中国駐大阪総領事館のトップが約半年不在 華僑社会でささやかれる“身柄拘束”説

中国駐大阪総領事館のトップが約半年不在 華僑社会でささやかれる“身柄拘束”説

トップ不在のまま約半年を迎えた中国駐大阪総領事館(大阪市西区靱本町:撮影・吉村剛史氏)

■過去に類例も


「総領事が姿を消した」「総領事館からは何の説明もない」──。在日華僑・華人らの多くが口をそろえ、首を傾げている。中国の駐大阪総領事館のトップが、昨年秋に本国に一時帰国したまま任地の大阪に戻ってきていないことが、4月26日までに関係者らへの取材で明らかになった。(ジャーナリスト・吉村剛史)

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「台湾海峡の平和と安定」と民主主義の堅持などを共同声明に明記した日米首脳会談。中国は、香港の民主派排除や、ウイグル族に対する人権侵害に加え、台湾に対する軍事的圧力、周辺国などへの「戦狼外交」を展開し、強権的な姿勢を強めている。

 それに対し、日米が連携して対峙する姿勢を明確にした格好だが、そんな中、中華人民共和国駐大阪総領事館(大阪市西区靱本町)の何振良[か・しんりょう]総領事は、ひっそりと公務の場から姿を消した。

 日本有数の規模を誇る総領事館ながら、在日華僑・華人らにすらその理由を明らかにしておらず、一部領事業務にも支障が生じ始めており、「権力闘争に巻き込まれ、拘束されたのではないか」と推測する声も。

 今年7月に中国共産党結党100周年をひかえる習近平指導部の中で、いったい何が起きているのだろうか。

 中国駐大阪総領事館は、近畿、中国、四国など2府12県を管轄する、日本では東京の駐日大使館に次ぐ規模を誇る中国の在外公館だが、総領事館関係者によると、何総領事は昨年11月ごろに一時帰国。その後約半年間も任地の日本、大阪に戻ってこない状況が続いているという。


■知日派の経歴


 昨年12月ごろからは、女性副総領事の張玉萍[ちょう・ぎょくへい]氏が「代理総領事」の肩書で対外業務をこなすようになったが、関西の華僑・華人らは「着任からまだ1年も経っていないのに、総領事館からは何の説明もないままトップが長期不在。こんなことは異例」と首をかしげる。

 駐大阪総領事館が公開している経歴表などによると、何総領事は1967年11月生まれの53歳。法学修士。東京の駐日大使館勤務をはじめ、北京の外交部(外務省)本省アジア局日本遺棄化学兵器問題処理弁公室の役職などを経て、2016年から19年まで駐福岡総領事を務め、20年2月、李天然[り・てんねん]氏の後任として駐大阪総領事に着任した。

 総領事館に着任後、同年春に予定されていた習近平国家主席の国賓訪日について「中日関係は包括的な革新の時代に入り、重要な機会が到来する」と展望し、関西エリアでの中国との友好交流や協力のレベルをあげることに意欲を示していた。

 経歴から明らかなように、何氏のキャリアのほとんどが日本での勤務や、対日部門の知日派だ。

 関西の華僑らによると、04年9月から07年9月まで駐日大使を務め、やはり知日派として知られる王毅国務委員兼外相に近い人物だとされている。


■権力闘争の余波?


 その王毅氏が20年11月24〜25日に来日し、25日には茂木敏充外相との日中外相会談に臨んだことは記憶に新しい。

 会談後の共同記者発表の場では、沖縄県の尖閣諸島をめぐり、王氏は「一部の正体不明の日本漁船が頻繁に釣魚島(尖閣諸島の中国名)周辺の敏感な海域に入っている」、「引き続き自国の主権を守ってゆく」などと主張。茂木外相がその場で反論しなかったことに与党内からも「なぜすぐに反論しなかったのか」と批判の声が噴出した。

 周辺関係者によれば、何氏は「王毅氏の来日直前までは普通に総領事としての公務をこなしていた」という。

 16年ごろ中国で身柄拘束され、約4か月後に釈放された在日華僑・華人団体の幹部が後に行った証言によると、中国国家安全部(国家安全省)は同年の秋以降、王毅氏の駐日大使時代の言動や側近外交官らの言動を徹底的にチェックしていたという。

 何氏が帰国したタイミングが王毅氏の来日時期に重なっていたこともあり、在日華僑・華人らの中には「何総領事は権力闘争に巻き込まれるなどして、身柄を拘束され、取り調べを受けているのではないか」との憶測も浮上している。


■不審死の“前例”


 中国駐大阪総領事館のトップが公務の場から突然姿を消したケースとしては、2008年7月、当時の羅田広[ら・でんこう]総領事が「仕事の都合で一時帰国中」に、「河北省で交通事故に遭い死亡した」とされる事例が挙げられる。

 総領事以上の役職の中国の駐日本外交官が任期中に死亡した初めての事例だったにもかかわらず、死去の発表までに日数を要したことや、事故の具体的状況などが「明らかではない」などとされたため、在日華僑らの間では「不審死」だと噂された。

