車と歩行者の通行時間帯を完全に分ける歩車分離式信号を導入すれば、さらに安全性は高められる。

 ただ、こうしたハード面の充実には多額の費用がかかる。一般的なガードレールの設置費用は「工事費を含め1メートル当たり最低でも3万円」(自治体関係者)。ガードパイプなら値段はさらに高価だ。また土壌によっては工事費用がかさむケースもある。

 事故の危険は車が走行する全ての道路に潜んでいるが、全国くまなく対策を講じるのは現実的には難しそうだ。このため、歩行者自身が身を守る手立てを講じることが、安全性を補完することになりそうだ。

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 ■ソフト、「事故に遭う」意識を 車道から離れる/反射材も

 交通事故に巻き込まれないためには、歩行者自身の自衛意識を向上させるソフト面での安全教育が重要となる。これによって、防護柵の整備や車と歩行者の通行時間帯を完全に分ける「歩車分離式信号」といったハード面の不足を補うことができそうだ。

 「多くの人は今まで事故に遭っていないから、これからも大丈夫、と考える傾向がある」

 大阪大大学院の中井宏准教授(交通心理学)は、悪い結果が自分に降りかかる可能性を過小評価する「楽観主義バイアス」と呼ばれる心の働きを指摘し、こう続ける。

 「しかし、外出する際には、あえて意識的に『自分は交通事故に遭うかもしれない』と考えてほしい」

 中井准教授はその上で、事故に遭うリスクを下げる行動を挙げる。

 たとえば、交差点で信号待ちをする際は車道から離れ、防護柵や障害物がある場合はその後ろに立つ。道を歩くときには、歩道に十分な幅があれば、車道から1メートル以上離れて歩く。注意力が低下するので、歩きながらスマートフォンの操作は避ける。夜間には手首や足首、かばんなどよく動く場所に反射材を付ける。

 横断歩道では歩行者用信号が青でも、左右の車が完全に停止しているのを確認してから渡り、途中でも車の動きを再確認する。車道は横断歩道以外で渡らないのが原則だが、やむを得ない場合は手を挙げるなどして、運転者に横断する意思を明確に伝えることも効果的だ。

 これら全てを徹底しても、理不尽な事故に巻き込まれるリスクをゼロにはできない。大津市の事故では、保育士と園児らは車道から離れて信号待ちをするなど対策を取っていたが、被害に遭った。

 それでも、中井准教授は、こう訴えている。「普段から意識的に自衛の気持ちを持ち、安全のための行動を習慣化することでリスク低減につなげていくしかない」

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 ■通学路で違反 10日間で1万件

 登校中の児童らを交通事故から守ろうと、警視庁は東京都内にある小学校周辺の通学路で交通違反の一斉取り締まりを行った。全国で歩行者が巻き込まれる事故が相次ぐなか、ドライバーらに歩行者に配慮した運転を呼びかけた。

 東京都世田谷区では、登下校の時間帯に車の乗り入れが禁止されている道路に入ってきた車や、歩行者優先を無視して走行する自転車に対し、成城署員らが警告を行った。

 成城署の永井悌二署長は「悲惨な交通事故を減らすため、学校などと協力しながら子供に優しい通学路を作っていきたい」と話した。

 取り締まりは春の全国交通安全運動(5月11〜20日)に合わせて実施。警察庁によると、全国の通学路約3千路線で道交法違反容疑などで約1万件を摘発した。

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【用語解説】大津市の保育園児死傷事故

 大津市の県道交差点で5月8日午前、車同士が衝突、弾みで1台が散歩中で信号待ちをしていた保育士と保育園児らに突っ込み園児2人が死亡、14人が重軽傷を負った。滋賀県警は自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の疑いで、車を運転していた2人を現行犯逮捕。このうち1人は同罪で起訴され、もう1人は釈放された。

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