渡辺直美も流れ弾 「電通力」に振り回された東京五輪の行く末は?

渡辺直美も流れ弾 「電通力」に振り回された東京五輪の行く末は?

渡辺直美

 東京オリンピックが楽しみ、そう言いにくいムードが日々高まっている。コロナ対策に経済不安、著名人聖火ランナーたちも次々に辞退を発表。スポーツの祭典というよりも、利権ビジネスの匂いが強調されすぎた向きもある。森喜朗元首相の舌禍事件、そして今回の開閉会式の演出の統括役・佐々木宏氏による「渡辺直美さん=オリンピッグ」演出案である。どちらもその世界での「重鎮」が、時代遅れの言動で権力をふるっている組織、というイメージがつきすぎた。両者とも辞任を申し出たものの、スポーツマンシップと対極にあるような騒動に失望感は深まるばかりだ。

 きっかけは、週刊誌にリークされたLINEのやりとりである。佐々木氏によれば初期の思いつきを冗談まじりに口にしただけだという。ちなみに電通が渡辺さんを起用した例では、ゴリラの企業キャラクターと一緒にウホウホと胸を叩くCMがあった。彼女を体の大きい動物に例える演出は、彼らの中では「ふつう」のことだったのかもしれない。ただ今回の案はすぐに「おかしい」と指摘され、ボツになった。そもそも報道がなければ渡辺さんの名前が出ることもなかったことである。おそらく佐々木氏に恨みを持つ人物による復讐劇に、渡辺さんが巻き込まれた格好だ。

 だが裏を返せば、渡辺さんというネームバリューを使わないことには佐々木氏を糾弾できなかったとも言えるのだろう。硬直的な体制の壁は、相当に厚かったのかもしれない。続報ではPerfumeや星野源さんの「恋ダンス」の振り付けを手掛けたMIKIKOさんとの確執もささやかれている。彼女もすでに演出チームから外れているが、佐々木氏も組織委員会の武藤事務総長も確執の存在をきっぱり否定。電通メンバーの辞任はこれが初めてではない。昨年には菅野薫氏が社内でのパワハラ懲戒によって演出チームから身を引いた。もっと遡ればエンブレム盗作騒動の際も、担当者が更迭されている。

 電通といえば2015年には高橋まつりさんの自殺があり、2017年にははあちゅうさんが「MeToo」ムーブメントの中で先輩からのセクハラとパワハラを暴露した。相変わらず若者や女性を軽んじて利権を貪るエリート集団という印象が、東京五輪で強まってしまったのではないだろうか。マジメに働いている電通社員たちにとっては、いい迷惑である。大企業は多かれ少なかれ好き嫌いが分かれるものだが、ここ最近の電通、正確には「電通的やり口」へ向けられる目は厳しい。

 ただそれでも、五輪チームの文化が変わることはあまり期待できないのではないか。なぜなら今のような面倒くさい状況を、「丸投げしても何とかしてくれる」ノウハウにかけては、電通の右に出る組織はないと思われるからである。


■泥沼化するほど必要とされる「電通力」 開催に向けて改めて橋本新会長らに問われる姿勢


 昨年の段階ではMIKIKOさんの他、椎名林檎さんや映画監督の山崎貴さんらを束ねる役割は、狂言師の野村萬斎さんが担っていた。ただ個性豊かなクリエイターたちをまとめるのは、なかなかに難しいものだったと武藤事務総長は明かしている。

 こうした「曲者」たちや面倒な組織のコントロールにこそ、電通的な力は発揮されるといえるだろう。交渉や根回し、時には汚れ仕事的な調整だって見事にやりぬく。それは「余人をもって代えがたい」と評された森元組織委員会会長の密室政治力と通じるものがあり、だからこそ彼のもとで一枚岩の体制が築かれていたのだろう。森氏といえば「神の国」発言だが、神通力ならぬ「電通力」を、実務では重んじていたのではないだろうか。

 一方で、だから身内まで丁寧にケアしている暇はない、という心理になりやすいのかもしれない。外部との調整だけで面倒なのに、内輪が引っかき回してくれるなよ、と。そうしてパワハラ、セクハラが起き、「わきまえない女」は厄介者扱いされる。被害者は世間を巻き込まないと、うやむやにされてしまう。「電通力」の強さと悪い側面が、今回の騒動で明らかになったといえる。

 少し前には人気を博した4コマ漫画「100日後に死ぬワニ」も、「電通案件」だと炎上した(作者は否定しており、関与はなかったとされている)。今回は「100日後に消える東京五輪」だなんて洒落にならない。ケチばかりつく五輪から早々に抜け出す方が、名誉に傷はつかないと計算する向きもある。ただ、それこそ開催に向けて苦心している関係者たちや、志半ばで去ったMIKIKOさんらが報われない。「電通力」に頼りすぎた体制が問題の一つとするならば、橋本聖子新会長らは、いかに面倒くさがらずに面倒くさいことと向き合えるかを問われているのではないだろうか。それは途方もなく骨が折れることであり、苦労が絶えない道である。それでも、現役時代さながらの本気のスタートダッシュを見せてくれることを期待したい。

冨士海ネコ

2021年3月27日 掲載

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