 当時、筆者は記者として所属していた産経新聞社で、僚紙『夕刊フジ』関西総局の司法、行政等の担当だった。

 羅氏死去の事実を中国外交部新聞司(報道局)の発表よりも前にキャッチしたにもかかわらず、思わぬ方面からの圧力を受けた編集幹部によって、スクープ原稿が没にされるという経験もした。

 この羅氏は1952年12月生まれで、当時55歳。やはり対日部門のキャリアが長く、長崎総領事館の領事、札幌総領事、大使館付参事官などを歴任。1999〜2006年は本国で外交部領事司副司長、同司長を務め、06年2月以降、駐大阪総領事の任に着いた。


■台湾問題


 死去する直前は、08年5月に発生した四川大地震の義援金対応などにあたっていただけに、死去の発表後、駐大阪総領事館に設けられた祭壇には、当時の橋下徹大阪府知事をはじめ、関西の要人ら多数が弔問に訪れた。

 中国の在外公館をめぐる不可解な動向に関しては他にも例はある。筆者が今年4月に上梓した『アジア血風録』(MdN新書)にも収録したが、中国の孔鉉佑[こう・げんゆう]駐日大使が20年3月27日、東京・内幸町の日本記者クラブで会見した際にこの身を以て体験した。

 19年末以降の中国・武漢市での発生、流行から一気に世界に感染拡大した新型コロナウイルス感染症について、孔氏は同会見で「中国は世界の公衆衛生上の安全保障への責任を果たす」と語った。

 そして中国政府の新型コロナウイルス対策について「習近平国家主席の直接指揮の下、徹底的な抑制措置を取った結果、感染拡大は基本的に遮断できた」などと説明した。

 ところが、質疑応答を含め、中国の圧力によって世界保健機関(WHO)から台湾が締め出されている状況が、世界的に疑問視されていることについては全く言及がないままだった。


■仰天の反論


 会見終了後、名刺交換を兼ねた立ち話の中で「今後は台湾がWHOにオブザーバー参加することが常態化するとみていいか」と孔氏に質問したところ、「おそらくそうなるだろう。その方向ですでに関係各方面との話し合い、調整が始まっている」と日本語で答えたのだ。

 著者はこれをスクープとして3月29日、インターネットニュースサイト『JB press』で、「中国、台湾のWHOオブザーバー参加、認める方針」と報じた。

 もっとも、同31日になって、駐日中国大使館は突然ホームページでこの報道を「フェイクニュース」だと断じる声明を発表。4月1日夕には中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)もこれを受けて、同公室ホームページ上で、台湾のWHO総会参加は、「一つの中国の原則の下で対処するのが必須」とする広報官談話の新華社電を掲載。筆者と孔氏の会話は会見に出席した各社の記者らの目の前で行われたにもかかわらず、駐日大使館では「そのような取材自体がなかった」との仰天スタンスで著者の抗議を一蹴するという信じがたい反応を示した。

 これがきっかけになったかどうかは定かではないが、以後の駐日中国大使館での孔氏の立場について、「大使」の肩書に変更はないものの、大使の実権自体は別の人物に移譲された、と周辺からは目されている。


■「病気ではありません」


 いずれにせよ、経済・軍事的に急成長した中国の強権的な動向は、米国との対立を深化させている。

 経済的には中国と深い関係にある日本も、米国との同盟関係を重視せざるをえなくなっている。オリンピック・パラリンピック東京大会などもひかえ、日本における中国の在外公館の動向についても、日本社会が無関心でいるようでは、健全な国際感覚があるとはいえない。

 この不可解な駐大阪総領事館トップの長期不在に関し、筆者が駐大阪総領事館に電話取材したところ、窓口担当者は「総領事は今も何振良で変わりありませんが、一時帰国しており、現在は副総領事の張玉萍が代理総領事として対応しています。総領事の帰国の理由は業務の都合です。病気ではありません」と説明。

 しかし、重ねてその背景を尋ねたところ「実のところ私どもにも、はっきりした事情は示されていないのです」と本音を漏らした。「祖国、中国でいったい何が起きているのか全くわからない」とする在日華僑・華人らの不満の声は、駐大阪総領事館内部においても同じようだ。

吉村剛史(よしむら・たけし)
1965年、兵庫県明石市出身。日本大学法学部卒。在学中の88〜89年に北京大学に留学。90年、産経新聞社入社。東京・大阪の両本社社会部や僚紙『夕刊フジ』関西総局で司法、行政、皇室報道等を担当。台湾大学社費留学、外信部を経て台北支局長、岡山支局長、広島総局長などを歴任。2017年、日本大学大学院総合社会情報研究科前期博士課程修了(修士・国際情報)。19年末退職。以後フリーに。日本記者クラブ会員、東海大学海洋学部講師。主なテーマは在日外国人や中国、台湾、ベトナムなどアジア情勢。著書に『アジア血風録』(MdN新書)等。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月26日 掲載

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