東芝、前代未聞の「再任否決」 逃げの経産省と腹を括らない政治家の罪

東芝、前代未聞の「再任否決」 逃げの経産省と腹を括らない政治家の罪

東芝の株主総会で、再任が否決された永山治取締役会議長

■フタを開けるまでわからなかった


 6月25日に開かれた東芝の定時株主総会で異変が起きた。大手新聞のデスクが解説する。

「会社側が提案していた11人の取締役候補者のうち2人の再任が株主の反対多数で否決されたのです。会社側提案役員が選任されなかったのは、日本を代表する大手企業ではほとんど前例がありません」

 否決されたのは取締役会議長の永山治氏(元中外製薬社長)と監査委員会委員の小林伸行氏の2人の社外取締役である。不正行為に手を染めたわけではない社外取締役がなぜ再任拒否の憂き目に遭ったのだろうか。

「永山さんは最終的には車谷暢昭前社長を辞任に追い込むなど事態収拾に尽力したものの、株主を欺いた車谷氏らの暴走を止められませんでした。社外取締役としての監督が不十分だったと株主に判断されたのです」

 3月31日時点での東芝の株主構成は、東芝の公表資料によると「外国法人等」が50.44%、「金融機関」が24.14%、「個人・その他」が20.50%で、外国ファンドなどが過半数を保有していた。

「議決権行使助言会社が永山氏の再任に反対することを推奨していましたが、国内機関投資家などが会社側提案に賛成すれば、ギリギリ再任されるのではないかとも言われていました。当日、フタを開けてみるまではわからない感じでしたね。

 いずれ情報開示されますが、第一生命保険や日本生命といった日本の機関投資家も賛成票を投じるわけにはいかなかったのではないか。それに個人投資家も同調し、決定打になったと見られます」


■報告書のM氏


 そもそも東芝に何が起きたのか。話は、昨年7月31日に開かれた株主総会に遡る。

「株主総会に向けて事前に郵送された議決権行使書のうち約1139通、議決権比率にして1.3%相当分が無効扱いになっていたことが判明したのです。会社側は議決には影響がなかったとしたのですが、納得しない投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントが『独立した調査』を求める株主提案を臨時株主総会に提出、今年3月18日にそれが可決された。そして6月10日にその報告書が公表されたのです」

 報告書には驚くべき事が書かれていた。東芝をウォッチし続けているジャーナリストが語る。

「もともとエフィッシモは昨年の総会に社外取締役の選任などを株主提案していましたが、その可決阻止のために車谷社長ら会社側と経済産業省が共闘をしていた事が明らかになりました。報告書ではM氏となっていますが、当時、経産省の参与だった水野弘道氏が米ハーバード大学の基金運用ファンドに圧力をかけ、結局、ハーバード大は議決権行使を見送りました。この状況は当時官房長官だった菅義偉首相にも報告されていた、と報告書に記されています。もちろん、水野氏も菅首相も否定していますが」

 報告書で、事細かに経産省と東芝との「共闘関係」が明かされたことで、経産省内は大騒ぎになった。もっとも、梶山弘志経済産業大臣は6月15日の記者会見で、

「国の安全の確保や、それに欠かせない事業や技術の発達という大前提が損なわれる恐れがある場合には、当然にそれに関係する個別企業への対応を行うこともある」

 と、経産省の対応に問題はなかったとの認識を示した。だが、経産省の東芝に対する過度の肩入れについて、経産省内にも問題視する声がある。同省の中堅幹部が憤る。

「経産省は産業政策として特定の業界を支援することはありますが、特定の企業を支えるのはやり過ぎです。昨年5月、経産省が主導して外国資本による重要企業への投資を厳格に監視する外国為替管理法の改正を行い、海外からの投資に対する規制を強化しましたが、その背景にも東芝を外資から守るという狙いがあったのは明らかです」


■根本問題は原子力政策


 前出のジャーナリストも東芝と経産省の行き過ぎた関係を指摘する。

「車谷社長は三井住友銀行時代に政府との関係を築き、経産省と共に東日本大震災で事故を起こした東京電力を破綻処理せずに国が支える道筋を作った人です。その車谷氏が東芝の社長に就任して以来、経産省と東芝の二人三脚は強まっていました。報告書については、官邸、経産省、水野氏ともども、内容を否定していますが、まさに政官業の癒着が露呈したという声が出るのも当然でしょう」

 今後、東芝はどうなるのか。

「まだひと悶着あるはずです。永山氏が再任を拒否され、本来は社外取締役が務めるべき議長に、社内出身の綱川智社長兼CEO(最高経営責任者)が就任しました。彼は議事運営の主導権を握ろうとするでしょう。しかし、注目すべきは次のトップや取締役候補などを決める指名委員会の委員5人のうち過半数の3人が、投資ファンドと東芝が合意した外国籍の取締役が占め、委員長にも投資ファンド出身のレイモンド・ゼイジ氏が就いたことです。今後、投資ファンド側の意向を汲み、人事などを通じて東芝の運営が行われることになりそうです」

 さて、追い詰められた経産省はどんな手を打ってくるのか。前出の経産省幹部は言う。

「日本の原子力政策をどうするのか、政治も役所も決められないことに根本問題があります。原子力技術を国として守りたいならば、東芝という会社を守るのではなく、原子力や原発事業を切り離して国営化するなど抜本的な見直し策が必要ではないでしょうか。東日本大震災の東電福島第一原発事故以来、世論を恐れて思考停止になって何も決められない自民党の政治家に最大の責任があると思いますね」

 独立した弁護士による報告書が出ても、梶山大臣は「根拠が必ずしも明らかでない」などとその内容を疑問視する発言をしている。一方で、事実関係の再調査は否定するなど、「逃げ」の姿勢に徹しているのも事実だ。政治家が腹を括らない中で、東芝とこの国の原子力事業はどこへ向かうのか。

デイリー新潮取材班

2021年6月28日 掲載

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