事件現場清掃人は見た トイレで孤独死していた「50代男性」の元妻に泣けた理由

 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、目を覆いたくなるような悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。2002年からこの仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、自宅のトイレで亡くなった50代男性の話を聞いた。

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 特殊清掃は、故人がどのようにして亡くなったかを追体験するようなものだという。体液の染みや血痕に触れると、死の寸前の苦痛や恐怖が伝わって、いたたまれない気持ちになるそうだ。

「ある時、50代の女性から依頼がありました。都内のマンションで一人暮らしをしている身内の50代の男性が、トイレで病死したといいます。突然死や自殺によって、トイレの中で最期を迎えたケースはこれまで何度も経験していました。そういう場合は、体液や糞尿でかなり汚れているのが常ですから、ある程度の覚悟はしていました」

 高江洲氏は、そのため普段より念入りに清掃の準備を整え、現場へ向かった。

「現場に到着して、依頼主の女性と落ち合いました。間取りは2DKで、室内を確認したところ、腐敗臭などはほとんどしませんでした。事件現場とは思えないくらいきれいでした」


■身内が清掃


 男性は、死後1週間してから発見されたという。

「死後それだけ時間が経過していれば、部屋は耐え難い臭気が充満しているものです。遺体が発見されたトイレの中も、なぜか汚れは見当たりませんでした」

 高江洲氏は、目を凝らして室内を見渡した。

「トイレから廊下にかけて、拭いただけでは絶対取れない脂、遺体から染み出た体液の跡がうっすらと黒く残っていました。誰かが事前に清掃していたことがわかりました。もしかしたら、依頼主が清掃したのではないか、という考えが頭をよぎりました。その一方、強烈な死臭がする中、素人がそう簡単に清掃できるはずがないとも思いました」

 高江洲氏は、彼女に事情を聞いてみた。すると、いくぶん恐縮したような様子でこう答えたという。

「実は私が汚れを拭っておいたのです。だって、この人のみっともない姿を人様にお見せするわけにいきませんから」

 高江洲氏は、しばらく言葉が出なかったという。

「特殊清掃とは、故人とは関係のない私でさえ感情移入してしまうような、精神的にも過酷な仕事です。まして身内の方がやるとなると、どんな思いにとらわれるでしょう。そのつらさは計り知れません。ご遺族にそんな思いをさせないためにこの仕事があるんです。私は、彼女に申し訳ないことをしたと思いました。彼女には、『お辛かったでしょう』という言葉をかけることしかできませんでした」

■元夫の部屋で暮らす


 結局、高江洲氏は消毒作業だけを行った。そして、部屋のリフォームを彼女と相談していく中で、意外な事実を知ることになる。

「彼女は男性を“身内”と言っていましたが、実はかなり以前に離婚していて、戸籍上は他人だったのです。離婚後、弁当屋でパートをしながら、3人の子どもを育てたといいます」

 女性は離婚したのに、なぜ清掃を依頼してきたのか。

「離婚した後も、3人の子どもが父親のマンションによく遊びに行くなど、元夫と交流があったのです。子はかすがいと言いますが、彼女も元夫と時々会うようになったということでした。もしかすると、遺体を発見したのは彼女だったのかもしれません」

 高江洲氏の経験では、元妻や元夫が依頼主になるケースは珍しくないという。

「彼女を見ていると、夫婦や家族とも異なる愛の形があることを思いました。離婚に至ったのは、2人にしかわからない事情があったでしょうが、最後まで身内であることには変わりなかった。亡くなったかつての夫を思いやり、他人には見られたくはないと思われる汚れを、掃除したのです。愛情がなければそんなことはできません。私は強く胸を打たれました」

 女性は高江洲氏に、元夫が亡くなったマンションで子どもたちと一緒に暮らすつもりだと話したという。

デイリー新潮取材班

2021年3月22日 掲載

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