抗体カクテル療法で自宅療養を…日本は世界で最初にコロナをはやり風邪にできる国

抗体カクテル療法で自宅療養を…日本は世界で最初にコロナをはやり風邪にできる国

インド由来の新型コロナウイルス変異株の電子顕微鏡写真(国立感染症研究所提供)

 世界の新型コロナウイルス感染者数は8月に入り2億人を超えた。各国でワクチン接種が進んでいるものの、デルタ株などの変異ウイルスの感染拡大が続き、収束の見通しが立たなくなっている。

 デルタ株が感染力が強いとされてきたが、米米疾病対策管理センター(CDC)は7月下旬にその詳細を明らかにした。それによれば、デルタ株感染者1人が平均8〜9人に感染させるという。さらにワクチン接種者でもデルタ株に感染すると体内に未接種者とほぼ同等のウイルスを生み出すことが判明した。このことはワクチン接種者であっても未接種者と同様にウイルスを拡散する可能性があることを意味する。

 一方、ワクチン接種者の死亡率は0.001%未満、重症化率は0.004%未満である。この数字は季節性インフルエンザと同じレベルであり、ワクチンを打てば新型コロナウイルスのリスクは「はやり風邪」と同等になる。しかし感染の防止効果は高くないことから、ワクチン接種が行き渡るまで感染拡大が医療体制逼迫の原因となるだろう。

 感染者が急増したことから、東京で4回目の緊急事態宣言に追い込まれた。都内の病院関係者によれば、入院してくる患者の約3割がワクチンを接種しており(8月4日付ロイター)、日本でもデルタ株の「ブレークスルー感染」が猛威を振るい始めている。

 東京を始め全国の感染者数が急拡大する中、政府は2日「新型コロナウイルスの感染が急拡大している地域では入院対象を重症や重症化リスクが高い患者に重点化し、それ以外は自宅療養を基本とする」方針に転換した。

 この方針転換について、与党を始め関係各方面から「受け入れられない」との批判が上がっているが、欧米諸国ではこのような対応が当たり前である。「軽症者まで入院させるのは過剰対応であり、医療逼迫の原因になっている」というのが専門家の見解である。

「東京都を始め感染拡大地域で再び病床数が不足し始めている」との報道がなされているが、欧米よりも桁違いに少ない感染者数で医療体制が逼迫するのは、患者の受け皿となる病床の確保が進まないという構造的な問題が改善されていないからである。

 東京都が確保したコロナ対応の病床は約6000床だが、その5倍の空き病床(約3万床)がある。空き病床が有効利用できない理由として、200床未満の中小病院が多く、病床が分散していることが挙げられる。

 感染症病床は全国で約3万6000床となり、パンデミック前の18倍になったが、1病院当たり10床未満の病院が少なく、病床の集約化が進んでいない。

 医療機関の間の役割分担も不明確なままであることが災いして、医療機関がコロナ患者を受け入れる病床の確保に必要な費用などに充てる「緊急包括支援交付金」のうち約1兆5000億円分が未消化である。

 統計上では病床数に余裕があるのに一部の病院から「ほぼ満床状態にある」との悲鳴が上がっている背景には「政府の補助金を受けて病床を確保しながら、積極的に患者を受けない病院がある」との指摘がある(7月31日付日本経済新聞)。

 日本の医療体制は有事に機能しない状態のままなのだが、その流れが変わる可能性が出てきている。軽症、中等症層向けの治療薬が初めて承認されたからである。

 厚生労働省は7月19日、中外製薬が提供する点滴薬(抗体カクテル療法)の製造販売を特例承認した。海外の治験では重症化や死亡のリスクを7割減らす効果があり、デルタ株にも有効であるとされている。

 昨年11月から使用を始めた米国では、軽症、中等症で入院していない患者への適用が一般的であるが、日本では命に関わるアナフィラキシーという副反応のリスクがあることなどの懸念から、投与は入院患者に限られている。

 投与が始まっている東京や大阪の病院で「発症後早期に投与すると効果が高い」ことがわかっており、国は年内に20万回分の調達を予定しているが、既に2000超の医療機関が使用希望の登録をしたと言われている。

 墨田区では抗体カクテル療法を受けられる区民向け入院枠を20床確保したが、同区とは異なり医療キャパシテイーに余裕がない地域ではこのような対応は難しい。

 菅首相は3日、日本医師会の中川会長と面会し、新型コロナウイルス感染者への医療提供体制を強化するよう要請した。これに対して中川氏は「特に自宅療養への対応に重点を置いた体制整備を進めている」と答えたが、喫緊の課題は「抗体カクテル療法の自宅療養での早期実現」ではないだろうか。

 点滴には最低20〜30分かかり、投与後に重い副作用が生じないかどうかの経過観察も求められる。点滴、経過観察に移動の時間を含めると、1人当たりの治療に数時間を要するとされている。患者が1カ所に集まっている宿泊療養施設から抗体カクテル療法を解禁するほうが現実的であるが、地域の医療機関が協力して訪問医療・看護を担っている医師や看護師をバックアップすれば、自宅療養での早期実現も夢ではない。

 7月下旬時点で2回目の接種を終えた医療従事者数は約570万人、当初想定の480万人を超える人が接種を受けた現在、診療所へのコロナ患者の受け入れは無理だとしても、自宅療養の患者への点滴などの医療行為は一般の医師なら誰でも対応できる。

「誰もが風邪を引いたら医療機関にアクセスできる」という平時の日本の医療体制の強みが発揮できれば、日本は世界で最初に新型コロナウイルスをはやり風邪にできる国になれると筆者は信じている。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月6日 掲載

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