ワクチン抜け駆け接種問題 懲りないトップたちの謝罪は「0点」

 数多くの国民が切望している新型コロナウイルスのワクチン接種の「抜け駆け」問題が後を絶たない。

 まずは地方の首長。茨城県城里町の町長を皮切りに、次々とワクチンを順番抜かしで接種した事例が報告されている。

 多くの場合、これら首長の主張は似ていて、

「余ったワクチンを接種した。自分は医療関係者なので(または危機管理上、意味があると考えるので)、早めの接種には意味がある」

 というものだ。

 実際のところ、仕事柄人と会うことも多く、またその地方のトップであるのだから、早めに接種しておくことに一定のメリットがあるという考え方には一理あるのだろう。そのため、世論も彼らに対してはあまり厳しくない。要は普段の人望や働きぶりが大いに関係していて、「その通り。私たちのために頑張ってください」と思われている首長ならば、住民から文句は出ないだろうし、逆に「また自分のことだけ考えて」と思われている首長ならば、次の選挙で厳しい審判が下されるということに過ぎない


■相次ぐ“地元の有力者”の抜け駆け接種


 一方で、なかなか正当化が難しいのが、「地元の有力者」パターンである。

 千葉県にある亀田総合病院は、亀田医療大学の関係者でもある企業、オービックの会長夫妻に2回接種をしたという。その理由について、同病院は、次のように説明している。

 ・夫妻の存在は南房総の地域医療を支えるものである。

 ・ワクチンは、病院職員用の残存分を活用した。受けるべき人のものを奪ったわけではない。

 そのうえで「多大なご心配、ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます」と謝罪のコメントを発表している。

 このケースでは「ズルい」という意見もあるだろうが、一方で同院は新型コロナウイルスの治療に取り組んできたという実績もあり、ここでも日頃の行いなどによって、世間の評価は影響されることだろう。結局のところ、地域の人の受け止め方が当事者にとっては重要で、その意味では首長のケースにも似ている。

 一番苦しいのが、スギ薬局などで知られるスギホールディングスの件だ。創業の地である愛知県西尾市の行政側に、会長の秘書が夫人(相談役)のワクチン接種に便宜をはかるように要請し、その圧力に負けた市が優先しようとしていたことが発覚。

 事前に報道されたため、未遂に終わったものの、地元の有力者側が働きかけて、行政に特別扱いを求めたというのは、ワクチンでなくとも許されない。全国展開している東証1部上場企業だけに、より高いモラルが求められるのだが、同社が発表した次のようなコメントがまた不興を買っているようだ。

「この度は、当社会長杉浦広一および相談役昭子へのコロナワクチンの優先的接種を西尾市様に依頼したことにつきまして、ワクチン接種をお待ちの西尾市の方々はじめ、全国の皆さまにとって不快な行為であったこと、日夜尽力されている全国の行政の方々の努力に水を差す結果となってしまったことに深くお詫び申し上げます。

 今回の案件に至った背景として当社相談役が肺がんを患い大きな手術を経験しており、一日も早いワクチン接種をと慮った当社秘書が西尾市役所様にお問い合わせをさせていただいたことに端を発します。その使命感ゆえに何度かお問合せを繰り返ししたことについてご迷惑をおかけしたと考えております。

 また会長杉浦自身は過去にアナフィラキシーショックを経験しており、ワクチン接種は希望しておりません」

 この「会長杉浦自身は〜希望しておりません」には強調の下線が引かれていて、「希望したのはあくまでも2人分じゃなくて、1人分ですよ」ということを主張したいというのがよく伝わってくる。そして、このコメントは次のように締めくくられている。

「このような事態を引き起こしましたことを深く反省し、頂戴いたしました、多くのご意見・ご指摘を真摯に受け止め、今後このようなことがなきよう努めてまいります」

(いずれも5月11日発表の同社の声明より)


■危機管理における重要な4つのプロセス「感知・解析・解毒・再生」


 危機管理コンサルタントとして、クライアント企業にアドバイスをしている(株)リスク・ヘッジの田中優介氏は、この対応は「0点に近い」と言う。

 田中氏によれば、危機管理のプロセスには「感知・解析・解毒・再生」という4つのステップがあり、謝罪は「解毒」のステップで行うものだという(『地雷を踏むな』田中優介・著より)。

 ところがこの謝罪でしくじると、かえって毒を増やしてしまう、つまりより反発を買ってしまう。今回のケースはまさにそれだという。

 田中氏が解説する。

「毒を増やす典型的な謝罪は6つあります。

 (1)遅い謝罪、(2)時間足らずの謝罪、(3)あいまいにボカした謝罪、(4)言い訳や反論まじりの謝罪、(5)ウソと隠蔽まじりの謝罪、(6)贖罪のともなわない謝罪、です。

 スギホールディングスのコメントは(5)、(6)に該当します。

 実際はどうであれ、秘書の責任にしているのは、ウソや隠蔽と受け止められる可能性が高いでしょう。

 さらに、言葉だけでお詫びしていて、特に何かするわけでもないので(6)贖罪のともなわない謝罪、と受け止められても仕方ありません」


■危機管理のプロが作成した謝罪のサンプル文


 では、どうすれば良かったのか。田中氏は「仮に弊社がコメント作成に協力したら」ということでサンプル文をこう示してくれた。

「薬局は皆さまの健やかな生活のお手伝いをして、安心・安全な社会づくりに貢献するのが使命です。その弊社が、新型コロナという未曽有の災害に際して、抜け駆けという極めて不誠実な行為をしてしまいました。

 それは、ワクチン接種をお待ちの方々に、疑心暗鬼と強い憤りを与えるもので、慙愧に耐えません。

 また、ワクチン接種の遅れによって、過酷な業務を余儀なくされておられる方々に、何とお詫びをしたら良いのか言葉が見つかりません。

 心よりお詫びを申し上げます。

 このような状況におきまして私が現職にとどまることは、とうてい許されることではありません。従いまして、会長の職を辞する決意を致しました」

 結局は「抜け駆け未遂」なのに、辞職まで必要なのだろうか。この点について田中氏はこう語る。

「現在、新型コロナウイルス対策に関して、国民の怒り、フラストレーションはピークに達しつつあります。その状況での“抜け駆け”は、極めて厳しい目で見られます。だから甘く見ていては企業業績そのものにも影響する、というくらいに考えておく姿勢が危機管理上は必要なのです」

 そういえば「責任は自分にある」と言いながらも、何かにつけて「専門家」のせいにしているように見えるトップの人望も下がる一方のようだ。

デイリー新潮編集部

2021年5月25日 掲載

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