不倫略奪婚した男の苦悩 あの日感じた妻に対する疑念、前夫と今も繋がっているのでは

不倫略奪婚した男の苦悩 あの日感じた妻に対する疑念、前夫と今も繋がっているのでは

妻は今も前夫と?和哉さんの疑念はぬぐえない

「一世一代」の恋をして略奪婚をした男が、結婚生活20年にして、再度「一世一代」の恋に落ち、苦しんでいるという。自分を取材してほしいとメールをもらった。一世一代が何度もあるのかと思いながらも、メールの文章に温かみがあり、自分を客観的に見ながらのユーモアセンスもありと、人間味にあふれていたので話を聞かせてもらった。【亀山早苗/フリーライター】

 話を聞いたのは某繁華街のカラオケボックスだ。人に聞かれたくない話のときはインタビュー場所によく使う。

 カラオケボックスの1階エントランスで待ち合わせた相手は、高橋和哉さん(51歳・仮名=以下同)。座って待っていた私の元へ一直線にやってきた彼は、中肉中背だが体は締まっている。Tシャツにブルゾン、ジーンズという軽装、どこといって目立つファッションではないのだが、身のこなしがきれいで、周りから「爽やかオーラ」が漂っていた。

 ボックスへ出向くと、彼がオーダーした飲み物は「クリームソーダ」だった。

「なんだかね、こういうところへ来ると頼んじゃうんですよ。子どもの頃を思い出すのかなあ。いちばん平和だった時代ですから」

 とある地方都市の出身で実家は兼業農家だった。妹がふたりいる長男だが、彼が大学進学のために上京したときに「親は自分をあきらめてくれた」そうだ。両親は健在で、2歳下の妹一家が一緒に住んでくれている。5歳下の末妹は夫の転勤で、現在はアメリカに住んでいるという。

「うちはお金がなかったので、大学時代は奨学金と家庭教師のアルバイトでしのぎました。理系だったので遊んでいる暇はなかったなあ。まじめに勉強していましたよ」

 成績優秀、教授からの推薦もあって大学院進学も考えたが、「これ以上、苦学するのはむずかしい」と判断、就職した。職場でも「先輩たちにかわいがってもらった」と彼は真顔で言う。まじめで一生懸命、ふわりとした雰囲気もありながらユーモアもあるとなれば周りに愛されるに違いない。仕事も人間関係も順調だった。そして27歳のとき、彼は恋をする。

「僕にとっては初めての恋だったんです。高校生の頃、淡い恋をしたことはありますが、学生時代も就職してからもつきあった女性はいなかった。そんな時間も労力もないと自分では思っていたけど、単に好きな人が出てこなかったということなんでしょうね」

 だが初めての“大人の恋”は、相手が悪かった。職場の4歳年上の先輩、レイコさんで、結婚して3年の人妻だった。

「部署もフロアも違うので最初は存在を知らなかったんですが、その後、彼女の異動で同じ部署になって。一緒に仕事をしていくうちに彼女の存在が僕の中でどんどん大きくなっていった。でも既婚者ですからね、どんなに好きでもどうしようもないと思っていました」

 ところが何があるかわからないのが男女の仲。いつしか思いが交差して、彼はレイコさんと恋仲になってしまう。

「こんなこと言っていいかどうかわからないけど……。性のことをすべて教えてくれたのがレイコだったんです。それで僕はすっかり彼女に夢中になってしまいまして」

 照れて口ごもりながら和哉さんはそう言った。27歳にして一気に心身に火がついたのだろう。半年ほど密かにつきあっていたが、「今夜、彼女は夫と一緒に寝ているのだろうか」と考えるといても立ってもいられなかった。そして彼はレイコさんの夫に会いに行った。

「レイコの許可を得ないまま、レイコのダンナさんの会社に会いに行って、『僕とレイコさんはつきあっています。結婚したいんです』と叫んで……。いきなり殴られました。薄々、妻の不倫に気づいていたようです。のこのこ来やがってとも言われました」

