意外と良かった「聖火リレー」 逆風のなか仕事をこなす人々に感動(中川淳一郎)

意外と良かった「聖火リレー」 逆風のなか仕事をこなす人々に感動(中川淳一郎)

イラスト・まんきつ

 とにかく批判殺到した五輪の聖火リレーですが、実際にこれを見ると感動するんですよ。東京五輪は、「コロナ感染拡大に一役買っている害悪イベント」という捉え方を常にされています。ついには開催反対デモも行われ、弁護士の宇都宮健児氏が立ち上げた五輪開催反対のネット署名が5日で30万筆を突破。水泳の池江璃花子選手にSNSで辞退を促す中傷が多数寄せられる事態にまでなりました。

「悪の象徴」として扱われがちな自民党と電通がかかわっているということが、五輪の不人気に一役買っている面もありますが、世論調査でも7割が中止か再延期を求めているという状態です。

 緊急事態宣言が出された際、対象地域のプロ野球などが無観客試合にさせられましたが、こうした時は「でも東京五輪はやるんですね(苦笑)」といったツッコミが入るのも定番です。

 さらに、聖火リレーについては、番組スポンサーの車のどんちゃん騒ぎの後ろに聖火ランナーがおまけのようについてくる、商業主義が過ぎる! との批判的論調の報道も出ました。

 私もそうした感覚を抱いていたため、冷めた目で聖火リレーを見に行ったのですが、感想としては「いいものを見た」というものでしかありません。私の会社員時代の同期が某社で聖火リレーの担当をしています。だからこそ彼を激励に佐賀県嬉野市まで行き、そしてこの日の最終地点である地元・唐津市でのセレモニーも見に行ったという事情があります。彼がいなかったら絶対見には行っていないでしょう。

 そんな人間ながらも「良かった!」と言えた理由はとにもかくにも「この人たち、4カ月もの長期間にわたり日本全国で人々に少しばかりの希望と娯楽を与えてくれている」という点にあります。

 不評だったスポンサーの隊列ですが、車の中のスタッフは笑顔で手を振り、パフォーマーも懸命の笑顔で踊りながら行進を続ける。宣伝目的なのにそんなものをありがたがるとはバカ過ぎる、という批判もあるでしょう。でも、暑い中マスクをつけて笑顔で手を振ってくる人には、同じく笑顔で手を振り返したくなるものなんですよ。

 私は野球のチアリーダーや遊園地のパレードにも笑顔で手を振ったことがありません。しかし、今回は「呪われた五輪」などという言われ方をしたこともあってか、そんな逆風の中仕事をこなすこの人たち、そして沿道のボランティアにも感動してしまったのです。

 暗くなってから、唐津のセレモニー会場(人数少なかったですよ〜)で、この日の最終聖火ランナーが聖火台に火を灯した後の山口祥義知事のスピーチも良かった。趣旨はこんな感じです。

「138年前の今日5月9日、唐津も一緒になって現在の佐賀県が誕生しました!」「1964年、東京五輪のアテネからの聖火は、当時空輸が困難だったが2人の佐賀出身者がこの偉業に貢献。そして今回のこのトーチ、佐賀出身の吉岡徳仁さんによるデザインです! 聖火リレーは佐賀のものなのです!」

 ちなみにスタッフに聞いたのですが、前回のリオ大会の聖火リレーでチーム内恋愛が続出して風紀が乱れたことから、チーム内恋愛は禁止だそうです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2021年5月27日号 掲載

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