覚せい剤の売人は本当に消えたのか? 日本最大のドヤ街「大阪・西成」を歩いてみた

覚せい剤の売人は本当に消えたのか? 日本最大のドヤ街「大阪・西成」を歩いてみた

近隣の商店街の壁には「居酒屋で覚醒剤を売るな!」の看板が

 日本最大のドヤ街「大阪・西成」。日雇い労働者で溢れるこの地域は、かつて“シャブ中天国”と呼ばれていた。白昼堂々、スラム化した街の中を売人たちが、徘徊していたというのだ。近年は街の浄化が進んでいるとも伝えられているが、売人たちはまだ棲息しているのか――。一帯を歩いてみた。

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■「覚醒剤の売人は西成から出ていけ!」


 ドヤ街は、JRと南海鉄道が乗り入れる新今宮駅から徒歩1分の場所にある。一昔前までは旧地名から「釜ヶ崎」と呼ばれていたが、今は「あいりん地区」が一般的な呼称だ。この区域には、1日1000円ほどで宿泊できる簡易宿泊所が林立し、そこにすら入れないホームレスが路上や公園に溢れかえっている。

 3月上旬夕刻、街の中心部にある「三角公園」に行ってみた。まず、目に入ったのは、公園前のビルにかかった大きな垂れ幕だった。

〈覚醒剤の売人は、西成から出ていけ!〉

 街の浄化活動への強い意気込みが伝わるが、逆に言えば、それくらいこの地域に売人が住みついていたということなのだろう。

 日が暮れた公園は閑散としていた。入り口に設置された西成名物“街頭テレビ”の前には、3〜4人の労働者がいるだけで、ほかはホームレスがベンチで1人ずつポツンと酒を飲んでいる程度。ギターを弾いているおじさんの歌声が響きわたる園内に、売人らしき姿はない。

 三角公園を離れ、事前にネットで調べてきた「売人の出没スポット」に向かった。堺筋沿いの「スーパーT」や萩之茶屋北公園、動物園前駅の周辺……。だが、怪しげな人物は誰一人立っていない。“立ちんぼ”と呼ばれていた売人たちは本当に姿を消したのか。


■「俺、シャブ屋やっとったやん」


 そう諦めかけた時、顔が浅黒く、がたいの良い男性2人組が、知人らしき人物に話しかけているのが目に入った。

「お、久しぶり!」

 声をかけられた男性はきょとんとしている。

「覚えとらんか? ほら、昔あそこで立っとったやろ。俺、シャブ屋やっとったやん」

 男性は首を振りながら、その場を立ち去った。果たして、この2人組は売人なのか。声をかけると、

「なんや、おまえ。おー、怖い、怖い」と、行ってしまった。

 翌日、日中に再び三角公園を訪れた。夜の静けさとは打って変わり、昼間の園内は労働者で溢れ返り、カオスといった様相だ。誰に話しかければいいかわからず、しばらく観察をしていたが、これだと思った人物を見つけた。上下白のジャージで角刈りにサングラス。後ろ髪をジャンボ尾崎のように伸ばしている。

 声をかけると、男性は気安く取材に答えてくれた。

「シャブ屋か。7、8年前くらいまでは、そこら中におったけどな。もうおらへん。一気にポリ(警察)が摘発、強化しだしたからなあ。パトロールしてシャブ屋の顔を割って、防カメ(防犯カメラ)で証拠を撮ってロックオン。そうなったら商売上がったりよ」


■数年前まではそこら中に“シャブ屋”が立っていた


 しばらく話し込むうちに、彼は「実は俺もやっとったで、バイトで」と打ち明け始めた。

「昔はいくつかエリアがあってなあ。まず、太子交差点の近くに、Kっていうドヤがあるんやけど、その前。で、Tビルの下。あと、こっから(飛田)新地に向かう途中にも、チョコチョコと小さいポイントがあって、そこら中にシャブ屋が立っとった。だいたい、昼の3時頃から夜の12時頃まで。でも、朝まで立っとる奴もおったよ。俺は朝までやっとった」

 なぜやめたのかを聞くと、

「バイトでやっとっただけやからなあ。知らんかったんよ、“営利(目的所持)”があんなに長く(刑務所に)行くことになるって。ツレで摘発された奴がおってな。7年とか、下手すると10年くらい、行かされたやろう。あんなバイトでそんなに長く行かされるのは割に合わんわって、ちょうど摘発が厳しくなる前に、やめたんよ」

 では、もうここでは買えないというのかと問うと、意味深な顔を浮かべる。

「内部事情は言えんわ。昔のことなら喋れるけどなぁ」

 地下ではいまだ薬物の売買が行われていると示唆するのだ。

 取材の合間には、こんな一幕もあった。記者が三角公園前にタクシーをつけた時のことである。

 運転手に料金を払おうとしていたら、突然、普段は使用しないタクシーの右側のドアが、ガチャッと開いた。ハッと目を向けると、50歳くらいの作業着姿の男性が立っている。しばらく目を鉢合わせていたが、やがて男性は焦り出したような様子で「間違えました」とタクシーから離れた。もしや、と思って追いかけて話しかけたが、男性は「すみません、すみません」と繰り返すばかり。そのまま立ち去ってしまった。

 もちろん、知人と間違えられただけかもしれない。だが、あの慌てぶりはいったい何だったのかと今も気になっている。

デイリー新潮取材班

2021年3月18日 掲載

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