NHK、大河ドラマ「青天を衝け」の製作費は1本7900万円…は高すぎるか

NHK、大河ドラマ「青天を衝け」の製作費は1本7900万円…は高すぎるか

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「NHKドラマ1本7900万円、紅白は非公表…問われる改革・公共性」。そう題した記事を読売新聞オンラインが3月14日に配信し、話題になった。番組制作費の一部を記し、「番組一つひとつを精査する必要があるはず」と主張したのである。さて、NHKの制作費は高いのか。

 読売新聞オンラインの記事は、NHKが公開している資料「2021年度 収支予算と事業計画の説明資料」を引用しつつ、同局の在り方を問うた。同じ資料を使い、NHKの制作費について考えてみたい。

 NHKも民放も制作費が一番かかる番組はドラマ。NHKの場合、その目安は1本1350万円から7900万円である。

 資料にはどの番組にいくらかかったのかは明記されていないが、最高額の7900万円は大河ドラマ「青天を衝け」にほかならない。大河に最も制作費を費やしているのは局内の常識だ。

 NHKのドラマの制作費には、出演料やセット代など直接的な費用のほか、スタッフの人件費なども含まれる。一方、民放は制作費を一切明かさないが、GP帯(午後7時〜同11時)で放送されるドラマは3000〜4000万円。テレビ東京は約2割安い。こちらにも人件費が入っている。

 大河と民放のドラマの制作費には随分と開きがある。これをどう見るかは視聴者によって考えが違うだろう。「高すぎる」と思う人もいる一方で、「大河は今のままでいい」と言う人もいるはず。

 そもそも大河は基本的に時代劇。これを踏まえなくてはならない。セットや衣装などに莫大なカネがかかる。おまけにコアな視聴者はスポンサーが敬遠しがちな中高年以上。だから民放は時代劇を捨てた。

 仮に大河にもコスト最優先を求め、カネのかからない現代劇だけをやるようにさせたら、ドラマ界から時代劇という文化が消える。すると、やがて殺陣師などの人材もいなくなるから、二度と作れない。

 実際、「木枯し紋次郎」(1972年、フジテレビ)を作った制作会社の映像京都は2010年に解散した。大映京都撮影所の流れを汲む職人集団で、渡辺謙(61)が主演した「御家人斬九郎」(1995年)なども作った。スタッフの高齢化も背景にあるが、民放が時代劇を作らなくなったのが大きな理由だ。

 NHKの制作者には決められたことに従う風潮が強いから、大河をチープな現代劇に変えるのは簡単なことだろう。ほかのドラマも同じ。遠藤憲一(59)が東日本大震災時に津波に流された男を演じた「星影のワルツ」(3月7日)のようなカネのかかる大作をやめるのは容易なこと。コストはグッと落とせる。

 そもそもコスト第一をNHKのドラマに求めるのなら、いっそのことNHKはドラマから撤退すればいいのではないか。NHKらしいドラマを作らないのなら、在京キー局は5つもあるのだから、ドラマは民放に任せればいい。

 ただし、日本テレビ、TBS、フジテレビは「ターゲット戦略」を採用しており、49歳までの視聴者に的を絞っている。万一、NHKがドラマから撤退したら、50代以上が観るドラマはなくなる可能性がある。

 ターゲット戦略は視聴者のためではない。そのほうがCMを高く売れるからだ。だから最近の民放のドラマはやたらとラブコメが目立つ。若い視聴者を意識してのことだ。

 通常のドラマだと思ったら、やがて恋愛が絡んでくる作品も多い。民放から時代劇が消えた今、次は民放から恋愛を抜きにしたドラマが消滅するのかも知れない。

 NHKがドラマをやめたら、時代劇はもちろん、「星影のワルツ」のような社会派作品も消滅するだろう。民放では社会派ドラマは絶滅に近い状態なのだから。40代以下の視聴者もラブコメや恋愛の絡むドラマを望む人ばかりではないので、NHKがドラマを作らなくなったら、淋しくなるのではないか。

 民放はNHKに対し、よく「民業圧迫」という言葉を使う。とはいえ、スポンサーと収益を第一に考える民放とNHKは似て非なるものなのだ。

 受信料が原資なのだから、制作費の無駄遣いは断じて許されない。半面、受信料や制作費の現状に強い不満を抱いている視聴者がどれだけいるのだろう。大きな声を上げているのは視聴者というより、むしろ政府と民放、新聞社ではないか。

 昨年1月、安倍晋三前首相(66)の財界応援団と称される「四季の会」のメンバーだった元みずほフィナンシャルグループ社長の前田晃伸氏(76)がNHK会長に就任すると、内側からの大改革も始まった。2023年度に受信料を値下げすることになり、BSとラジオを1波ずつ削減することになった。

