シングルマザー、LGBTQ+、臨床心理士の僧侶もいる 相談急増中「オンライン僧侶クリニック」って何?

シングルマザー、LGBTQ+、臨床心理士の僧侶もいる 相談急増中「オンライン僧侶クリニック」って何?

僧侶クリニックで利用者の相談にこたえる尼僧の尾田嵩月さん。相談者も女性の方がほとんどだという

■宗教活動や仏教イベントは行わない


 サイトには「そうだ、ぶっちゃけよう」というキャッチフレーズとともに、お坊さんたちの柔和なお顔が並ぶ。「オンライン僧侶クリニック」では、全国各宗派のお坊さんに、オンラインで誰にも言えない悩みや想いを聞いてもらうことができるのだという。コロナ禍で不安やストレスを抱える人が増える中、サービスを利用する人も増加中だ。サイト開設の経緯を、株式会社和空プロジェクトの専務取締役・田代忍さんに聞いた。

「弊社は、もともと2014年に立ち上げた(一社)全国寺社観光協会の事業で、宿坊のポータルサイト『テラハク』を運営しており、その一環で2020年9月、僧侶クリニックの前身である『オンライン坊主BAR』を始めました。今の時代、寺の利用は法要のみで、普段はあまり馴染みがありません。昔は、『駆け込み寺』という言葉もあったように、困ったことがあれば地域の人々が気軽に訪れるところでした。ですから、まずは“BAR”という言葉を使って、もっとお寺に足を運んでほしい、お坊さんを一般の方にも身近に感じてほしいと、サイトの運用を考えたのです。しかし、ちょうどコロナの感染拡大が問題になり、自分の悩みを真剣にお坊さんに相談したいという利用者が多くなったので、坊主BARというポップなネーミングを変更して、今年4月、『僧侶クリニック』にリニューアルしました」

 リニューアル後は、相談できるお坊さんの数も坊主BAR時代の8人から32人に増えた。尼僧やシングルマザー、LGBTQ+、臨床心理士の資格を持つ僧侶と多彩な顔触れが揃う。利用方法は簡単で、紹介文や写真を参考に相談したいお坊さんを決め、日時をチェックしてオンラインチケットを購入、当日は事前にメールで届くURLをクリックすれば、希望のお坊さんにアクセスできる。相談料は30分3300円〜(税込)で、10分(1100円)ごとに延長可能だ。ただし、サイト名に「僧侶」とあるものの、宗教活動や仏教イベントは行わない。

「相談されたことに対して、お坊さんが仏教を通して培った経験をもとにアドバイスすることはあっても、『勧誘』などは一切しません。サイトに参加していただいているお坊さんには必ずお会いして、こちらの主旨を理解いただいています」


■社会の縮図を……


 実際、「僧侶クリニック」に参加している尾田嵩月さん(おだ・こうげつ、岡山県・高野山真言宗 大師教会 慈光月灯り支部)はこう話す。

「実は、いろいろなアプリやサイトの運営者から、悩み相談や鑑定などで参加してもらえないかというメールはよくいただきます。僧侶クリニックさんは他とは異なり、岡山の寺坊まで直接来てくださって、強い熱意を感じました。私自身、皆さんの心に溜まった澱を取り除くような、僧侶としての本分をまだまだ果たせていないのでは、という気持ちがあり、参加させていただくことにしました」

 尾田さんは1979年生まれ。尼僧でもあり、主婦、2児の母でもある。幼少時はアル中の母と祖母の3人暮らしで、「明日食べる米がないことはしょっちゅうで、電気を止められて暗闇の中で過ごすこともあった」(尾田さん)という極貧家庭で育った。

「今振り返れば、母は発達障害のようなものがあったのかもしれません。祖母はそんな母に翻弄されながらも私を育ててくれました。しかし、祖母も亡くなり、私は中学を卒業後、高校には進学できずに働かなくてはなりませんでした。自分で稼ぐようになってからも、お金の正しい使い方を教えてもらっていないので、あればあるだけ使ってしまうという時期もあった。家庭は自分が属する最小の社会です。そこでの金銭面の問題やこじれた人間関係から、様々な苦労が雪だるま式に膨れ上がることを、私自身経験しています。そして、本来、手を差し伸べてくれるはずの行政に、厳しい対応を取られてしまうことも……。

 コロナ禍ということもあり、寄せられる相談には、貧困絡みのものが増えています。最近話題になっている『生理の貧困』への悩みも顕著で、生理用品を買うことができない、親は金銭的に余裕があるはずなのに買ってもらえないという相談もありました。ニュースで報道される問題が、相談内容にもダイレクトに反映されていて、お話に耳を傾けていると、社会の縮図を見ているかのような気持ちになります」


■相談では解決できないことも


 尾田さんが尼僧ということもあってか、相談者は40〜50代の女性が多く、内容の大半は子育て、介護、夫婦関係など実生活に即したものだという。

「私が様々な経験をしているので、相談者の人と同じ目線に立ち、仏教的観点から少しでも人生を楽に生きることができるようになる方法を教えてあげる、肩の荷をポンと下ろしてあげることができればいいなと思っています。

 ただ、やはり私への相談だけでは解決できない問題もあります。貧困の問題の場合、私は相談者が何に困っているのか、細かいところにも気が付くことはできますが、低所得者への給付金や支援金は、結局、行政に助けてもらうしかありません。相談は全国から来るので、各自治体の状況がわからなかったり、お役所の人に過度に問い詰めるような言い方をされて不信感を持っている相談者の方もいたりして、歯がゆい思いをすることもあります。また夫婦間のDVといった深刻なケースは、私に話すよりも、弁護士さんに相談するべきですよ、と伝えることもあります」


■忘れてくれてもかまわない


 それでも尾田さんは、「悩みに悩んでいる人は、“今”聞いてほしい、“今”何とかしてほしいと思っているのだから、誰でも僧侶クリニックを利用してほしい」と話す。

「特に思春期の子どもたちに利用してほしいです。親に言えない、親の耳に入れたくない悩みを私も持っていました。でも、もし学校や友達に話したら、それが親に伝わってしまうかもしれないという恐怖もあって、誰にも相談することができませんでした。行政の福祉課や福祉施設などはハードルが高いような気がすることもあるでしょう。そんなときに、思い出して相談できる人は必要ではないかと思っています。悩み事を話して気が楽になってくれたら、私のことを忘れてくれてもかまいません」

 運営側も、こうしたお坊さんの意見を聞いて、サイトを少しずつ改善しているという。先の田代さんが言う。

「サイトへのアクセスは多いのに、そこから一歩踏み込んで、相談するところまでいかない人がいることを考えると、我々の方にまだまだ改善すべき点があるのかもしれません。尾田さんが『今、話を聞いてほしいという人がいる』とお話されていましたが、すぐにでも相談したいという方のために、予約なしで相談できるようにしようとか、オンラインで顔を合わせて話すのもハードルが高いと感じる方のために、メールやチャットを使えるようにしようとか……そうしたことが必要なのかも」

「僧侶クリニック」としてリニューアルした4月以降、すでに200名弱が利用している。うち、女性の利用は64%で、20%がリピーターだ。現在も多種多様なお坊さんが参加しているが、9月には50名のお坊さんが揃う予定だ。

デイリー新潮取材班

2021年7月2日 掲載

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