江東区放火事件 東工大卒「便利屋」が抱えていた“町内会トラブル”と“怪文書”

江東区放火事件 東工大卒「便利屋」が抱えていた“町内会トラブル”と“怪文書”

「防火部」の活動に熱心に参加していた長内秀明容疑者

 東京都江東区の空き家に火をつけ12棟を延焼させた容疑で、67歳の男が逮捕された。近くで便利屋を営んでいた男は町内会の「防火部」に所属し、防災訓練にも参加していた。動機はいったい何なのか。怪文書まで飛び交った現場周辺を取材すると、あまりに些細な“町内会トラブル”が浮かび上がってきた。

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■火災現場で避難を呼びかけていた容疑者


「『火事だ!』と大声で叫び続ける男性の声で目が覚めました。朝5時過ぎのことです。慌てて家から飛び出すと、30メートル先の住宅から火の手が上がっていました。近所のおじいさんが『火事だ! 起きろー!』とずっと大声で叫んでいて……」(近隣住民)

 住民たちに避難するよう叫んでいたこの男性こそが、3月16日、警視庁に現住建造物等放火の疑いで逮捕された長内秀明容疑者(67)だった。

 発生は3月1日午前5時ごろ。発火場所は東京都江東区の古い民家が立ち並ぶ住宅密集地の空き家で、住宅など12棟に延焼し、460平方メートルが焼かれた。死者は出ず、2人が軽い火傷を負った程度で済んだが、早朝という時間帯を考えれば大惨事になりかねなかった。

 別の近隣住民も長内容疑者の不審な様子を目撃していた。

「まだ消防も来てない段階なのに、『誰か目撃者はいないか!』って大声で叫び続けているんです。あの段階で放火って決めつけるのも変じゃないですか」

 長内容疑者は、数年前から町内会の防火部に所属し、定期的に行われる防災訓練にも揃いの“隊服”を着て参加していた。警察の取り調べには、「身に覚えがない」と容疑を否認しているという。

「警視庁が近隣の防犯カメラを調べたところ、付近で怪しい動きをしていた長内容疑者が映っていた。現場には油のようなものがまかれた形跡があったようだ。動機は近隣トラブルとみて捜査を続けています」(警視庁担当記者)


■東工大卒の「便利屋」


 近隣のある飲食店店主によれば、長内容疑者はこの街に生まれ育ったが、就職してからしばらくは別の街に住んでいたという。

「小学校時代は学級委員をやっていましたね。頭が良かった記憶があります。しばらく見かけなかったんですが、数年前に誰かと2人で店にやってきて、久しぶりに再会しました。どこに勤務していたかわかりませんが、サラリーマンを退職した後、誰も住んでいなかった実家に戻り、電気工事や印刷、清掃など何でもやる『便利屋』稼業を始めたんだそうです」

 それから月に一度1人でふらりとやってきたが、酒癖が悪くて困ったという。

「酔うとすぐに上から目線になるんです。『俺は東工大を出ている』って学歴自慢を始めてね。誰かの悪口を言う時も、『大した大学も出ていないくせに』ってすぐ学歴を持ち出す。目に余るんで、一度、注意したことがありますよ。『いい大学出たことよりも、今がどうなのかが大事でしょ』って。その時は黙って聞いていましたね」(同)

 女好きで、女性客がいるとすぐに絡み出したという。

「学歴自慢だけじゃなく、昔のモテ自慢も問わず語りに始めてね。はっきり言って、女性客みんなに嫌われていましたね」(同)


■火災発生前後にまかれた2枚の中傷ビラ


 発生から逮捕までの2週間、放火と関連しているのではと住民たちの間で囁かれてきたのが、火災前日と5日後に、近隣住宅にばらまかれた「怪文書」だった。2枚とも、現場近くに住む町内会役員を中傷する内容のものだ。