 歯が2本折れた。だが彼はめげなかった。何があってもレイコさんと添いたかったのだという。1年後にレイコさんは離婚した。

「レイコのダンナさんはいい人で、彼女の気持ちが鎮まるようなら結婚生活を続けたいと思っていたそうです。でも反対されればされるほど燃えるのが不倫ですからね。結局、僕らの熱は冷めず、彼もあきらめるしかなかった。慰謝料も請求されませんでした。『人の気持ちに金額はつけられねえだろ』と言ってくれて……。その言葉に僕は泣きました」

 ただし、当時4歳だった息子は、夫が引き取った。レイコさんはそのことでひどく落ち込んでいたという。

「僕はそこをうまく慮ることができなかったと今は思います。彼女と結婚できるのがうれしくて、母としてのレイコの気持ちは考えられなかった」

 レイコさんとの結婚は社内的にあれこれ言われるだろうと考え、離婚した時点でレイコさんは転職し、その1年後にようやく結婚した。彼は30歳になっていた。

「僕たち、彼女の元の自宅からそう遠くないところに住んだんです。夫のところに残してきた息子と会いやすいようにしてほしいと彼女が言うので。僕としてはレイコの前夫の心意気に感謝していたから、そのことに異論はなかったんですが、前夫にとってはおもしろくなかったかもしれませんね」


■妻は今も前夫と?ぬぐえない疑念


 レイコさんとの結婚生活は、一言でいえば「幸せだった」という。結婚してほどなくして産まれた娘はかわいかったし、前夫との間の男の子も、いつしか和哉さんに慣れて「おじちゃん」と懐いてくれた。それはひとえに前夫の器の大きさのおかげだと、彼は今も感謝している。

「ただ一点、疑問があるとしたら……」

 そう言いかけて、彼は黙り込んだ。じっと待っていると、「これは僕の憶測というか、嫌らしい性格のせいかもしれませんが」とつぶやいてまた黙る。近くのボックスから、ノリノリの今どきの歌が流れてくるが、彼は微動だにしない。沈黙に疲れたのか、彼がぽつりと言った。

「たぶん、レイコと前夫は離婚後も会っていると思う。娘は前夫の子かもしれません。確証はないし、証拠もいらないけど、これは僕のカンです」

 カンとは? ある日ふっと天から降ってきたものなのか、あるいは何らかの裏付けになりそうなものがあってのものなのか。

「今でもはっきり覚えているんですよ。娘が3歳の誕生日を迎える前日。妻と関係をもったら、何かが違っていた。それまでもそう思ったことが何回かあったんです。でもその日ははっきりわかった。妻の体の“中”が変わっている、と。その日は金曜日で、僕はたまたま代休をとっていたけど、妻に言うのを忘れていた。朝、そう言ったら『午後から息子に会う約束をしている』と。じゃあ、連れておいでよと言ったんですが、息子にどこそこのハンバーグを食べさせる約束をしたと言うんです。じゃあ、僕が娘を見ているから行っておいでと送り出しました。レイコは帰ってきてから『ありがとう』と喜んでいたから、僕はまったく疑っていなかった。でも夜になってそういうことがあって、昼間、きっと前夫に会っていたのだろうと思ったんです」

 まるで昨日のことのように和哉さんは苦しそうに話した。前夫は結局、ずっと独身を貫いている。それもレイコさんという存在があるからではないかと和哉さんは思っているのだそうだ。だが、もちろんそれをレイコさんに問い質したことはない。ただ、あの日の違和感はそれからもずっと心の隅に巣くっている。

「娘が小学校に上がってしばらくたってから、レイコもパートで働き出したんですが、昼間、前夫に会ったりしているのかもしれません。疑えばキリがないですけどね。ただ、あの日はたまたま昼間は前夫と、夜は僕と、彼女にとっては想定外だったんじゃないでしょうか」


