〈新型コロナ〉“飲んではいけない鎮痛薬”? 真偽を薬剤師が解説

■SNSでの真偽不明の情報に注意


 あの市販薬は新型コロナの症状を悪化させる。絶対、飲んではいけない――そんなネット記事やSNS投稿を見たことがあるはずだ。

 しかし、『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)の著者で薬剤師の久里建人氏によると、誤解や曲解が多く、不必要な混乱が起きているという。

「市販薬に関するネット情報はきわめて断片的で、しばしば不正確です。本当かな? と思ったら、ぜひドラッグストアの薬剤師に聞いてみてほしい」と語っている。

 医学・医薬品に関するネット情報は玉石混交がはなはだしく、コロナ禍がはじまって以来、SNS上でさまざまなセンセーショナルな情報が飛び交った。以下、フランス発で日本にまで影響を及ぼした騒動について紹介しよう(同書から抜粋・編集)


■フランス発のツイートから日本でも品切れに


〈2020年3月、フランスの厚労大臣が衝撃的なツイートをしました。【ロキソプロフェン】や【イブプロフェン】などの「エヌセイズ(NSAIDs)」と呼ばれる解熱鎮痛成分が「新型コロナウイルスの感染症状を悪化させるかもしれないので、飲まないように」と呼びかけたのです。このツイートは日本のメディアでも紹介され、エヌセイズとは別の解熱鎮痛成分【アセトアミノフェン】が注目されるようになりました。ドラッグストアにはアセトアミノフェンの代表的商品「タイレノールA」を買い求めるお客さんが続々と訪れ、たちまち品切れになりました。〉

 エヌセイズは非ステロイド性抗炎症薬の成分で、「ロキソニンS」や「イブ」などの市販薬にも使われている。一方、アセトアミノフェンは、処方薬ではカロナール、市販薬では「タイレノールA」など多くの商品に配合されているものだ。

〈ところがこの時、「タイレノールA」以外の同じ成分の商品は、在庫があるのにもかかわらず見向きもされませんでした。なぜでしょうか? 「タイレノールA」はアセトアミノフェンのナンバーワンブランドです。それに対して、他社の商品やドラッグストアのPB(プライベートブランド)商品は認知度が低いため、ネット上で紹介される機会が少なかったのです。

「タイレノール」が一瞬にして棚から消えるという異常事態が発生した当時、私は複数のドラッグストアを見て回りましたが、どこのお店も「タイレノールA」はないのに、同成分の他商品は余っているという状態でした。もし、お客さんが店員に一言「同じ成分の商品はありますか?」と聞いていれば、欲しい薬が買えたかもしれません。〉

 フランスの厚労大臣による発信とあって、鵜呑みにする人が多かったのは当然だろう。

 ここには市販薬特有の問題がある。市販薬は、患者自身が店頭で選ぶため、成分より商品の知名度が決め手になりやすい。結果、まったく同じ成分の商品があるのに特定の商品だけが売り切れ、お客さんがパニックに陥ってしまうのだ。

〈2020年5月頃のツイッターでは、日本の市販薬に多いエヌセイズのひとつ【イブプロフェン】が「コロナ」のキーワードとともに数多くつぶやかれていました。また、「生理痛が辛いのでロキソニンを飲みたいけど、コロナには危険だから避けている」というツイートもありました。

 実際私も、生理痛のためロキソニンを購入する女性から「コロナには飲まないほうがいいって聞いたんですけど、飲んでも大丈夫ですか?」と聞かれました。フランスの情報に接して、エヌセイズのひとつである【ロキソプロフェン】や【イブプロフェン】を避けようとする人もいたのでしょう。ただ、フランスの市販薬事情や各国の公的情報を総合すれば、エヌセイズの危険度はかなり限定的であると考えられます。少なくとも、健康な人が生理痛に使うのであれば、パニックになるような状態ではありませんでした。〉

 この騒動の後、WHOは「エヌセイズの使用によって新型コロナ感染症状が悪化するという根拠はない」と説明している。先月23日には、厚労省もウェブサイト「新型コロナワクチンQ&A」で、ワクチン接種後の発熱や痛みにエヌセイズが使用できると記した。


■不安心理がデマを呼ぶ


 一度SNSで拡散されるや、不正確な情報は、大衆の不安心理をはらんでさらに増幅され、デマや陰謀論にすり替わってしまうことも珍しくない。

 では、こうした事態を防ぐには、どうしたらいいのか。久里氏は、店頭で薬剤師に相談することの重要性を繰り返し説いている。

〈フランスの大臣がツイートした当時、ツイッターでフォロワー数10万以上のある著名人は「なぜ日本の厚労省はこのような指示を出さないのか。製薬業界への配慮なのか」とツイートしていました。薬の専門知識を持つ者であれば、「政府がエヌセイズの危険性を隠しているのは企業への配慮だ」などとは決して考えません。こうした憶測によるツイートを全て否定するつもりはありませんが、世間の猜疑心(さいぎしん)を掻(か)き立てない配慮も必要だと思います。

 ネット上の情報はたいてい断片的で、時には不正確なこともあります。薬剤師に聞けばなんでもわかる、などと大それたことは言えませんが、一言でも質問をすれば解けた誤解も、静まる不安もあったのです。〉

 近年、日本でも、薬局やドラッグストアは身近な健康相談を提供する方向へとシフトしている。薬剤師は、薬効だけでなく、飲み合わせ、副作用など幅広い相談に応じることができる、いわば薬のプロなのだ。市販薬を購入する際には、ネット情報やCM好感度より、まずは薬剤師に聞いてみる、それが重要なポイントになりそうだ。

デイリー新潮編集部

2021年7月7日 掲載

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