事件現場清掃人は見た 親戚に見捨てられ首吊り自殺した「40代男性」の特別な事情

 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、その仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、首吊り自殺を図った40代男性について聞いた。

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 世の中には、精神疾患によって自立した生活を送ることが困難な人がいる。彼らが支援してくれる人を失った場合、果たしてどんな事態が起こるのか。今回はその典型的なケースをご紹介する。

「不動産会社からの依頼でした。40代の男性が首吊り自殺をして、死後1週間以上経ってから発見されたという話でした」

 と語るのは、高江洲氏。

「現場は千葉県にある古い賃貸住宅でした。通行人が首を吊っている男性の姿を窓越しに見つけて警察に通報したそうです」


■父親は1年前に他界


 高江洲氏はすぐに千葉へ向かった。

「玄関のドアを開けると、遺体の腐敗臭が鼻につきました。まず目についたのは、キッチンとリビングの間にある鴨居から垂れ下がった紐でした。その下の床には、体液と糞尿が染み付いていました。ここで首を吊ったことがすぐにわかりました」

 大家によると、その家にはもともと、亡くなった男性と父親が暮らしていたという。

「男性は精神疾患があって、社会生活を営むことができなかったそうです。父親が息子の面倒を見ていたのですが、1年前に他界したといいます。働くことができない男性はお金に行き詰まり、家賃を滞納するようになりました。その挙げ句、自ら死を選んだのです」

 高江洲氏は部屋の清掃を終え、遺品整理にとりかかった。

「リビングにあったガラス戸の付いた収納家具には古い日本人形がきれいに飾られていました。それとは対照的に、机の上には様々な書類が整理されずに散らばっていました。キッチンは調理器具が揃っているものの、調理をした形跡がありません。かつての親子の暮らしと、その後の男性一人だけの暮らしを同時に垣間見た思いがしました」

 2階には3つの部屋があり、1つは納戸として使われ、残り2つは男性の寝室と父親の寝室だったという。

「男性の寝室には衣類が散らばっていました。納戸として使われた6畳の部屋にはパソコンゲーム、アニメのDVD、少女のキャラクターのフィギュア、そして成人向け雑誌や書籍が至るところにうず高く積まれていました。そこに登場するのはすべてがいわゆる2次元の女性でした」

 最後に玄関を確認したとき、そこには思わぬものが……。

「靴箱の上に置いてあるレポート用紙を見つけました。何気なくめくってみると、そこにはつたない文字で、親戚への恨み節が延々と書き連ねてありました」

■5枚とも同じ言葉


 レポート用紙には、こんな言葉が書かれてあったという。

《働けないため生活が苦しい。親戚にお金を無心したら、冷たく断られた。そのせいで自殺するのだ。父に世話になったくせに。こんなにつらいのに……》

「レポート用紙は5枚ありました。1枚の用紙に書いた後、同じ言葉を別の用紙に何度も書き直しているのです。5枚とも同じ言葉が書かれていました」

 男性は、生活保護を受けることはできなかったのか。

「生活保護の制度があることすら知らなかったのではないでしょうか。人とのコミュニケーションがうまくできないため、自治体に助けを求めることもできなかったようです。親戚が生活保護をもらえるように男性に手続きをしてあげれば、自殺することはなかったのかもしれません」

 大家の話によると、その親戚は「私たちには関係ない」の一点張り。男性とは一切関わりを持ちたくないようだったという。

「親戚は大家さんとも話をしようともしなかったそうです。私としては、親戚から男性の遺品を放棄すると言われないかぎり、それを勝手に処分することができません。そのため遺品は1点ずつ写真を撮って、保管袋に入れて別の場所に移動する必要がありました。結局、特殊清掃の費用は全て大家さんの負担となりました」

 後日、親戚と大家は弁護士を介して連絡を取り、親戚が遺品を放棄することになったという。

「父親が亡くなって途方に暮れ、親戚からも無視されて死ぬしかなかった男性のことを思うと、やりきれない思いでいっぱいになりました。なんとも後味の悪い現場でした」

デイリー新潮取材班

2021年5月25日 掲載

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