ブレイディみかこさんが「エンパシー」に注目する理由 「他者の靴を履いてみること」の重要性

■他者の靴を履いてみる


 英国在住のライター・コラムニストのブレイディみかこさんが7月8日にNHK「クローズアップ現代+」に出演し、話題となった。ブレイディさんが新著でテーマにしたエンパシーとは――。

 ***

 番組のテーマは「他者の靴を履いてみる 〜無意識の偏見を克服するヒント〜」。他者の靴を履く(自分以外の人の立場で想像する)ことが、ジェンダーや世代間のギャップ、多文化共生や経済格差など、現代社会のさまざまな課題を解決するヒントになるのではないかとして、「女性は気配りができる」「シニアは頭が固い」といった日常に存在する無意識の偏見をとりあげ、夫と妻、社長と平社員の間で立場を入れ替える(他者の靴を履いてみる)実験を行った。

『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』(文藝春秋)という著作を上梓したブレイディさんは、番組の冒頭で、なぜ「他者の靴を履く」という言葉に注目したのか尋ねられ、こう答えた。

「『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』という本を書いたときに、その本は中学校に通っている息子の日常を書いた本なのですが、その中に学校の試験の問題で「エンパシー」ということばの意味について書けというのが出て、うちの息子が「誰かの靴を履いてみること」って書いたというエピソードがあるんです。1冊の本の中の4ページぐらいしかない小さいエピソードなんですけど、あの本が出たときにすごくエンパシーということばに反応された方が多くて、もっとエンパシーについて知りたい、何か刺さったとおっしゃる方がすごく多かった」

■他者の靴を履いても「自分の人生を見失ってはいけない」


 エンパシーとは、自分と同じ意見や考えを持っていない相手に対しても、相手の立場になって想像してみる能力のこと。ブレイディさんがエンパシーを最初に紹介した本『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、公立中学校に通うことになったブレイディさんの息子が人種差別や性の問題、格差や貧困など多種多様な社会の複雑さと向き合い、家族とともに悩み乗り越えてゆく成長物語だ。本屋大賞|ノンフィクション本大賞など11の賞を受賞、60万部を突破するベストセラーとなり、今年6月には文庫版が発売されている。

 番組の後半で、相手の立場になってその人のことを想像してみる力が強すぎると逆に自分自身を苦しめてしまうものなのかと問われたブレイディさんは、こう答えた。

「エンパシーはやはり能力だけに、いつも使っている人はたけてきちゃうというか、育っちゃうんですよね。エンパシー能力が高いがゆえに、私が今やらないと、私もすごく大変だけどもっと大変な人がいるからと、自分自身を縛りつけて私は私の人生を生きているということを忘れちゃう。自分の靴を見失ってしまうっていうようなところもありますよね。これはエンパシーが持つ危険性の1つで、俗にエンパシー搾取されているとかエンパシーを搾取されているとか言いますけど」

 さらに、「どうしても分かり合えない、理解できない人の靴というのは履かないといけないのでしょうか」と問われたブレイディさんは、こう答えた。

「そうですね。今、分断の時代といわれていますので、非常に切実な問題かなと思いますけど、でも分からない人の靴だからこそ履いてみないと、どうして自分が分からないと思うような行動や発言が出てきているかって分からないですよね。そのバックグラウンドを知ることによって、もしかしたらうまく説得できるようになるかもしれないし、効果的にその人を変えることができるかもしれない。そういうことを拒否して、最初からもう靴を履かないって諦めてしまうと、石を投げ合うことにしかならないので、物事は何事も解決しないし、前に進まない状態になると思います」

 社会の多様化が進むほど、分断が生まれる可能性はある。そのような時代を生きていくうえで「エンパシー」が重要なことはもちろんだが、ときに自分の靴を改めて履き直すことも必要だろう。

2021年7月12日 掲載

関連記事(外部サイト)