「虎ノ門ヒルズ駅」開業から1年 駅そばを食べられても増えない乗降客

「虎ノ門ヒルズ駅」開業から1年 駅そばを食べられても増えない乗降客

虎ノ門ヒルズ駅のA1出口。いかにも仮設という雰囲気が漂う

 昨年6月6日、東京メトロ日比谷線の神谷町駅―霞ケ関駅間に虎ノ門ヒルズ駅が開業した。

 虎ノ門ヒルズ駅は、その名前が示すように虎ノ門ヒルズと直結する駅として建設された。同駅と銀座線の虎ノ門駅とは約400m離れているが、東京メトロは同じ駅として扱う。虎ノ門駅と虎ノ門ヒルズ駅の連絡には、いったん改札の外に出なければならない。それでも同一駅として扱われるため、同じきっぷのままで乗り換えができる。もちろん、運賃も通算距離で算出される。

 それまで東京メトロは改札外乗り換えを30分までと制限していたが、虎ノ門ヒルズ駅開業と同日から適用時間を60分へと拡大。虎ノ門駅と虎ノ門ヒルズ駅の場合、400メートルを移動する所要時間も考慮すると30分の改札外乗り換えはコンビニに寄り道して買い物するぐらいの時間しかない。しかし、60分なら駅ソバを食べられる余裕ぐらいは生まれる。

 改札外乗り換えの時間を60分に延長したことで、周辺の飲食店などへの経済効果も期待された。しかし、コロナ禍はその後も収束することなく、むしろ深刻さを増した。引き続きステイホームやリモートワークが推奨されたこともあり、通常なら多くのビジネスマンや買い物客などでにぎわう虎ノ門ヒルズ周辺は閑散としたままになっている。

 その後も飲食店や宿泊施設は営業に制限が課せられ、苦しい経営のままだ。当然、それは虎ノ門ヒルズ駅の利用状況にも影響を及ぼす。

「虎ノ門ヒルズ駅の想定乗降人員は、虎ノ門地域の再開発の進展を見ながら精査しています。当初の試算では将来的に約8万人との想定をしていました」と話すのは、東京メトロ広報部の担当者だ。しかし、2021年3月における一日平均乗降人員は約2万6000人にとどまる。

 虎ノ門ヒルズ駅は期待を一身に背負って開業した。これは仮開業という位置付けで、本開業は2023年内を予定している。

 約8万人という数字は本開業後を見据えた想定だが、それでも3分の1にも届かない。コロナの影響が、いかに鉄道事業者に大きな影を落としているかがわかるだろう。

 コロナの感染拡大を受けて、昨年4月には初めてとなる緊急期待宣言が発出された。5月末に解除された解除されたものの、その後もコロナ禍は収束せず、それから1年が経過しても鉄道利用者は下げ止まったままだ。

 東京メトロのみならず鉄道事業者の多くは、ここまでコロナ禍が長引くとは考えていなかっただろう。

 仮にコロナ後に通勤・通学利用者が以前と同じ水準に戻ったとしても、観光客をはじめとする定期外利用者が戻ってくるには時間がかかる。まして、コロナ前は多くの訪日外国人観光客が需要を創出していた。訪日外国人観光客が戻ってくるのは、さらにその後だ。かなり時間を要する。

 当分、鉄道業界は逆風が続く。そんな中にあっても、虎ノ門ヒルズ駅では本開業に向けて粛々と工事が進む。

 現在、虎ノ門ヒルズ駅は地下1階のホームに改札があり、そこから地上へ出るという動線になっている。2023年の本開業後は地下2階に改札とコンコースが移り、新たに駅前広場が誕生する。そして、地下鉄のコンコースから新たに誕生する駅前広場へと動線が変更される予定だ。

 虎ノ門ヒルズ駅の開業と同時に改札外乗り換えの時間が60分へと拡大されたことは先述したが、ほかにも虎ノ門ヒルズの駅の開業と同時に東京メトロは東武鉄道伊勢崎線と日比谷線を直通運転する座席指定列車THライナーの運行を開始するなど、昨年6月6日は東京メトロにとって大きな節目でもあった。

 東京メトロはこれまでにも千代田線を走る特急ロマンスカーや有楽町線・副都心線を走るS-TRAINなど、乗車券のほかにも料金を必要とする列車を運行してきた。THライナーも乗車券だけではなく、乗車区間に応じた座席指定料金を別途必要とする列車として運行される。

 満を持して登場したTHライナーだが、くだりTHライナーは隣の霞ケ関駅が発駅。虎ノ門ヒルズ駅は停車どころか通ることさえない。

 一方、埼玉県の久喜駅を発駅とするのぼりTHライナーは虎ノ門ヒルズ駅にも停車し、恵比寿駅まで走る。

 虎ノ門ヒルズ駅は地元の港区や虎ノ門ヒルズを建設・運営する森ビルの期待を一身に背負って開業した。それだけに、くだりTHライナーの運行区間を拡大するなど虎ノ門ヒルズ駅に停車させるダイヤへと変更させることも考えられるが、「そういった検討は、社内ではありません」(東京メトロ広報部)という。

 虎ノ門は森ビル創業の地。そうしたゆえんから、森ビルは虎ノ門ヒルズに並々ならぬ熱意を注ぎ込んできた。関係者たちから話を聞くと、社内ではプロジェクトの失敗は許されない空気が強いという。それだけに、虎ノ門ヒルズの命運を握る東京メトロの動きは気になるところだろう。

 これまで鉄道事業者の敵は、人口減少といわれてきた。鉄道事業者にとって人口減少は悩ましい課題だが、それ以上にコロナ禍が鉄道事業者を蝕む。

 新型コロナウイルスの感染拡大が続いていた開業当時、東京メトロは開業式などの催しを見送っている。また、事前の報道公開に関しても参加できる社を絞り、密にならない対策を講じた。そうした影響もあり、虎ノ門ヒルズ駅の一年は話題性に乏しく盛り上がりを欠いた。

 2年目を迎える虎ノ門ヒルズ駅は、果たしてコロナ禍に打ち克つことができるのか? 巻き返しが期待される。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮取材班編集

2021年6月11日 掲載

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