24年間で12億円を詐取した長崎の元郵便局長 家4軒に車21台…“地元の名士”の手口

24年間で12億円を詐取した長崎の元郵便局長 家4軒に車21台…“地元の名士”の手口

顧客より2019年4月から長期にわたって総額12億円もの現金をだまし取ったとして逮捕された長崎住吉郵便局の元局長の上田純一容疑者が浦上署を出るところ(2021年6月16日)

 長崎住吉郵便局の元局長・上田純一容疑者(68)が架空の郵便預金で逮捕されたのは6月14日のこと。じつに24年間に亘り62人から総額約12億円を騙し取った容疑である。しかも被害者の内訳は、知人が35人、親族18人、顧客9人。上田容疑者の手口とは――。

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 逮捕容疑は今年1月25日、長崎市内の会社役員に高金利の貯金があると勧誘し、1300万円を騙し取った疑いだ。舞台になったのは、上田容疑者が局長を務めていた長崎住吉郵便局だった。同局は全国に約1万9000局ある「旧特定郵便局」のひとつ。特定郵便局長には転勤がなく、世襲で後任が選ばれることが多いため、しばしばコンプライアンス(法令順守)絡みの問題が起きてきた。

 昨年12月、上田容疑者から貯金の勧誘を受けた顧客が日本郵便に相談したことで問題が発覚した。その後、日本郵便は社内調査を行い、上田容疑者から勧誘を受けた知人らから事情聴取。さらに今年1月26日には、調査を行っていることを本人に伝えたという。周囲に「もうだめだ」と漏らしていたという上田容疑者は、この翌日に大村署に自首した。


■住宅4件に新車1台…の使い道


 上田容疑者は、1975(昭和50)年に長崎市の長崎中央郵便局に採用された後、市内各地の郵便局勤務を経て1996(平成8)年に長崎住吉郵便局の局長に就任した。父の跡を継いでの“世襲”だった。

 局長になるとすぐ詐欺行為を始めた。96年の11月には「利率の良い特別の預金がある」と持ち掛け、以来、24年間3カ月に渡って62人から約12億4331万円を騙し取ったのである。詐欺件数は168にも及ぶ。

 19年3月に定年退職すると、息子に局長を世襲させた。もっとも、定年後も郵便局内の応接室を使って詐欺行為は続けたという。経済的には余裕があるはずなのに、なぜ詐欺を行ったのか。日本郵便九州支社の広報担当者は、その使い道を次のように明かす。

「一戸建て住宅を4軒、アパート1棟、土地などで1億3763万円。さらにゴルフや飲食代が7176万円、自家用車21台(うち新車16台)で5932万円。被害者に元金や利子として約2億7000万円を払っていました。よって実損額は約9億7000万円となりますが、残る約7億円がどうなっているのか、詳細は明らかになっていません。実損分は、当社ですべて補償し、その後、元局長に請求することになっています」

 2009年には大村湾沿いに別荘も購入している上村容疑者。日本郵便はすでに上田容疑者から債務承認書を取得しており、今後、弁護士と相談して回収するという。

 が、上田容疑者の自宅やアパートの土地や建物の謄本を見ると、名義は上田容疑者本人ではなく、家族名義。いずれ悪事が発覚した時のことを考え、自分の名義にしていなかったということなのか。


■知人は「まさか」


 上田容疑者が詐欺に用いたのは、1993年に廃止された金融商品『MMC預金(市場金利連動型定期預金)』の証書だという。総務主任として勤務していた長崎市内の別の局から大量のMMC預金の証書を不正に持ち出し、自宅に保管。被害者にはこの証書や証書のコピーを手渡していたという。

 とはいえ、なぜ60人もが騙されたのだろうか。

「昨年、詐欺事件として大きく報じられた第一生命の89歳のセールスレディの手口と非常に似ていますね」

 と語るのは、詐欺事件に詳しいジャーナリストの多田文明氏。

「特定郵便局長というのは地元の名士ですから、みんなから信頼されて、おかしいと思っても口がだせない。チェック機能が働かないのです。上田容疑者は幅広い人脈があり、ロータリークラブの会員にもなっていて、その会員からも詐取しています。ゴルフ仲間や親類も巻き込んでいますが、誰かがおかしいと思っても、みんながやっているから大丈夫かな、という群集心理が働いたのでしょう。それで延々と詐取することができたのです。世襲という環境も犯罪を産む温床となったでしょう」

 実際、上田容疑者の知人はこう語る。

「とにかく、驚きましたね。24年間も騙し通していたなんて信じられません。彼の父親は地元のみんなから尊敬を受けていましたから。郵便局に行くと、局長から『中へあがれ』と言われて、よく世間話をしたものです。彼の娘さんの進学相談に乗ってあげたこともあります。彼の息子さんの結婚式にも参加しました。私には、架空預金の話は一切しなかったのですが……。もっとも彼は父親と違って、名士という感じではなかったですけどね」

 上田容疑者は長崎新聞(2006年11月5日付)の「郵便局のある風景」に登場している。以下はその抜粋である。

《地域の方から地元行事への参加の誘いがあると、「地域に溶け込んでいる」と実感します。「地域に根差した仕事をする」。この基本理念は、民営化されても守っていかなければと思います。》

 まさに“地域に根差し”、コトを行っていたわけだ。

デイリー新潮取材班

2021年6月24日 掲載

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