禁錮7年求刑の飯塚幸三被告 メダリスト・内柴正人氏と同じ“勲章没収”の屈辱

【池袋暴走事故】金メダリスト内柴正人氏は紫綬褒章を褫奪 飯塚被告の勲章も没収か

記事まとめ

  • 飯塚幸三被告の裁判は、7月15日、東京地検が禁錮7年を求刑して結審した
  • 「求刑が軽い」と憤る声も多く、SNSでは飯塚被告の勲章めぐるデマ情報も拡散された
  • 飯塚被告は瑞宝重光章を受勲しているが、"没収"する可能性は高いと記事では述べている

禁錮7年求刑の飯塚幸三被告 メダリスト・内柴正人氏と同じ“勲章没収”の屈辱

禁錮7年求刑の飯塚幸三被告 メダリスト・内柴正人氏と同じ“勲章没収”の屈辱

飯塚幸三被告

■没収の手順!?


 毎日新聞(電子版)は7月15日、「池袋暴走事故 飯塚被告に禁錮7年を求刑 東京地検」の記事を配信した。

 ***

 記事はYAHOO!ニュースのトピックスにも転載されたのだが、そのコメント欄に法曹家が相次いでコメントを投稿し、これも話題になった。

 まず事故を振り返ると、2019年4月、東京・池袋で乗用車「プリウス」が暴走。当時31歳の主婦と、3歳の長女がはねられて死亡、通行人ら9人が負傷した。

 自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)の裁判は東京地裁で開かれた。

 飯塚被告は最後まで「アクセルとブレーキを踏み間違えた事実はない」と無罪を主張。東京地検は7月15日、禁錮7年を求刑して裁判は結審した。判決は9月2日に言い渡される。

 ちなみに「禁錮」と「懲役」の違いだが、どちらも刑務所などの刑事施設に収監されるのは同じだ。

 違う点は、所定の作業を行う必要のない刑が「禁錮」、作業に従事しなければならないのが「懲役」になる。

 この求刑に、YAHOO!ニュースのコメント欄では、3人の弁護士と1人の検事経験者が投稿。4人のうち3人が「求刑は軽すぎる」と指摘したのだ。極めて珍しいと言えるだろう。


■弁護士と元検事のコメント


 3人のコメントをご紹介しよう。最初は大阪弁護士会に所属し、ABCテレビやTBSの番組でレギュラー出演の経験を持つ山岸久朗弁護士だ。

《か…軽い…それが率直な印象です。2人の無辜の生命が奪われた重大な結果や、公判における被告人の不合理な弁解を斟酌すると軽すぎるというのが国民の大多数の感想では…?》

 2人目は、佐藤みのり弁護士。神奈川弁護士会に所属し、いじめや児童虐待など、子供を守る活動でも知られる。

《二人の尊い命が奪われたことを思うと、法律上の上限とはいえ、禁錮7年の求刑を軽いと思うのが国民感情でしょう》

 最後は元検事の前田恒彦氏だ。前田氏は2019年、大阪地検特捜部の主任検事だった際に証拠の改ざんを行った。検察に逮捕、起訴され、懲役1年6か月の有罪判決が確定、刑務所に収監された。

 前田氏は《ヤフーニュースの公式コメンテーターで法律の専門家である弁護士2人がそろって「軽い」とコメント》したことを指摘。その上で、《筆者も軽いとは思う》と綴った。


■Twitterのデマ


 SNSに詳しいライターが言う。

「飯塚被告に対する求刑が軽いという指摘は、Twitter上でも議論を呼びました。『軽すぎる』と憤るツイートは相当な数に達しましたが、『7年は自動車運転処罰法違反の上限であるのも事実』と理解を示す投稿も拮抗していたと思います。ちなみに前田氏は7年が上限であることは認めつつ、『禁錮ではなく、懲役を求刑すべきだった』と指摘しています」

