事件現場清掃人は見た 孤独死した老女の「マグカップ」に感じた不思議なエネルギー

 孤独死などで遺体が長期間放置された部屋は、死者の痕跡がのこり、悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。2002年からこの仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、孤独死した70代女性の遺品整理での忘れられない体験について聞いた。

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 特殊清掃の現場では、日常生活では体験したことのない不思議な現象に出くわすことがあるという。

「現場で遺品整理をしていると、亡くなった方のスマートフォンが出てくることがあります。そのスマホを確認していた時、なぜか私のスマホに『SIMカードが挿入されていません』と表示されたことが2回ほどありました」

 と語るのは、高江洲氏。

「もちろん、SIMカードは入っていましたし、その時以外にそんな表示が出たことはありません。亡くなった方がスマホを通して何かを訴えようとしていたのでしょうか」

 清掃している時、どこからともなく「カチカチ」という音が聞こえてくることもよくある。


■“ラップ現象”


「“ラップ現象”(誰もいない部屋で音が鳴り響く現象)と呼ばれるそうですが、そんな時、私は『またいるねぇ。どうしてほしいの?』と問いかけます。もちろん、答えが返ってきたことはありませんが」

 こんなこともあった。高江洲氏が道を歩いていると、すれ違った人から肩を叩かれ、「あなたにはたくさんの人が憑いている。取ってあげなければいけない」と言われたという。

「もし本当に亡くなった方が私に憑いているとしても、居心地がいいならいてくれて構わないと思っています。ですから、私は『別に身体には影響がないんだから、そのままで結構です』と言うと、『おっしゃるとおりかもしれません』と言って去っていきました」

 高江洲氏が今も忘れられない体験について、こう話す。

「以前、70代の女性が1Kの木造アパートで孤独死したということで、息子さんから特殊清掃の依頼がありました。女性はちゃぶ台に突っ伏した状態で亡くなっていましたが、1カ月以上経って発見されたので、畳の上には無数のハエの死骸があり、腐敗臭もひどいものでした」

 ところが、高江洲氏はまったく嫌な気分にならなかったという。

「現場となった部屋には、息子と孫の写真がいくつも飾られていました。それを見た瞬間、なんて愛情にあふれた部屋だろうと思い、心が和みました」

 清掃を一通り終え、遺品の整理にとりかかった。

「ちゃぶ台の奥に水屋箪笥があり、食器類が収められていました。こういった生活用品は、よほど高価なものでない限り廃棄するよう言われることが多いです。この時も、貴重品以外は処分することになっていました」

 高江洲氏は、箪笥に入っていた食器を一つひとつ確認しながらゴミ袋に入れた。

■気になったマグカップ


「すると、水屋箪笥の奥に、ジップロックに入ったドーナツ店の景品と思われるマグカップを見つけました。こういった景品が使われずにしまわれていることはよくあります。高価なものではないので、普通なら処分していました」

 ところが、なぜかそれができなかったという。

「なにか、亡くなった女性の気持ちがカップに籠められているように感じたのです。これは捨ててはいけないと思い、他の貴重品とともに保管し、息子さんに渡すことにしました」

 息子の反応は、意外なものだった。

「貴重品の入ったダンボール箱の中から、そのマグカップを見つけた途端、『ああ!』と大声を上げ、『お母さん、こんなものをとっておかなくたっていいのに……』と嗚咽しながら泣き始めたのです。昔、息子さんからもらったマグカップを、とても大切に保管していたのです」

 高江洲氏に、女性が思い出のマグカップを運ばせたということか。

「私は事件現場には、まちがいなく死者のエネルギーが残っていると思っています。しかし、それは恨みや悲しみだけでなく、愛情のようなあたたかなものであることも少なくありません。そして、その想いを汲んで、亡くなった方に代わって後始末をすることが私の務めでもあるのです」

デイリー新潮取材班

2021年3月30日 掲載

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