デルタ株は弱毒化している? 医師は「普通の風邪のような症状」…死者、重症者は減少

デルタ株に弱毒化の可能性指摘 英では死者が減少し死者数減らす方針に大転換し支持

記事まとめ

  • 「デルタ株はむしろ弱毒化しているのではないか」と京都大学の宮沢孝幸准教授が指摘
  • 味覚障害や嗅覚障害という症状が減り、最も多い症状は頭痛と風邪のような症状が増加
  • 英では新規感染が1日5万人を超えても死者はあまり増えず、死者数を減らす方針に転換

デルタ株は弱毒化している? 医師は「普通の風邪のような症状」…死者、重症者は減少

デルタ株は弱毒化している? 医師は「普通の風邪のような症状」…死者、重症者は減少

状況はたしかに改善され

「英国の状況を見ると、デルタ株はむしろ弱毒化しているのではないかと思う」

 と、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授は言う。一つは、

味覚障害や嗅覚障害という症状が減り、普通の風邪のような症状が増えているといいます」

 事実、現地の研究者たちの調査でも、最も多い症状は頭痛で、のどの痛み、鼻水、発熱がそれに続き、咳は5番目。一方、嗅覚障害はトップテンにも入らないという。宮沢氏が続ける。

「英保健省は、デルタ株はアルファ株(英国株)より症状が出やすく、入院リスクも高いといいつつ、“現段階では”という留保をつけている。現在、アルファ株に対して免疫がある人は多い反面、デルタ株に対する免疫はまだないので、現時点では、感染すれば重症化しやすいという意味だと思います。アルファ株の流行時と現在をくらべてください。英国の新規感染者数は、7月15日に4万7891人で、最新の入院患者数は、7月14日時点で3231人。同じくらい感染者がいた日を過去に探すと、昨年12月29日は5万3135人で、そのときの入院患者数は2万2544人。単純計算で、現在はその7分の1以下で、普通に解釈すると、アルファ株のほうが強かったのだと思います」

 ワクチン効果もあってのことだが、英保健省も「感染率の上昇が入院や死亡の増加につながっていないのが心強い」と記している。

 東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏は、

「現在、世界各国でデルタ株の感染者は増えています。感染力が強いのはたしかで、6月29日に開かれた厚労省の会議では、国内感染力は従来のウイルスの1・95倍という推定結果が公表されました」

 と言いつつ、指摘する。

「しかし、生物学的な観点からいえば、2倍程度の感染力の変異は、それほど珍しくなく、これまでの感染症対策の延長線上で、十分に対応可能な範囲。ワクチンが普及しつつあることを考えれば、恐れすぎる必要はないです。またデータを見ると、65歳以上の感染者数が明らかに抑えられています。ワクチン接種率が低い50代以下で感染者が増えても、重症化したり死に至ったりする高齢者を守る体制が整い、効果が出始めている。その証拠に、東京都の新規感染者数は1日千人を超えても、死者数や重症者数は減少傾向にあります」

 続いて視線は英国に向き、

「1日の新規感染者数が5万人を超えても、ワクチンのおかげで死者があまり増えないので、今月19日にコロナ関連の規制を撤廃。ジョンソン首相は感染者数を減らす方針から、死者数を減らす方針に大転換し、国民も支持しています」

 片や日本は、感染者数に一喜一憂し続けているが、

「日本にも、英国のような一大政策転換が求められる時期が迫っていると思う」

 と唐木氏。東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授も、こう説く。

「重症者数が増えない要因の一つは、ワクチンの効果でしょう。以前とくらべて医療機関や高齢者施設でのクラスターが減っています。重症化する人は高齢者が多く、東京都で亡くなった方の約半数は、医療機関や高齢者施設での感染といわれるので、そこが減ったのは大きい。高齢者を中心にワクチン接種が進んでいるので、今後は感染者数より入院者数、重症者数に重きを置くのがいいと思います」

 供給中止などの混乱はあっても、今後、ワクチン接種率は高まる一方だと考えられる。「デルタ株は怖い」という根拠のない煽りに、踊らされないことである。


■飲んではいけない薬はない


 だが、ワクチンを接種してホッとしている人に向かって、「接種後、飲んではいけない薬」を列挙し、不安を煽る報道もあるので、その真偽を明らかにしておきたい。結論を先に言えば、

