事件現場清掃人は見た 20年前の初仕事はたった15分で終了、逃げ出したも同然だった

 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、初めて事件現場を清掃した時の話を聞いた。

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 特殊清掃は、床に染み込んだ、亡くなった人の体液などを除去する過酷な仕事である。どんな経緯で始めたのだろうか。

 高江洲氏が初めて特殊清掃を手掛けたのは、今から20年ほど前である。

「当時、私は一人でハウスクリーニングの仕事をしていました。ある日、知人の葬儀会社の社長から、仕事の相談を持ち掛けられたのです」

 と語るのは、高江洲氏。

「社長は、『実はね、ちょっと変わった現場が何件かあるんだけど、やってみないか?』と言うのです。変わった現場というのは、まさに事件現場のことでした」

 当時は、孤独死や自殺があった部屋を清掃する専門業者はいなかったという。


■きつい口臭にも似た


「社長は、私の様子をうかがいながら『汚れた畳は撤去してあるから、たいしたことはない。消毒だけしてくれればいい。ただ、ちょっと、臭いが……』と。私はすぐに嫌悪感を抱きました。他人が亡くなった部屋へ行って、清掃すると考えただけでも、ぞっとしました。心底恐いと思ったものです」

 高江洲氏は乗り気ではなかったが、改めて考えてみた。

「人が亡くなった部屋を片付けるという仕事は葬儀会社もやっていないのなら、一定の需要があるのではないか。私がやりたくないのだから、他の業者だってやりたくないはずだ。これはビジネスチャンスと思えばいい……」

 問題の現場は引き受け手がなくて、社長は困り果てていたという。

「消毒さえすればいいからそんなに大変な仕事ではないのかもしれない。社長を助けるつもりで試しにやってみることにしました」

 仕事を引き受ける旨を社長に告げたところ、

「うれしそうに私の手を取り、現場の説明をしてくれました。亡くなったのは60代の男性で、死後2週間経って発見されたそうです。病死でした。一人暮らしで、息子家族は海外で暮らしているといいます」

 高江洲氏は、緊張しながら現場へ向かった。普通のマスクだけ付けていたという。

「部屋に入ると、強烈な臭いが鼻につきました。死臭というのがこれほどきついとは知りませんでした。あの臭いをなんと形容したらいいのか。肉が腐ったのとも、魚が腐ったのとも違う、独特の臭いです。犬や猫の遺体の腐敗臭とも違います。きつい口臭にも似た、脳にまで届くような臭いです」

■吐き気を覚えた


「男性が倒れていた和室に近づくほど増してくる強烈な死臭に、気分が悪くなり、吐き気を覚えずにいられませんでした」

 部屋は、社長が言った通りすでに遺品が整理され、畳も撤去されていた。

「ただ、周囲を見回すと、亡くなった男性が倒れるときに頭を強くぶつけたらしく、壁にはかなりの血痕と毛髪が残っていました」

 高江洲氏は恐る恐る、消毒作業を始めた。

「なるべく血痕を見ないように、用意した消毒剤をスプレーで吹き付けていきました。部屋の隅々まで薬剤を吹きつけ、消毒は完了しました。要した時間はたったの15分ほどでした」

 もっとも、一刻も早くこの現場から逃れたい一心で、臭いが完全に除去されたか確認もせずにそそくさと部屋を後にしたという。

「まったく情けなくなるような仕事ぶりです。当時は、死臭を消すノウハウもありませんでした。臭いも残ったままだったと思います。これでは特殊清掃とは言えません。今から思えば、本当に恥ずかしい話です」

デイリー新潮取材班

2021年8月16日 掲載

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