 前田氏は懲役刑を求刑すべきとした理由の1つとして、「刑期を問わず勲章も必ず剥奪される」ことを挙げた。

 実は飯塚被告には勲章が授与されており、それがネット上の議論に大きな影響を与えているのだ。議論の過熱もあり、Twitterでは勲章に関するデマ情報も拡散した。

「『検察側が懲役刑ではなく禁固刑を求刑したのは、飯塚被告の勲章が剥奪されないよう配慮したため』というツイートが拡散しました。これは完全なデマです。明治時代に制定された『勲章褫奪例(くんしょうちだつれい)』には、『死刑、懲役又ハ無期若ハ三年以上ノ禁錮』が確定した場合は勲章を剥奪すると明記してあります。求刑の禁錮7年が最高裁で確定すれば、勲章は剥奪されます」(同・記者)


■最初に動くのは検察庁


 2015年11月、新聞各紙は「秋の叙勲」に関する記事を掲載した。その「瑞宝重光章」受賞者リストに《飯塚幸三(元工業技術院長)84》と記載されているのが分かる。

「叙勲には『旭日章』と『瑞宝章』があります。前者は政治家や民間人、後者は公務員が対象です。例えば『旭日大綬章』は元大臣などが対象で、天皇陛下が授与されます。『瑞宝章』は上位の『瑞宝大綬章』があり、その下が『瑞宝重光章』です。飯塚被告に授与された『瑞宝重光章』のリストを見ると、対象者は各省庁の次官、高裁の判事や検事、大使などの経験者だと分かります」(同・記者)

 内閣府の賞勲局に取材を依頼し、どういう手順で、勲章の剥奪=褫奪(ちだつ)が行われるのか訊いた。

「刑事被告人に叙勲されたことがあるかどうかは、検察庁が把握します。有罪判決が確定し、褫奪に必要な条件が満たされると、判決謄本などが送られてきます。我々も目を通し、間違いがなければ、官報に掲載します。こちらの作業は特に難しいことはありません。それより大変なのは、勲章を没収する作業のほうです」

 一体、誰が没収するのかと言えば、実は特に決まりがないのだという。そもそも剥奪自体が非常に珍しいからだ。


■金メダリストが“前例”


 アテネと北京のオリンピックで、柔道の金メダリストになった内柴正人氏(43)は、紫綬褒章を2回、受勲している。

 ところが内柴氏は2011年、準強姦容疑で警視庁に逮捕された。14年には最高裁で上告が棄却され、懲役5年の実刑判決が確定した。その結果、紫綬褒章は2回分とも褫奪された。

「そもそも『瑞宝章』は公務員が対象の勲章ですから、渡し方も各省庁などに一任しているのが現状で、私どもは把握していないのです。褫奪も私どもが行うことは考えにくく、勲章を渡したところが没収も行うことになるのではないかと思います」(同・賞勲局)

 そこで経済産業省に取材を依頼し、「どうやって瑞宝章を渡しているか」を訊いた。

「コロナ禍以前は、基本的に大臣にお渡しをお願いしておりました。対象者も少なくないので、代表者を決めて渡していました。ただ、大臣は多忙なことが多いので、副大臣や政務官にお願いすることも多かったですね」


■自宅で没収!?


 叙勲の対象者はOBが多い。高齢で、東京都に在住していない場合も珍しくない。

「地方にお住まいの方は、授与の機会に間に合わなくても、東京に向かう機会があれば、庁舎に寄ってもらうこともありました。お住まいの自治体に授与をお願いしたこともあります。また関係団体に席がある方は団体で授与してもらったりしていました。しかし、これもコロナ禍で変わりました。今は関係者がご自宅に届けているようです。大変に貴重なものなので、郵送は厳禁だからです」(同・経産省)

 郵送厳禁のルールは、没収にも当てはまる。実刑が確定した叙勲者の家に電話し、「勲章を返送してください」とは絶対に言えない。

「褫奪が必要な状況になりましたら、省にどんな資料が残っているか探します。詳細は申し上げられませんが、かつて経産省でも褫奪が行われたことはあったようです。交通事故の裁判に関連して、これまで勲章について取材依頼があったのは事実です。まだ何も決まっていませんが、私どもが没収に向かうのか、他の関係者に依頼するのか、ということになるのかもしれません」(同・経産省)

 経産省の職員なのかは分からないが、誰かが飯塚被告の自宅に向かい、瑞宝重光章を“没収”する可能性は高そうだ。

 必要な仕事とはいえ、想像してみると、なかなかの光景だ。「すまじきものは宮仕え」という格言も浮かんでくる。

デイリー新潮取材班

2021年7月20日 掲載

関連記事(外部サイト)