〈この野郎 俺の忠告をいつまで居るんだ。○○(※役員の名前)。今日から3日待つんで、返答がなければ、顧問弁護士と相談の上、提訴します。返事がなければ、実行します。132万円今すぐ直ぐはらえ、出なければお前の左手首を頂くので、覚悟して待っていろよ。(中略)この男は、俺の女房と錦糸町のホテルに行った写真があります。町会の部長に言いたい。奴は、ひどい奴ですよ。町会の女は、必ずやられています〉(原文ママ・以下同)

 これが最初のビラだ。5日後にばらまかれたのも同様で、

〈大島4丁目の方々に報告。(住所) ○○(電話番号)こちらは、お前の動向は、子分に張らせていることを、十分感じていると思うよ! 今回で最後、忠告する。貴様が、不倫したのは、俺のかみさんだ。(中略)○○の指よりも手首を頂くことと考えが変わった。のこぎりやナタでハンマーでたたくと簡単だよ。堅気のお前には、しゃぶを打ってやるから痛くないと思う。覚悟しておけ。〉

 どちらにも末尾に暴力団名、組長名が書かれているが、組長名は架空のものだ。罵詈雑言を並べられた男性は地域の民生委員も務めており、近隣住民の間で評判のいい人物である。男性が語る。

「すべてデタラメな話で本当に迷惑しています。ビラの件で彼が捕まったわけではないので彼だと断定できませんが、こんなに恨まれるようなことをした覚えもない。彼とは同じ町内会には所属していますが、部が違うので、ほとんど付き合いもないんです。彼は『防火部』、私は『広報部』なので」


■「うちの部にも若者を回してくれないか」


 だが、長内容疑者が逮捕された後、ふとあることを思い出したというのだ。

「割と最近の話で、1カ月以内のことだと思います。道端で、ばったり長内容疑者と会った時、邪険に扱ってしまったことが一度あります」

 その時、長内容疑者は男性にある相談をしてきたという。

「町内会は年々高齢化が進み、若者のリクルート活動に頭を抱えているんですが、最近、私はある若い住人を引き入れることに成功しました。突然、長内さんは彼を『防火部に回してくれないか』と頼んできたのです」

 男性はむっとしたという。

「私だって、その若い人を数年がかりでようやく口説き落としたんですよ。それを簡単によこせなんて虫がいい話じゃないですか。でもそんなことよりも、その時、私は連れ合いの女性と一緒にいたので、急いでいたんです。だから、『こんな道端でそんな話されても困る』って一方的に話を打ち切ってしまった」

 それからしばらくして、男性の自宅前に張り紙がされたというのだ。ちなみに、内容はビラ同様の罵詈雑言だ。

〈○○に、次ぐ早く俺の女房を早くかえせ。このスケベ野郎俺の海外出張中に女房に、手を出した世の中を馬鹿にスケベ野郎○○に再度警告する……〉

 男性が続ける。

「彼とのトラブルで思い当たることは、あの時のことくらいなのです。ただ、私はトラブルだなんて認識はありませんでしたよ。けど、もし彼が逆恨みしていたとしたら、私が女性といるところを見て腹が立ったのかもしれません。あとで人づてに聞いたんですが、彼は便利屋になる前、大手ゼネコンで海外勤務中に奥さんに子供と一緒に逃げられてしまったそうなんです。もちろん、私が交際している女性は、彼の元妻でもなんでもない無関係な人ですよ」

 確かに、怪文書では「女房を寝取られた」という文言が繰り返されていた。妻に逃げられた過去を持つ長内容疑者の嫉妬が怪文書を書かせたのか。もっとも、怪文書については警察が捜査中で、長内容疑者が関与したかはわからない。

 男性は、長内容疑者が町内会活動に積極的に参加していたのも、独り者の寂しさゆえだったのではないかと振り返る。

「カラオケ大会や旅行など、よく参加していました。ただ、酒癖が悪く、防火部の仲間に対して飲みの席で因縁をつけたり、トラブルが多かったと後で聞きました」

 もしこんな逆恨みが放火の動機ならば、恐ろしい話である。

デイリー新潮取材班

2021年3月22日 掲載

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