「ALS嘱託殺人事件」医師が実父も殺害 灘高時代は気弱、母親から溺愛を受け

「ALS嘱託殺人事件」医師が実父も殺害 灘高時代は気弱、母親から溺愛を受け

非情な山本被告(Facebookより)

 生きる希望を失った患者が、死にたいと医師に頼んで薬殺された。世間で物議を醸した「ALS嘱託殺人事件」が、急展開を見せている。余罪として明るみに出たのは、逮捕、起訴され被告となった医師の父親殺し。あまりに独善的な犯行の原点を探ってみると……。

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 白衣の下に隠していた彼らの心の闇は、さらに深かった。5月12日、京都府警は殺人容疑で医師の山本直樹(43)と大久保愉一(よしかず)(43)の両被告、山本の実母・淳子容疑者(76)を逮捕した。

 この3人は10年前の2011年3月5日、山本被告の父親である靖さん(当時77)を殺害。病死に見せかけるため診断書を偽造し、検視や司法解剖を経ずに火葬することに成功したという。まさに「遺体なき殺人」が明るみに出た格好だが、ご承知の通り山本・大久保の両被告は、昨年7月に別の事件における嘱託殺人罪で逮捕、起訴されている。

 社会部記者によれば、

「一昨年の11月、両被告は難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断された女性患者から殺してほしいと依頼を受け、130万円を振り込ませた後、京都市内の患者宅で薬物を投与して死に至らしめたのです」

 世間では、安楽死の是非や医師の倫理観を問う事件として論争が起きたが、「父殺し」に手を染めていたとなれば、医師として人の命に真剣に向き合ってきたとは言えないだろう。

 未だ両被告は犯行動機や殺害状況を仔細には語っておらず、具体的な事件現場の様子も漏れ伝わってこない。一方で、捜査当局は早くから「父親の不審死」に関心を持ち、山本親子の周辺を捜査していたことが窺えるのだ。実は昨年8月、嘱託殺人で両被告が起訴されてから僅か4日後に、府警は父親が死んだマンションの管理会社に捜査を申し入れていたのである。

「殺害現場は、東京・江戸川区にあるマンスリーマンションの一室でした」

 と明かすのは、さる捜査関係者だ。

「今回、3人が逮捕された決め手となったのは、彼らが靖さん殺害の謀議の証拠になるメールのやり取りをしていたことに加え、母親の供述が大きい。彼女は息子が点滴を使って靖さんを殺害する場面を見ていたと証言しているそうです。現場となった部屋は、1カ月だけの契約で借りられていますから、最初から殺害目的だったのでしょう。入居予定日だった3月4日の翌日に、靖さんは殺されていますからね」

 精神疾患を患っていた靖さんは、もともと長野県内の風光明媚な場所に建つ高原病院に入院していた。食事を口にできなくなったため、主治医が栄養を胃にチューブで直接送る「胃瘻(いろう)」の処置を取ろうとしたところ、山本被告は「長生きさせてどうする」と拒否。靖さんを退院させたその日に、殺害に至ったというのだ。

「事件前に山本被告が母親と交わしたメールでは、体の自由が利かない父親のことを“周囲を不幸にする”と書き、疎(うと)ましい存在として捉えていたようです」(同)

 長野で闘病を余儀なくされた靖さんだったが、元気な頃は避暑地として名高い軽井沢で余生を過ごすことを楽しみにしていた。ちなみに淳子容疑者は夫を殺害後、数千万円は下らない高級リゾートマンションをキャッシュで購入したという。

 山本夫妻を知る地元住民はこう振り返る。

「軽井沢に移住してきたのは20年くらい前かな。靖さんは40年勤め上げた大和銀行を定年で辞め、夫婦で家賃6万円のアパートを足掛かりにして別荘を探すんだと言っていた。奥さんはちょっと自慢しいで“私は金持ちなのよ”という雰囲気を醸し出すタイプ。関西出身の人らしく“放(ほ)かすのもアレだから、欲しかったらあげるわ”と、ウェッジウッドのティーカップセットを4組くれました」

 山本被告が幼少期を過ごした奈良市内の実家に足を運ぶと、近隣住民からはこんな声が聞こえてきた。

「この辺りは大阪に本社を置く社長さんの家があるような高級住宅街。山本さんのお宅もかなりの豪邸だけど、奥さん方の一族の持ち家で、ご主人は再婚で婿入りの形で越してきた。それで生まれたのが逮捕された直樹くんだったね」

 裕福な家庭に育った山本被告は、関西の名門校・灘中学に進学。学校文集に寄せた作文(掲載の写真)では、自分の将来像をこう書いていた。

〈人の苦しみを取ってあげられるような人になりたいと思う〉

 これが本心だとすれば、この時はまだ真っ当な考えを持っていたことになる。


■「金が儲かるなら…」


 別の近隣住民に聞くと、

「お母さんは教育熱心で、ピアノ教室をやっていた。息子が他の子供と遊んでいても、“早く帰ってきなさい”と怒鳴ったりしていたね。子供も地元の小学校に通わせず、自宅学習させて小学校と揉めたという話も聞いたことがある。灘に入学した時点で年齢が一つ上、つまり小学校を留年した格好になっているんですよ」

 1年だけとはいえ、同級生に遅れをとったことで山本少年の心に鬱屈した何かが芽生えた可能性もある。

 灘中高で同級生だった男性に尋ねたところ、

「山本くんの第一印象はオドオドした子、というもので、オタク仲間とアニメなんかについて話す時は生き生きしていたけど、それ以外の時は気が弱い雰囲気でね。授業中に先生から当てられても、詰まることがよくあった。勉強面でも追いつけていない様子でした」

 灘高を卒業した後、東京医科歯科大学に入学した息子のためにと、一家は奈良の豪邸を引き払う。

「引っ越しの挨拶で、お母さんが“子供が東京の大学に進学するので一緒に行くことになりました”と言っていた」(実家の近隣住民)

 まさに息子と一蓮托生、夫を殺(あや)めるのも止められなかった母の溺愛ぶりが伝わる。そして上京後、山本被告は医学生の勉強会でもう一人の共犯者・大久保被告と知り合うのだ。結局、大学は卒業せず海外に留学。帰国後に医師免許を取得することになるが、中学時代の文集で描いた未来を自らの手で歪めてしまった。

 逮捕前に山本被告と仕事をしたことのある知人は、

「男性向けのED治療を専門とするクリニックを運営する傍ら、ヨウ素を原料にしたがん治療薬を製造する会社を立ち上げ、海外からの投資も募っていましたけどね。まともな医者なら相手にしない眉唾の代物で、金が儲かるならなんでもいいのかと……。都心のタワマンに住んでいるとか言ってましたが、倫理観のないヤツだと思いました」

 警察はさらなる余罪の有無も含めて捜査しているが、死を望まない父親を手にかけたとなれば、医師の立場で人の命を弄んだ罪を負うほかあるまい。

「週刊新潮」2021年5月27日号 掲載

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