「接種後、飲み続けていけない薬など、一つもありません。飲まないと、むしろ持病を悪化させるなどの危険性があります」

 と、浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫医師は指摘し、続ける。

「トランサミン(トラネキサム)という止血剤を飲むと血栓ができる、という報道があるようですが、こうした止血剤と、日本で打っているmRNAワクチンとの関係など、聞いたこともありません。リマチル(ブシラミン)などの免疫抑制剤を飲んでいると、たしかに、ワクチンの効果が少し落ちるかもしれません。しかし、免疫抑制剤を飲むような方は、膠原病や移植後など、コロナにかかると重症化しやすい基礎疾患がある方が多い。そういう方こそワクチンを打つ必要があるのです」

 寺嶋教授も言う。

「トランサミンは、アストラゼネカやJ&Jのウイルスベクターワクチンの場合、ごくわずかな頻度で、血小板減少を伴う血栓症の副反応が指摘されています。しかし日本で接種されているmRNAワクチンでは、血栓傾向を高める副反応は指摘されていません」

 埼玉医科大学の松井政則准教授が補足するには、

「アストラゼネカのワクチンも、血栓症の発症は10万〜25万回に1回程度と報告されており、非常に稀な副作用であることを、言い添えておきたいです」

 寺嶋教授が続ける。

「次に、リマチル、リウマトレックス(メトトレキサート)、ブレディニン(ミゾリビン)といった免疫抑制剤に注意すべきだ、という報道についてです。一般に免疫抑制剤を服用するような持病がある人は、重症化リスクが高いのでワクチン接種が推奨されます。そういう持病がある人、免疫抑制剤を飲んでいる人は、ワクチンによってリウマチや膠原病が悪化する、ということも言われていません」

 免疫抑制剤を飲んでいると、一般の人よりは免疫がつきにくい可能性はあるという。しかし、

「重症化リスクを考えれば2回のワクチン接種が推奨されます。リウマトレックスについては、ワクチンを接種してから1週間は、服用を控えたほうがいいといいますが、でも、必要だから服用しているわけで、飲むのをやめるとリウマチや膠原病が悪化するリスクがある人は、継続して飲んだほうがいい。病状が落ち着いていて、飲むのを休んでも支障がない人は、休んだほうが免疫はつきやすいようなので、主治医に相談するといいでしょう」

 少なくとも、飲み続けると健康を害することだけは、ないというのだ。松井准教授が加える。

「“ワクチンを打ったあとに免疫抑制剤を飲むと、効果を打ち消し合い、注射の意味がなくなってしまう”という報道がありましたが、大きな間違いです。これを鵜呑みにして薬の服用をやめたり、ワクチンを打たなかったり、ということは絶対にしないでください。たとえば、リウマチ学会のHPにも書かれていますが、免疫抑制剤を減量したり中止したりすれば、リウマチ性疾患が再燃する恐れがある。これこそ避けなければいけない事態です」


■「厚労省が忠告」のウソ


 寺嶋教授が続ける。

「続いてワーファリン(ワルファリンカリウム)、プラザキナ(ダビガトランエキシラート)、リクシアナ(エドキサバントシル)といった抗凝固剤も、服用に注意が必要だという報道についてです。こうした抗凝固剤を飲む人は、心筋梗塞や脳梗塞になりやすいとか、もともと心臓や血管の病気があるという人です。重症化リスクが高いと予想されるので、ワクチン接種を勧めます。血栓予防のための薬の服用を、ワクチンを打つからといってやめないでください。血液を固まりにくくする薬なので、注射後に注意する必要があるとはいえ、現実には、今回使用されている針は細く、接種後2分以上は圧迫止血するように言われています。十分な止血をすれば、出血が止まらなくなったり、重篤な副反応が出たりすることは、ごく稀でしょう」

 松井准教授が補う。

「ワーファリンなどの抗凝固剤は、血液をサラサラにする作用があるので、ワクチン接種後は服用を避けるように厚労省が忠告している、という報道があります。しかし、厚労省のHPには“(ワクチン)接種後の出血に注意が必要”とあるだけで、“接種にあたって休薬の必要はない”と書かれています」

 誤った情報や風説を真に受けると、むしろ持病が悪化し、時に命にもかかわるから、注意が必要である。

「こうした報道に接し、患者さんが必要な薬をやめてしまうのが一番危険」

 と矢野医師は忠告する。冷静な視点、合理的な判断が、あらためて求められる。

「週刊新潮」2021年7月29日号 掲載

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