 今年1月には菅義偉首相(72)が施政方針演説でわざわざ受信料引き下げについて言及し、「月額で1割を超える思い切った受信料の値下げにつなげます」と表明した。

 日テレ会長の大久保好男氏(70)が会長を務める日本民間放送連盟(民放連)も受信料値下げを求めてきた。大久保氏は日テレの親会社の読売新聞出身。その読売も社説で「NHK受信料 値下げの具体策を早期に示せ」(今年1月18日朝刊)などと、たびたび受信料値下げを訴えている。


■民放の事情


 政府、民放、新聞はそろって受信料を下げたい。さしずめNHK包囲網である。不思議なのは視聴者の意向を汲み取った上での動きとは思えないところ。どうして受信料値下げの大合唱が起きたのか。

 民放の事情はこうだと言う。

「NHKには強くなってほしくない。NHKにはジャパンコンソーシアム(国際スポーツ大会の共同制作機構)で巨額の負担をしてもらい、さらに放送界全体の利益となる技術開発をしてくれたら、それでいい」(民放幹部)

 今後、民放の経営は厳しくなる。ネットに広告費を奪われている一方、配信動画の利用者が増加の一途だからだ。片やNHKは放送法によって受信料が安定的に得られる仕組みになっている。時代に左右されない。このままだとNHKはテレビ界のガリバーになる可能性がある。民放はそれを恐れている。

「新聞は関係ないのでは」と言う人もいるだろうが、それは違う。NHKの報道力が強くなり、「ニュースを知るのはNHKとネットで十分」となったら、新聞購読をやめてしまう人が出てくる。プロバイダー代や配信動画の料金がかかる時代になったので、これまでの支出を削らなくてはならないという背景もある。

 受信料の負担が重いと考えた人の中からも新聞購読をやめる人が出てくる。そうでなくても新聞の部数は減少一途。新聞界にとっても受信料は安いほうがいいのだ。

 加えて民放と新聞の大半はクロスオーナーシップ。日テレと読売、フジテレビと産経新聞、テレビ朝日と朝日新聞など資本面で結びついている。

 言論が偏ってしまうことなどから、欧米の多くの国ではクロスオーナーシップを禁止か制限しているが、日本では昭和期から当たり前のように続いている。このため、民放の不利益は系列新聞にとってもマイナス。逆も同じなのである。

 受信料は地上波だけなら月1225円(口座振替)。BSも込みだと月2170円(同)である。地上波の年間契約は1万3650円(同)。ちなみに同じ公共放送であるイギリスのBBCは年約2万2000円。諸外国の公共放送と比較した限り、NHKが高いとは言えない。この議論がすっぽり抜け落ちているのは謎である。

 受信料は安いほうが家計は助かる。半面、それによって報道や番組がポンコツになったら困るのではないか。

 なにより疑問なのは政府が下げようとしている現在の受信料は、政府も了解の上で決められたものなのである。NHKの予算も国会の承認を受けている。にもかかわらず今度は「下げろ」と言うのでは、受信料は菅内閣の人気取りのための道具と言われても仕方がないのではないか。

 前田会長によるBSとラジオの削減にも釈然としない部分がある。削減するBSとラジオは誰のためにあったのだろう? 受信料を払ってきた視聴者のためにほかならない。カネを出してきた視聴者の意見を聞かず、一方的に潰していいのか。

 NHKは公共放送なのだから、受信料の金額の設定やカネの使い途、電波の削減などについてはパブリックコメントを採用すべきだ。視聴者が中心になって在り方を考え、決めるのが筋である。

 そもそも総務省がNHKを含めたテレビ局を監督していることが奇妙なのだ。同省で不祥事があったからではない。1934年に設置されたアメリカのFCC(連邦通信委員会)を始め、先進国の大半と台湾や韓国には政府や政治から独立した放送・通信規制機関がある。

 テレビ局は視聴者の代わりに政府や政治を監視すべき立場なのだから、政府から独立した組織が監督するのは当たり前の話。総務省に首根っこを掴まれていたら、政府や政治の監視は困難だろう。事実、同省の不祥事を始め、テレビ報道のスクープが政府や政治家に痛打を与えたことは皆無。それは主に週刊誌の役割になっている。

 NHKについては受信料問題や制作費を考えるのと同時に、組織の根源的な欠陥をあらためるべきだろう。経営に関する議決や会長の任命などを行う経営委員会のメンバーが、視聴者とは全く無縁のところで決まるという点である。

 BBCの理事会の場合、理事長ら4人はオープンな選任過程を経て政府が任命し、残り9人はBBC自身が選んでいる。民意が反映されるようになっており、自主性も強い。

 一方、NHK経営委員は衆参両院の同意を得て、首相が任命するが、実質的には与党が12人の委員全員を自由に選べる。それもあるから年中行事のように政治の介入が指摘される。

 このままではNHKが誰のためにあるのか分からない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月3日 掲載

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