■和哉さんの新たな恋


 いつか妻を再び前夫にとられるかもしれない。そんな不安を抱えながらも、和哉さんは略奪した妻を大事にしていた。それが前夫への責任でもあると感じていたからだ。

 ただ、彼自身が本当に妻をひとりの女性として、人間として「かけがえのない存在」と認識しているのかどうかが読み取れない。そこに少し悶々としたものを私が感じていると、和哉さんは“今、ある女性への思いで心がいっぱいになっている”と話し始めた。

 その女性はSNSコミュニティで知り合ったサユリさんだ。年齢は30歳。幼い双子の子どもたちを女手ひとつで育てている。西日本のある街で暮らすサユリさんを、和哉さんは一度だけ訪ねたことがある。

「知り合ったのはほんの1年ほど前です。日々、メッセージのやりとりをする中で、徐々に彼女の経歴や人となりを知るようになった。会ったのは今年になってから。たまたま彼女の住む地域に近いところに出張予定があったので、一度会いませんかと声をかけてみたんです。こんなオヤジの誘いを受けてくれると思わなかったんですが、彼女は1時間くらいならと応じてくれた。シフト制の仕事をしていて、いつも忙しくて大変なのに時間を作ってくれて……」

 彼女の仕事場の近くの落ち着いたカフェで、ゆっくりとコーヒーを飲みながら話をした。彼女に勧められて、めったに食べないケーキも食べた。ケーキってこんなにおいしいものだったのかと思ったそうだ。

「たった1時間でしたが、今まで感じたことのない安らぎとリラックス感を覚えました。私は彼女の父親のような年齢ですから、なんだか申し訳なくて。でも彼女は『お若いですよ。父親のようだなんて言わないでください』と。双子をひとりで育てるなんて大変だろうと思うんですが、彼女は明るかった。『4歳だから今は大変だけど、いっぺんに大きくなるから大丈夫です』って。素敵な女性でした」

 彼女は割り勘でと言い張ったが、「僕が誘ったのだから」と和哉さんが払った。ケーキとコーヒーをごちそうしただけなのに、彼女は何度もお礼を言った。「次は私が払いますから、もしいらっしゃることがあったら連絡くださいね」と彼女は笑ったという。

「もう少ししたらまた出張があるんです。男としての下心、もちろんあります。いや、彼女に迫ったりはしませんよ。でも彼女の笑顔が頭から離れない」

 一般的に言うと、略奪までして結婚した妻を裏切ることになるのだが……。

「妻とはここ10年ほど、男女の関係はありません。もしかしたら今でも前夫と……と思ったりもしています。でもそれはどうでもいい。妻は僕にとって大事な人です。だけど久しぶりに僕の心を揺さぶってくれたサユリさんに、思いがどんどん濃くなっている。どうにもならないとは思っています。それでもときどき胸が痛くなる。本気で人を好きになると胸が張り裂けそうに痛むものなんですね」

 妻のことを語ったときとはまったく違う、豊かな表情で和哉さんは言葉を繰り出していく。人生で2度目の恋。最初の恋は日常生活の中で色褪せていったが、新たな恋は今が最高にヴィヴィッドなのだろう。

「本当はサユリさんに軽やかに接したいし、そう心がけてはいるんです。メッセージのやりとりも実際に会っての会話も、軽く爽やかに楽しく、と。でも本音はそうもいかなくて」

 今後、どうなるかわからない関係は独身ならいざ知らず、和哉さんにとっては不安と苦悩しかもたらさない。わかっていながら重くなる自分の恋する感情を、彼は必死でコントロールしようとしていた。

「ストレス発散に一曲、どうですか」

 空気を変えるためにそう言うと、彼が真顔になった。

 彼が選んだ曲は、25年前に大ヒットした「みちのくひとり旅」だ。彼が妻のレイコさんと会ったころにも、この歌は巷で流れていたのではないだろうか。

「おまえがオレには最後の女〜」

 彼の声が裏返った。今の気持ちを表すこの歌詞を歌いたかったのだろう。立ち上がって少し離れたところで歌っている彼をふと見上げた。涙がぼろぼろとあふれ出て、頬を覆う真っ白なマスクに吸い込まれていくのが見えた。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月21日 掲載

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